2019年2月

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

式地涼

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「君の名は」 新海誠 角川文庫

2016年に大ヒットした映画の小説版。
映画が非常に有名なため、物語についてはここで紹介するまでもないのかもしれませんが… 。

映画でストーリーを知っていても、文字で見ると想像の分だけ表現の幅が広がるので、また違った印象を受けることがあります。まだ映画を観られていない方にはもちろんのこと、映画は観たけど小説はまだ…という方にも是非。

都会に憧れる田舎町の女子高生・三葉と、東京で暮らす男子高校生・瀧。
それぞれが自らの生活に葛藤しながら生きる中、互いに夢の中で入れ替わるという不思議な現象が起こり… 。ただの男女の純愛物語という感じではなく、彼らのまっすぐな強い意志や すれ違いによる切なさを、現実と非現実の狭間で鮮明に描いているのが、僕にとって大好きな物語である理由のひとつです。

物語の中で個人的に注目してほしいのが、舞台として出てくる糸森町(ヒロインの住む町)が土佐町と どことなく似ている点です。 湖のほとりにあり、周囲を山々に囲まれた小さな町。 町全体に防災無線が整備されていたり、唯一のコンビニが24時間営業でなかったり、少し癖のある方言が使われていたり。

また、田舎町ならではの伝統や人間関係など、町の情景が克明に描かれていて、都会に憧れるヒロインの目線でイメージしやすいかなと思います。 男女が入れ替わるという壮大なファンタジーではありますが、この町でもどこかで…、だれかと…。そんな素敵な作品です。

式地涼

 

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読んでほしい

高峯神社への道 その1

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これは高峯神社の守り人、筒井賀恒さんと一緒に、高峯神社への道しるべを辿った記録。

今日は「地図上1」の場所にある石碑についてのお話です。

 

(「高峯神社への道 はじめに」はこちら

 

もう数え切れないほどこの場所の前の道を通ったことがあった。何度もこの場所を見てきたはずだった。

でも私は何も見ていなかった。

この場所に、高峯神社への道しるべが建っていたなんて今の今まで全く気づかなかった。

 

「三宝山道」

ここは土佐町地蔵寺地区、相生橋のたもと。

これは高峯神社への最初の道しるべ。
これから先の道々にあるいくつかの石碑を順番に辿っていくと、あの高峯神社へ着くという。

石碑が作られたのは今から200年以上前のこと。

 

石碑の右側にはこう書いてある。「従是 右 平石通 一里三十丁    左 石原通 二里八丁」

この石碑がある場所は、右の道を行ったら平石地区方面、左の道を行ったら石原地区方面へ向かう道の分岐点。

石碑の上には石の階段が何段かあり、山の中の道へとつながっているようだ。しかし、草や木に覆われていて道が続いているのかいないのか、全く先が見えない。

昔は今のような舗装された道路はないので、昔の人は山の中の道を歩いて高峯神社へ向かったそうだ。歩く人がいなくなって今は草だらけになっているけれど、その道はまだ存在しているのだと賀恒さんは教えてくれた。

「昔の人が歩いた道を見たら、まあ感心するろうと思う」
賀恒さんはそう言った。

 

この場所からは、まだまだ遠い高峯神社。

ここから高峯神社への道が始まる。

 

(「高峯神社への道 その2」へ続く)

 

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私の一冊

藤田英輔

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「何の因果で」 ナンシー関 角川文庫

帯もカバーも失くした。表紙はたしか、てんこすの髪がない、江戸時代の成人の印であった月代(さかやき)状の中年男性の横顔のUPだったような気がする。
と、思いながら読み直していると見つけました。

178ページの消しゴム版画です。(ナンシーさんは消しゴム版画のスペシャリストです)きっとこれです、この文庫のカバーの絵は!何と32才だったんですね。

これを見ていて思った。

 

「カツラの僕的考察」

カツラ(長女ではない、この場合)を帽子にしてしまえば良いのではないか?(*編集部注:英輔さんの長女さんのお名前は「カツラ」さんといいます)

暑い日や外から帰った時など、さっと脱いで冷水を含ませたり、衣紋掛けに引っ掛けたり、夏にはメッシュで、冬には文字通り毛のカツラに、など、バリエーションが広がり楽しそう。

実際、髪が薄くなると季節の移ろいに鋭敏になる。
太陽の熱や雨の降り始めに早く気づく利点があるよ。(それがどうした?)

181ページの文章も納得です。この人の“表現”をもっと見たかったよお。

藤田英輔

 

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くだらな土佐弁辞典

かまん

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 かまん

【承認・許可】

〜してもいいか?

〜してもいい

▼例文

「後でかまん?」

「かまん、かまん」

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私の一冊

藤田純子

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「がばいばあちゃん 佐賀から広島へ めざせ甲子園」 島田洋七 集英社

ある夕ご飯の席のことだった。「ばあちゃん、ここ2,3日ご飯ばっかりでおかずがないね」。
俺がそう言うと、ばあちゃんはアハハハハハハ…と笑いながら「明日はご飯もないよ」と答えた。
俺とばあちゃんは、顔を見合わせるとまた大笑いした。今から40年ほど前の話である。
(中略)
「今、世の中はひどい不景気だ」とみんなは言うけど、何のことはない、昔に戻っただけだと俺は思う。変わってしまったのは人間の方だ」と続く。
(これはこの本の始まりの文章)

 

いきなり笑ってしまった。ばあちゃんの晴れ晴れとした、笑っちゃうような貧乏生活の知恵と名言。幼い昭広少年とばあちゃんの生活をユーモアたっぷりに書かれた本当のお話です。

「お金がないと幸せになれないの?そんなことはない。心のあり方が大切だよ」

この本を読んで、その通りだと納得しました。

清々しさや明るさがあり、自然と前向きにさせてもらえる力強さもある。

是非おすすめの一冊です。

藤田純子

 

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土佐町ポストカードプロジェクト

2019 Jan.

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栗木 権現の滝 | 上土井亘

 

土佐町の滝といえば「アメガエリの滝」が有名ですが、個人的には栗木の「権現の滝」も名滝だと思います。サイズ感とプロポーションがとても良い。上から見ると滝壺が星型に見えるそうです。滝壺の水も季節を問わず澄み切っています。

「権現の滝」の名前の通り、昔からここは権現さまの住む場所で、正式名称は「三樽権現の滝」といいます。

寒い冬の最中に、上土井亘くんと一緒にお参りしてきました。

 

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私の一冊

石川拓也

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「WOMEN 」 Saul Leiter スペースシャワーネットワーク

ソール・ライター(1923-2013)はアメリカ・ニューヨークの写真家です。2006年シュタイデル社から出版した写真集「Early Color」によって、83歳にして「衝撃の世界デビュー」を飾ったと言われています。

ちょっと本から話が逸れますが、ドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」も日本で公開された際に大きな話題になりました。この映画は、個人的に懇意にしていただいている翻訳家・柴田元幸さんが字幕を担当されていて、何年か前に東京の六郷でコーヒーをご一緒した時に、柴田さんが「今こんな仕事をしているんだ」と教えてくれた思い出があります。

この本はそのソール・ライターが親しかった女性たちをモノクロで撮影したもの。決定的瞬間でもなく派手な演出もない写真ですが、日常の愛おしさが溢れている写真集です。

写真は、しばしば重要な出来事を取り上げるものだと思われているが、実際には、終わることのない世界の中にある小さな断片と思い出を創り出すものだ ーソール・ライター

 

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あなたは高峯神社に行ったことがあるだろうか。
まだ行ったことがないのなら、ぜひ行ってみてほしい。

 

風渡る高峯神社。
向こうの谷の間から、遠くの山々の嶺から吹いてくる、凛とした風。

本殿へと続く苔け蒸した参道の前に立つと、枝々の間を通り抜けた木漏れ日がちらちらと揺れ、朝露を含んだ苔が静かに自ら光を放つ。

 

鳥居をくぐり、一段、一段を登る。
木々のどこかに隠れているのか、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。遠く向こうから聞こえるような、それでいて耳元でささやくような音は、木の葉たちが揺れる音。

境内へ向かう階段の両脇に立つ石灯篭には、かつてこの神社へ寄付をした人の名前が刻まれている。

はるか遠い昔にこの石段を登ってきた人たちも、きっとこの風を感じながらここに立っていたのではないだろうか。

その人たちの気配をそばに感じる。

歴史は繰り返されている。

 

本殿を見上げながら、靴を脱ぎ、ぎし、ぎし、ぎし、ときしむ音を聞きながら木の階段を登る。
青銅色の冷たい床の上に正座し、呼吸を整える。

ここには神様がいると思う。

 

ガランガラン、ガランガラン。

静寂の中に鈴の音が鳴り響く。

この音は私にとって特別だった。
ここは初心に帰る場所。

 


 

 

これは、土佐町の地図。

この地図の左下に「芥川」という地域があります。土佐町の中心地である田井から、車で約50分。

「高峯神社」はこの芥川にあります。

とさちょうものがたりでは、今まで高峯神社についての記事をいくつか掲載してきました。

 

 

この高峯神社をずっと守り続けてきた人がいます。

筒井賀恒さん。昭和8年生まれ、85歳。

 

高峯神社のことについて知りたかったら賀恒さんに聞いたらいい、と黒丸地区の仁井田亮一郎さんが教えてくれました。賀恒さんは、70年間ずっと高峯神社のお世話をしてきた人だから、と。

初めて賀恒さんを訪ねた日、賀恒さんは家の前で待っていてくれました。約束の時間のずい分前から、今か今かと家の前の道を行ったり来たりしながら待っていてくれたようでした。笑うと目尻が下がる、話したいことをたくさん持っている人だということがわかりました。

 

会ってすぐ挨拶もそこそこに「道案内からしようか?」と賀恒さんは言いました。
賀恒さんは、最初から高峯神社を案内するつもりでいてくれたのです。

「高峯神社までの道しるべがあるよ」

賀恒さんはそう言いました。

 

道しるべ!!

まさかそんなものがあるとは夢にも思っていなかった編集部。その場で「ぜひ教えてください!」と賀恒さんにお願いしたのでした。

 

そして、賀恒さんとの高峯神社への旅がスタートしたのです。
それは、とさちょうものがたり編集部が、高峯神社へのまなざしを深く持ち直すための旅でもありました。

 

 

高峯神社への地図

 

この地図は高峯神社までの道を描いています。土佐町の地蔵寺からスタートし、芥川の高峯神社まで。地図上の数字は、今から200年ほど前に作られた高峯神社までの道しるべ(石碑)のある場所です。

賀恒さんは、地図上の1〜7の石碑と高峯神社を案内してくれました。

石碑のひとつずつ、そして高峯神社を順番に紹介していきたいと思います。

 

(「高峯神社への道 その1」へ続く)

*道しるべの存在を教えてくれた筒井賀恒さんの記事はこちらです。

筒井賀恒 (東石原)

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私の一冊

鳥山百合子

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「くろて団は名探偵」 ハンス・ユルゲン・プレス著, 大社 玲子訳 岩波少年文庫

確か4年ほど前だったでしょうか。この本と出会った時の驚きを何と言い表したらいいのでしょう。
本屋さんの児童文学コーナーをうろうろしていた時、目に入ったこの表紙。

「あ!」

思わず出た自分の声に驚きながら、この本を開きました。

「やっぱり!」

確かに見覚えがありました。何度も何度も読んだ、私が大好きだった本でした。

「くろて団は名探偵」との初めての出会いは小学生の頃。学校の図書室にあったこの本が、図書室の本棚のどこにあったかまでも覚えています。図書室にあったものはハードカバーで、これよりもふた回りほど大きな本でした。

今でいう「ゲームブック」のようなものと言ったらいいでしょうか。

お話を読み進めて行くと、いつも最後に質問があって、その質問の答えを隣のページの絵から探すのです。
2枚目の写真の絵、「さいころ形のもの」を持っているのは「かもしか薬局」の「薬剤師のハーン氏」。

ああ、懐かしい絵。
確か、秘密はハーン氏の持っている本にあったはず!!!

私はそんなことまで覚えていました。

小さい頃に夢中になったものごとは思っているよりもずっと長く、ずっと深く、その人の心の中に残っていくのだと思います。

こどもたちは幼ければ幼いほど、自らの環境をつくることはできません。そう思うと、子どもの周りにいる大人たちがどんなことを大切に思っているのかが問われるように思います。
見た目や流行、そういうことではなく、人として「本当に」大切なことは何か。

懐かしいこの本が、色々な思いを運んできてくれました。

鳥山百合子

 

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笹のいえ

ピザ屋さんがやって来た。

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宿をやっているといろんな人がやって来る。

農的自給的な暮らしを実践している人、移住先を探している人、環境への負担を考え、オフグリッドな旅をしている人などなど。県外はもちろん、海外からも笹に遊びに来てくれる。

彼らに会おうと思ったら、時間的にも金銭的にも膨大な量が必要だけど、自分の場所をオープンにすると、向こうから来てくれるのだから、これはお得すぎる。

この日は、ピザ屋さんが来てくれた。

香川県のイベントでヒトシくんと初めて会い、しばらく四国を旅すると言うので、笹にもぜひ寄って行ってよと話をしたら、翌日に来てくれた。

彼は軽トラを改造し、故郷北海道を出発。日本を旅している。荷台には小さな家が載っかっていて、自作したロケットストーブ型のオーブンとソーラーパネルで稼働する冷蔵庫がある。さらにシンクや手動で動く洗濯機、移動式のコンポストトイレまであるから暮らすように旅をすることができる。

笹に到着すると、早速オーブンに木をくべて、ピザを焼いてくれることになった。

突然現れた車に、子どもたちは大興奮。だって、詳しいことはよく分かんないけど、ヘンテコな車から大好物のピザが焼きあがって出てくるなんて、なんだかおとぎ話のようだもの。

ピザはどんどん出来上がるのだが、それ以上のスピードで僕らのお腹の中に消えていった。オーガニックにこだわるヒトシくんの作るピザは、古代小麦粉にグラスフェッドチーズ。しかも焼きたて。美味しくないわけがないのである。

気の向く場所を訪ねながら、お世話になった人にピザを振る舞ったり、必要なものを物々交換し、また次の目的に移動するのがこの旅のスタイル。彼が出会った人とのご縁は、きっと彼の一生の宝物になるのだろう。

今回のピザは、薪とビールそして一晩の寝場所と交換となった。渡した薪は誰かのピザを焼くことになる。受けた恩をその人に返すだけでなく、次の人に渡す「恩送り」。笹の暮らしとも重なる部分がたくさんありそうだ、ヒトシくんと夜遅くまでおしゃべりをしながらぼんやり考えた。

四国の後は九州に渡り、そして沖縄へと旅は続くそうだ。

この軽トラを見かけたら声をぜひ声を掛けてみてほしい。車の中から、魔法のように美味しいピザが出てくるかもしれない。

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