
大渕
冬の夜。ダムのほとりから見た大渕の写真です。空気はキンキンに冷えて体の芯から凍りつきそうな夜でしたが、その分この季節の夜空は澄みきって星空が本当に近く感じます。
星座には全く詳しくないものの、時間とともに回転していく星空を見ていると、自分とこの世界が大きな輪の中に生きていることを実感します。
文字通り、誰もが回転する循環の中にいるんですよね。
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掲載開始日
図らずもTPP。あっちのTPPではありません。
土佐町在住の写真家、石川拓也がひと月に1枚のポストカードを作るプロジェクト。
2016年11月から始まり、たまに遅れたりもしながら、いちおう、今のところ、毎月1枚発表しています。
各ポストカードは土佐町役場の玄関と道の駅さめうらにて無料で配布しています。
「みんなでつくる総合計画」 チーム佐川著 学芸出版社
日本の地方自治体は10年に一度、「10ヶ年総合計画」を作成します。この総合計画に則って、続く10年を町や市が一丸となって前進していく…。と言葉で言うのは容易いですが、それはなかなかな理想論。
現実では多くの自治体で、ある意味「総合計画のための総合計画」になってしまっていることは否めないようです。つまり、多くの人に読まれ現実的な行動や施策に影響を与えていくというよりは、「作ることが目的」になってしまっているということですね。
そういった総合計画業界(そんな業界ないですが)の状況の中、佐川町が挑戦したのは「本気で住民に読まれる総合計画」。そしてその後に続く行動のひとつひとつが町を作っていくことだ、というスタンスですね。
この本は高知県の佐川町が2年間をかけて「総合計画作り」に取り組んだ過程と結果を読みやすくまとめた一冊。
みんなが本気で読んで考える総合計画にするには、みんなが参加して作る。もちろんそれが王道なのですが、この「みんなが参加」ってけっこう難しいんですよね。予定合わせて人を集めるのも難しい。全員が同様の本気度を保つのも難しい。
僕のような写真という一人メディアを職業にしている人間からすると、この「みんなで作る」という行為の大変さは本当によくわかります。佐川町のコアメンバーの方々は地味な汗をたくさんかかれたんでしょうと脱帽する思いです。
さて、土佐町。
土佐町の10ヶ年総合計画(土佐町では振興計画と呼ぶそうです)は2019年度に作成、2020年度より開始です。もうそのための布石である「住民幸福度アンケート」の作成が始まっています。
「自分の町は自分で作る」そう考えるみなさんの積極的な参加がカギを握るタイミングが近づいてきています。
先月「土佐町ポストカードプロジェクト」で撮影させていただいた宮司の宮元千郷さんです。12月初旬の高峯神社の神祭の際に、神事を終え一旦下まで降りてきていた宮元さんにお願いして撮影させていただきました。
登山道のように険しく長い参道を一緒に登ってこの場所まで戻っていただきました。感謝です。
宮元さんは土佐町の宮古野にご在住。代々、この近辺の神社を司る宮司の家系の方です。以前、高峯神社の記事を作る際にも大変お世話になりました。
ぜひ、以下の記事も併せてお読みください。
「美しい川」 高橋宣之 小学館
「水が透明であるという喜びを知っていますか」
尊敬すべき先輩写真家・高橋宣之さんの写真集です。
ご存知の方は特に高知には多いと思いますが、高橋さんは仁淀川を撮り続けている写真家。「仁淀ブルー」という言葉はこの人の仕事から生まれました。
この本も川の美しさを冷凍保存のように切り取った写真で構成されています。一枚一枚の写真の美しさもさることながら、「川を撮る」という場合の、視点のバリエーションの豊かさに驚かされます。
言ってみれば、あるときは虫の眼になり、あるときは魚の眼に、鳥の眼で撮られたものもあります。そう考えると、この本自体がひとつの生態系を成しているようにも感じます。
「川」とひと言で言った時に、これほど豊かな撮り方がひとりの写真家の内部で息づいている。そのこと自体が真似のできることじゃないよなぁ、とため息の出る思いです。
先の記事と同じ日に撮影した、地蔵寺の河内神社の神祭からのひとコマです。この地蔵寺の河内神社(土佐町には河内神社がたくさんあります)は、上地蔵寺、中地蔵寺、下地蔵寺、平石の4つの地区が集まって神祭を執り行っています。
写真は前町長であり宮司の西村卓士さんと、巫女で舞踊を披露した地元の女の子3人。毎年、地元の小学生女子が巫女となり「浦安の舞」を披露するのだそうです。
12月初旬のこの時期、土佐町の神社やお宮のあちこちで神祭が行われています。地蔵寺の河内神社でも執り行われ、男衆が神輿を担いで境内を一周、女の子が「浦安の舞」を披露し、最後に餅まきを盛大に行って終わります。
高峯神社の項でも書きましたが、昔から綿々と続くこの神祭は、農作業をひと段落した時期の地域の人々が、神社やお宮を通じてもう一度、土や水や樹木と関係を結び直す日。
五穀豊穣・家内安全・商売繁盛など、祈る対象は人それぞれなのでしょうが、無事に稲を収穫し終えた人々のホッと一息というような気持ちは、昔も今も変わらないのだろうなと思います。
「峠」 司馬遼太郎 新潮社
友人から勧められた一冊。 友人曰く、生前の司馬遼太郎さんが「もっとも思い入れの強い作品は?」と聞かれ答えたのが、「燃えよ剣」とこの「峠」だったのだそうです。
司馬さんの著作は結構読んでいたつもりでいたのですが、これはアンテナから漏れていました。ただ読んでみると非常に面白い。派手さはあまりないので、司馬さんの著作の中でも渋い方の作品ですね。
主人公は河井継之助(かわいつぎのすけ)。幕末期の越後長岡藩家老になった人物です。
家老になる以前に江戸に学び、長岡藩で唯一と言っていいほどに鋭敏に時流を嗅ぎ取っていた人物だそうです。
幕末の動乱の最中、その継之助が思い描いたものは、自身が率いる長岡藩を、まるでスイスのように「武装中立国」とすること。これは横浜で出会ったスイス人商人との交流の中で生まれたアイデアでしたが、継之助は実際に当時最新鋭であったガットリング砲を購入し、「武力による中立」を目指します。
歴史の結果を言ってしまうと、薩長軍でも幕軍でもないという存在は、当時の時流に飲み込まれ、継之助が思い描いた「中立」は叶わず、長岡藩は幕軍の一員として戦わざるをえなくなります。継之助のアイデアは結果的に上手くいかなかったわけですが、それでもその先見性と、理想を実現化する行動力には、「こんな人が日本にいたのか」と驚かされます。
2枚目の写真は、継之助が考えていた「知識」と「行動」についての一部。「行動」しなければ「知識」など何の役にも立たん、というようなセリフはこの「峠」の中でなんども繰り返し出てくる言葉です。
継之助の書簡などから司馬遼太郎が導き出した言葉であるのでしょうが、なんとなく司馬さん自身の言葉を継之助にアテ書きしているようにも感じられます。
高峯神社 | 宮元千郷
以前もポストカードに登場した高峯神社。峯石原をさらに登った安吉という集落にあります。登山道のような参道、山頂に突然現れる本殿。山全体が清浄な神域であるという、中世から続く信仰心の強さを感じる場所です。
高峯神社、毎年12月の第一日曜日には神祭を行います。今年は12月3日に行われました。宮司さん、総代の方々、地区長さんたち、高峯神社の一年で最も賑やかな1日なのでしょう。
宮司の宮元千郷さんにお願いして撮影させていただきました。宮元さんがそこにいることで初めて完成した風景です。
「←いまココ!」の土佐町では、住民幸福度調査アンケートの作成の真っ最中です。
これは経済至上主義があまりにも強くなりすぎた世の中に対する反省から生まれたものでした。
経済は結局のところ数字での競争でしかなく、人間が生きていく中で、「経済」というものさしに頼りすぎてはいないでしょうか?という問いがその根本にあります。
ブータンのGNHの考え方は、人間が生きていく上では経済だけでなく、以下の3つの要素に依っていると考えています。
3つ合わせて「人間社会」が作られているという考え方
そんなの当たり前じゃないか!と「渡る世間は鬼ばかり」のえなりかずき並みに口を尖らせて言う人もいるかもしれません。
えなり
ただ、この3つの要素がバランスよく大切にされてきたか?という問いには、「経済が重要視されすぎている」「経済が成長することばかり目指したせいで、他の二つを犠牲にしている」と感じる人が世界中に数多くいる、ということなのです。
私たちも自分たちの未来や環境を考える際に、「経済のため」に余りにも重点を置きすぎていないですか?
●「学ぶ・勉強する」目的が「経済のため=より稼げる仕事に就くため」になっていないですか?
●より多くのお金を稼ぐために、環境や人間関係や地域コミュニティを犠牲にしていないですか?
●大きなビジネスが良いとされる世の中で、人間が経済の歯車のように扱われていないですか?
もちろん今のご時世、お金を全く稼がずに生きていくのはとんでもなく難しいことでしょう。GNHは経済発展そのものを否定するものではなく、要は、自然環境や地域コミュニティや伝統文化を破壊してまでも経済発展すべきですか?という問いかけであるのです。
そんな経済発展は、人間を幸せにしていないんじゃないですか?と。
そう考える人がどんどん増えていることで、様々なコミュニティが、または企業や国が、経済一辺倒ではなく「幸福度」というものさしへ方向転換してきている、というのが現在の状況です。ちなみに、ブータン国王は1970年代から同様のことを言い続けています。
さて、土佐町。
現在はアンケート内容の作成の真っ最中です。
前回の記事で書いたように、「他と比較するためではない」という方向が定まり、可能な範囲で「土佐町ならでは」な質問をしたいと考えています。
ではブータンは実際にどのようなアンケートを行っているのでしょう?「ブータンらしい」と私たちが感じた質問をいくつかピックアップしてみましょう。※引用は全て2015年度ブータンGNHアンケートによります。翻訳/石川拓也
●歴史の知識
Q63:以下の事柄について、あなたの知識と理解度を自己採点してください。
とても詳しい | 詳しい | 平均的 | あまり知らない | 全く知らない | ||
1 | 地域の伝説や民話 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
2 | 王様の歴史的な行事 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
3 | 国民の日 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
4 | ブータンの王様5人の名前 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
端的に言えば、ブータンのアンケートは「こういったことを多くの国民がよりよく理解している状態が望ましい=幸福度が高い」というひとつの価値観を示すものでもあるでしょう。
単純にさまざまな国民の状態をより詳しく知るための質問も多いのですが、上のようにブータンの価値観を現すような質問がとても多いこともブータンのアンケートの特徴です。
続けてもう一つ。
●伝統的なものへの知識
Q72:以下に挙げた技能をあなたは持っていますか?
とてもよくできる | まあまあできる | できない | ||
1 | 織物 | 3 | 2 | 1 |
2 | 刺繍 | 3 | 2 | 1 |
3 | 絵画 | 3 | 2 | 1 |
4 | 大工仕事 | 3 | 2 | 1 |
5 | 木彫り | 3 | 2 | 1 |
6 | 彫刻 | 3 | 2 | 1 |
7 | 鋳造 | 3 | 2 | 1 |
8 | 鍛冶 | 3 | 2 | 1 |
9 | 竹細工 | 3 | 2 | 1 |
10 | 金細工・銀細工 | 3 | 2 | 1 |
11 | 石工 | 3 | 2 | 1 |
12 | 革細工 | 3 | 2 | 1 |
13 | 紙細工 | 3 | 2 | 1 |
これも質問の意図はとても分かりやすいと思います。
つまりブータンは、「こういった伝統的な技能が失われずに、人々の生活の中で生かされている方がより幸福度が高い」という価値観を持っているということです。
これ以上は言い過ぎかもしれませんが、このような技能が社会できちんと活躍できているかどうかが、すなわちコミュニティの活力を測るものさしとして機能していると考えているようにも思います。
こういった価値観の表明のような質問の元、5年ごとに行われているアンケートの結果が、例えば「技能が少しずつ失われている」ということを示したとするならば、政府や行政はそれを食い止め、逆に活性化する手立てを講じていく。そういった行動の指針のためにあるアンケートが幸福度調査なのです。
これからも少しずつブータンのアンケートは紹介していこうと思います。
「ブータンならでは」が色濃く出たこのアンケート、外国人の僕からすると、とても微笑ましい。そしておもしろい。ブータンの暮らしに根ざしたものであるが故に、アンケート制作者のブータンへの愛情や深い洞察を感じます。それは「ブータンってこういう生活なんだ!」とか「こういう考え方をするんだ!」という驚きに繋がります。
こういった「ブータンならでは」なアンケートをモデルに「土佐町ならでは」なアンケート内容を、現在絶賛作成中です。もっと正確に言えば、アンケートの叩き台を土佐町役場が作っている真っ最中。
この叩き台、今後は住民検討会にかけて、土佐町のみなさんにその内容を叩いていただきます。目指すところは「土佐町の価値観を表すアンケート」。
叩くのは土佐町のみなさんです。完成させるのは、土佐町に暮らすあなたです。
上に挙げた二つの質問、土佐町の暮らしに根ざしたものにするとしたら、どういった質問になるとあなたは思いますか?
最後にもう一つ、ブータンらしい!と個人的にもっとも感じた質問です。
●自然とのつながり
Q105:以下の文章に同意しますか?
とても強く同意する | 同意する | 同意も反対もしない | 反対する | 強く反対する | わからない |
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 8 |
ブータンの精神性が如実に現れた質問だと思うのですが、これを土佐町に置き換えるとしたら‥‥‥?
ぜひ皆さんも一度考えてみてください!