ムクムクした入道雲、セミの鳴き声。
山の神さまが洗濯したての緑のじゅうたんを大地の上に思いっきり広げたみたいな夏の田んぼ。
その田んぼに稲穂がつき花が咲き始め、表面がうっすらと黄金色になってきた。
じゅうたんの上を太陽の光を浴びて羽をキラキラさせながら、とんぼたちが飛んでいる。
この季節、土佐町には気持ちの良い風が吹く。
頰に感じるのはからりとした、顔を洗ったあとのような気持ち良さ。
この風は一体どこから生まれているのかなといつも思う。
山からか、谷からか、川からか。
並んだじゅうたんの上を風が通り抜ける。
まるで誰かと追いかけっこをしているみたいに稲穂を揺らしながら、重なるように、もつれるように、ぶつかりあいながら、あっちからもこっちからも走り抜けていく。
稲の波。きみどり色の海。
「風が見える!」
棚田が広がる風景を目の前にそう言った人がいた。
風は自分の足跡を残しては消え、残しては消え、また現れる。
この地の先人たちもこの風を感じていただろうか。
田んぼの畦に座り風の足跡を見つめながら、そろそろ収穫の準備を始めようか、と思いを巡らせていたのかもしれない。