どんどん窮屈になっていく世の中でも、土佐町にいるとホッとすることがよくある。
その一つが、土佐町小学校教員による「USB紛失事件」だった。そもそも、このような不祥事について書かせて貰えることだけでも、すごいことだ。
事件の当事者である先生にインタビューを申し込むと、自分がしんどかった時に助けてくださった保護者や同僚の先生方への「恩返し」だと言って快諾してくれ、事件当時は土佐町小にいなかった現在の校長先生も、「彼が良ければ私はかまわんけんど」、と笑って許可してくれた。
【事件】
教員のほとんどがそうだと思うが、A先生が勤務時間内に仕事が終わることはまなく、残業は日常茶飯事だった。自宅から比較的近かった前任校では、週末さえも仕事をしに学校に通っていたが、自宅から往復2時間かかる土佐町小に赴任してからというもの、持ち帰りの仕事は数倍に増えた。
A先生が、生徒たちの個人情報が入っているUSBがないことに気づいたのは、5月のゴールデンウィーク明けのことだった。実家の母親にも手伝ってもらい、数日間探し回ったが、どうしても見つからない。A先生は、素直に管理職に相談することにした。
ことの重大さがわかったのはその後だった。町で唯一の小学校である土佐町小は、町で唯一の土佐町中との小中連携校なのだが、校長命令ですぐさま小中の全職員で2時間ほど、校舎をしらみつぶしに捜索した。
みんな、ただでさえ忙しくて余裕がないのに、自分が同僚の先生たちの仕事を増やしてしまっている…。
A先生にとって、その過程が何よりもつらかった。
結局USBはどこにも見つからず、後日、警察署に紛失届けを出すことになった。
ほとんどの土佐町民がそうだったが、僕はそのニュースを夕方のテレビ報道で初めて知った。チャンネルを変えると、他の2局でも同じニュースが流れていた。僕はいても立ってもいられず、教育委員会に車をとばした。すると、誰もいない教育委員会に、教育長が一人、電話の前に座っていた。かかってくるであろう問い合わせの電話を待って。教育長は僕に、ちょうどいま学校で保護者説明会が開かれている、と教えてくれた。
僕が学校に到着すると、緊急保護者説明会を終えた5年生の保護者らが校舎から出てくるところだった。僕は、仲のいい保護者を見つけ、なかば強引に「飲みに行こう」と連れ出した…
(雑誌『教育』2018年12月号より再掲載)
(つづく)