
立割
立割での春の夕暮れ。
日本屈指のあか牛生産地である土佐町。立割にも牛舎がたくさんあります。
この季節、牛舎には必ずツバメの巣がいくつもあり、ひな鳥がピヨピヨとエサを求めて鳴いています。
写真はひなにエサを与えて、また飛び立つ親鳥。春の土佐町の風景。
著者名
記事タイトル
掲載開始日
図らずもTPP。あっちのTPPではありません。
土佐町在住の写真家、石川拓也がひと月に1枚のポストカードを作るプロジェクト。
2016年11月から始まり、たまに遅れたりもしながら、いちおう、今のところ、毎月1枚発表しています。
各ポストカードは土佐町役場の玄関と道の駅さめうらにて無料で配布しています。
「サカイ」 公益財団法人堺市文化振興財団 季刊誌2018年冬号 Vol.4
大阪の堺市が発行しているPR誌です。
縁あって、定期的に撮影の仕事をさせていただいています。
堺というのは知れば知るほど興味深い街で、江戸時代の大都会であり、千利休の本拠地、刃物の町、与謝野晶子も堺です。
表紙の自転車は、堺市の自転車博物館で撮影したものです。
自転車の製造も盛んだった堺市から、まだ幼き日の昭和天皇に献上されたもので、実物はおそらく皇居に保存されているのでしょうが、そのレプリカです。
がっしりした鉄の重厚感と、時代を感じさせるデザインに何か懐かしさを感じます。堺の自転車職人さんたちの技術の粋が結集した一品なのでしょう。
そういえば以前この欄で紹介させていただいた、南一人さんのお父様である画家の南正文氏も堺の在住で、堺市には多くの作品が保存されているということを聞きました。
堺とは何かしらの縁を感じています。
シュラブッチェ大学は、ブータンの東端にある総合大学です。
シュラブッチェ大学
ご存知の方は多いと思いますが、ブータンは自由旅行が基本的に制限されています。他の国のようにふらっと訪れて、行きたいところに気ままに赴くという旅行は現実的にはできません。
また、ブータンという国は空の玄関であるパロ国際空港と首都のティンプーが西側に位置するため、その周辺は比較的移動しやすいのですが、そこから国を横断する形で東側に渡ることは、なんらかの公式な名目や招待が必要になります。
幹線道路(と言っても相当な山道ですが)に幾つもある検問で、正式な通行許可証を提示しながら西から東へ行くことになります。
今回の大きな目的地であったシュラブッチェ大学は、京都大学東南アジア地域研究研究所が長い時間をかけて培った信頼関係のもと、お互いの人的交流を定期的に維持していく体勢が整っているためこの訪問が実現しています。
シュラブッチェ大学学長(左)が歓迎してくれました
硬い話になりましたが、大学の話。
シュラブッチェ大学の学生たちが、京大の学生の訪問を歓迎してくれました。ホールに集まり、お互いの国のことを紹介するプレゼンをします。
ブータンの大学生に京大の学生がプレゼン中
最後はヨサコイで締める
ブータンの学生も最後は踊りで締める
現在の生徒会長。初の女性会長だそうです。
図書館
図書館にも行きました。とさちょうものがたりZINEがシェラブッチェ大学図書館の蔵書に加わりました。
90分の講義
僕がカメラマンだと知ったシェラブッチェ大学の学長さんが「うちはメディア学部があるから、学生と話してみてほしい」と言われました。そんな楽しそうなことはぜひ!ということで、時間を作ってもらいました。
勝手なイメージでは学生5,6人を相手にiPadでも囲みながら、なんて考えていたのですが、実際にはメディア学部の3,4年生全員の50人ほどでした。この人数だと講義みたいになりますね。
左下の撮影しているのはメディア学部4年キンガ・プンツォくん
「キネマ土佐町」全4篇を観てもらいました。静かに喰い入るように観てくれました。土佐町の自然がブータンに似ている、とは多くのブータン人が同意するところ。
撮影:赤松芳郎さん(東南アジア地域研究研究所)
大筋では土佐町の仕事を紹介しながら、「機材や印刷技術や情報が(おそらく日本よりは)乏しいであろうブータンでも、工夫次第でアイデア次第で、手作りで作りたいものを作れるんだよ」ということを伝えたかったのです。
彼らが使っているカメラも日本製がほとんどですが、「日本の技術すごいでしょ」ではなく、「ブータンで彼らが映像を手作りして発信するということがどれほど可能性のあることか」ということを伝えたいと考え、気がついたら90分があっという間に経っていました。
ブータンのおおらかさ
もう一つ印象に残ったことは、ブータンの人々のおおらかさ。
「キネマ土佐町」をプロジェクターで流すため、大学のパソコンを使ったのですが、これがなかなか上手くいかないのです。
上映を開始した途端に止まってしまったり、やり直したけれど今度は映像がカクカクして観れるレベルではなかったり。
集まった学生と先生の方からすると、モタモタしている時間だったかもしれません。
僕も日本で同じことが起こったら、確実に焦る状況だったかと思いますが、自分でも不思議なくらい焦ることなく上映を終えました。
その理由を後になって考えてみたのですが、きっとこれはブータンの人々の醸し出すおおらかな空気のおかげと思います。
なんとなく、何が起こっても大丈夫、というような雰囲気が、その場に充満していたことが理由だと思います。
翻って考えてみれば、なんでもカチカチきっちりとやろうとする日本の空気も、もちろん悪いことではないと思うのですが、行き過ぎるとそこに生きる人間を息苦しくさせてしまうということも、昨今の日本に関しては言えるのではないでしょうか。
エンペラーを撮影したことありますか?
質問タイムでは、技術的なこと(例:星にピントを合わせる方法は?)とか、もう少し精神的なこと(例:テーマを決める時にどんな風に考えますか?)とか、様々な質問が出ました。
面白かったのは、「日本の天皇陛下(エンペラー)を撮影したことありますか?」という質問。
その時は意図が十分わからなかったのですが、後から考えてみたところ、この質問の背景にはブータンの写真産業の現状がよく表れているのではないかと想像します。
ブータンはどんな田舎の町に行っても、王様の写真をよく見ます。国民が王様を心から敬愛しているのを目の当たりにするのですが、おそらく現在のブータンの写真・映像産業の中で、最高のステータスがある仕事が、「王様を撮る」ものなのではないでしょうか。ブータンの人から見ると「天皇=日本の王様」ということでこの質問が来たのではないかと思っています。
ここにも国民性が現れて面白いですね。
記念撮影 撮影:竜野真維さん
冒頭で書いたように、京大とシュラブッチェ大学の交流は今後も続いていきます。今回とは逆に、夏には京大の招きでシュラブッチェ大学の学生が2人、日本を訪問するそうです。その時にはもしかしたら、土佐町にも足を伸ばしてくれるかもしれません。
土佐町とブータンの縁も、ゆっくりと繋がっていけるとうれしく思います。
「怖い絵 死と乙女編」 中野京子 角川文庫
この欄で以前も別の本を紹介したことがありますが、中野京子さんの「怖い絵」シリーズはハズレが一冊としてない名シリーズです。
西洋アートの歴史の中で名作と謳われる絵画の数々。その中から、時代背景や作者の意図や、その他諸々、実は「怖い」という絵を丁寧に一作ずつ紹介しています。時の権力者を描いたものなど、政治と密接に絡み合ってる作品が多いので、西洋史としての本とも言えるものです。
中には意に染まぬ権力者からの依頼を断れずに、画家が人知れず絵に含ませた謎解きのような寓意。もしくは絵の中の主人公が辿った悲劇的な運命。
画家の技巧が巧みな分、画面に霊魂を感じさせるような凄みがまた怖さを募らせる一冊です。
完成した「土佐町幸福度調査アンケート2019」2ページ目
土佐町の現在
しばらくブータンのことが続いていましたが、土佐町の現状に戻りたいと思います。
(ブータンのことはまだ書くことがあるので、今後まぜまぜにいきます。)
アンケートの内容作りが続いていた土佐町役場。高知大学地域協働学部の協力も得て、ああでもないこうでもないと議論を重ねてきました。
昨年12月には土佐町役場職員を対象にした検討会。各課・社協から数名ずつの職員に出席してもらい、ここでも議論が進みました。
課が変わると目線も変わる。実行委員会が想像もしなかったような角度からの意見が出てきたり、これで一段と土佐町の地に足の着いたものになったと感じます。
佐川町へ
12月末には、高知県佐川町へ視察へ。役場職員、地域住民が一体となって総合計画を作り実施している佐川町。
さまざまな取り組みの話から、自分の町の現在、過去、未来を見つめ、目の前の現実を少しずつでも動かしていこうという佐川町の職員さんの熱意がひしひしと伝わってきました。
佐川町は総合計画を作る過程で幸福度調査をしています。そしてその結果を佐川町の10カ年総合計画の骨子作りに反映しています。
2年間に渡る住民参加での総合計画作りは、書籍「みんなでつくる総合計画 : 高知県佐川町流ソーシャルデザイン」にわかりやすくまとめられています。
ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。佐川町役場の職員の皆様、お忙しいところ詳しいお話を聞かせていただきありがとうございました!
住民検討会
4月5日には、土佐町の住民から6名の方々に出席いただき、住民検討会を開催しました。
出席者は様々な年代、仕事、立場の方たち。あかうしを育てている方、林業に携わっている方、県外から引越して来た方、自営業の方、集落活動センターの代表の方、社会福祉協議会職員、県庁の職員の方。
ここでもまた住民目線の、暮らしに根付いた視点から「土佐町の幸せとは何か?」「それを形にするためのアンケートとは何か?」という議論が進みます。
例えばこんな意見。
道つくりや農作業など地域の人と協力して行う仕事は「ボランティア活動」ではなく「ここで暮らすため、生きるための取り組み」。
このアンケートを読む時、町の人たちが「自分ごと」として考えられるものにしたい。誰かの顔が思い浮かぶような質問の仕方が大事なのではないだろうか?
アンケートは町の職員が直接手渡すことになっているが、職員みんなが一律の熱意を持ってこのアンケートをする意味を伝えられるのか?どうしてこのアンケートを行うのか、町の人にきちんと理解してもらわないといけない。
アンケート結果を、町の人たちにどう還元するのか?
土佐町で暮らす多くの人にとって「あたりまえ」のことは、実は決して当たり前ではない。
住民検討会に出席いただいた皆様、お忙しい中大変ありがとうございました!
ついに完成!!
そしてその後はさらなるブラッシュアップと高知大教授との議論を重ね、ギリギリのタイミングではありますが、「土佐町幸福度調査アンケート2019」がついに完成となりました!
2019年4月23日から、アンケートの実施が決定しています。土佐町の全住民から、無作為で抽出された方々を対象としておりますので、今これをお読みのあなたの元にも届くかもしれません。その時はぜひご協力のほどよろしくお願い致します。
またこれは町内外関わらず、多くの方々にぜひ読んでいただきたいアンケートです。
ご興味のある方はぜひ以下のリンクからダウンロードしてみてください!
ちなみに、このアンケートには、別紙でこのような紙が添えられています。
このアンケートによる「幸福度によるまちづくり」と、国連が提唱する未来作りの指標である「SDGs」。
この二つは表現の仕方が違えども、根本の考え方は同じものと土佐町役場は考えています。
ですので、今回の「幸福度調査アンケート」には、一つの項目につき対応するSDGsの項目のロゴを配置しています。
具体的には、ぜひアンケート票をダウンロードして確認してみてください。
今後のスケジュール
「土佐町幸福度調査アンケート」にまつわる今後のスケジュールは以下のようになっています。
4月23日 土佐町役場職員勉強会
高知大学地域協働学部の梶先生がアンケート内容の意味や配布訪問時の留意事項などを実際に配布に当たる役場職員全員に説明をする日です。
4月24日〜5月20日 アンケート実施
5月20日 アンケート回収終了
アンケート集計結果の概要(速報値)を提出、その後高知大学が本格的なデータ解析作業に入ります。
7月 第2回土佐町幸福度調査住民検討会
そしてさらに俯瞰で見た全体的な計画(大ざっぱですが‥)は以下の通り。
「全世界史」 出口治明 新潮文庫
著者の出口治明さんは、ライフネット生命保険株式会社創業者であり、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長です。
この本は、その出口さんが書いた「全人類史」とも言うべきもの。壮大すぎて世界史の教科書のように感じる方もいるかもしれませんが、もちろん教科書よりもはるかに面白いです。
その理由は、出口さんの視点にあります。
先ほど「全人類史」と書きましたがまさにその通りで、出口さん曰く、
「日本史」や「中国史」「ヨーロッパ史」などは実は存在しない。現在の人間が想像する以上に、太古から人類は移動を繰り返し影響を与え合っているので、一つの地域や国での歴史はそれだけで存在するわけではなく、本当の意味での歴史は「人類史」という一つなのである。
とのこと。
そのように歴史を見たことはこれまでなかったのですが、なるほど確かにその通りと思います。
例えば奈良時代に建立された東大寺の大仏開眼式典を取り仕切ったのはインド人の仏僧だったとか、モンゴル帝国が野蛮なイメージなのは後世作られたもので、実際には人とモノとお金がグローバルに循環する超インターナショナルな世界だった、とか。
あ、もう一つ。スペインが切り開いた「大航海時代」よりはるか以前に中国には「鄭和(ていわ)の大艦隊」と呼ばれる一大艦隊があり、それに比べるとスペインのものは笑っちゃうくらい小規模なものだった、とか。
明の皇帝は、鄭和の大艦隊を解体することでその経費を万里の長城の建設に充て、鄭和の大艦隊がいなくなったインド洋に、やっとヨーロッパ人の小規模船団が入れるようになった、そのことを現在では「大航海時代」と呼んでいる、とか。
もっと書きたいことはたくさんあるのですが、我慢します笑
世界の全ては目に見えないところでつながっている。なぜ現在の日本がこうなって現在の世界がこうなっているか、そういう大きな理解を掴みたい方に強くお勧めします。
ブータン料理って、日本ではなかなか馴染みのないものですよね?
チベットとインドに色濃く影響を受けながら、ブータンも独特の食文化を育んできました。
今回は、ブータンの人々が普段食べている食事を紹介したいと思います。
上の写真は「モモ」と呼ばれる「チベット餃子」です。
たいていのお店にはミート(豚)とチーズの2種類があり、ブータンの人にとってはファーストフード的に気軽に寄って食べていくスタイルです。
皮は厚めでもちもち、美味しいです。
上の写真はブータンの典型的な食事です。
ブータンでは大抵このようにご飯とおかずがドドドン!と置かれていて、脇に置かれた食器を各自が持って自分の皿に好きな量を取っていく形です。
ブータン料理はトウガラシが大量に使われるのが特徴です。僕自身は辛いのがあまり得意でないので、トウガラシの塊はできるだけ出会わないように気をつけていました。
がさつな人が盛り付けたがさつな皿。
ブータン料理のイメージを傷つけてしまってないか心配です‥。
先に書いたように、ブータン料理は各自が皿を持ち盛り付けていくスタイル。
どうあっても繊細な盛り付けができないこの皿の主は、ご想像の通りわたしです。。。ブータンの人々すみません。
左上に見えてるのは「ダル」というスープ。インド料理でもありますが、ブータンのダルはまろやかで美味しいです。
上はブータン西部にあるシュラブッチェ大学を訪れた際に食べさせていただいたランチ。
盛り付けはさっきのよりかは、こっちのほうがマシでしょうか。ここで食べたランチは非常においしいものでした。
上の写真は「チュルカム」という乾燥したチーズ。乾燥してるだけあってかなり固いです。
移動の道中、田舎の峠にあった小さな商店で店先にたくさん吊るされて売られていました。
これはブータンの伝統的なおやつ。ブータンの人はみんなチュルカムを口の中でコロコロ転がしながら1、2時間楽しむようです。
店頭にチュルカムが干されている、の図。ちょっと干し柿みたいですね。
味はあんまりしないです笑
ブータンに滞在中は、ほんとに大量のお茶を毎日飲みました。
空気が乾燥していることもあり、そして高度に順応するための水分補給ということもあり、食事時には何杯ものお茶を飲み、食事時でなくてもチャンスがあれば何杯ものお茶を飲み。
おそらく2019年2月前半の「ブータンお茶摂取量(個人の部)」では相当イイ線行ってるはずです。誰か集計してくれないかな。
写真はふつうの紅茶ですが、ダントツで一番よく飲んだのはミルクティー。ブータンのミルクティーはミルク多めのコク強めです。インドのチャイに近い印象です。
食事をしている最中に周りをウロウロしていたブータンの猫
「FACTFULNESS」 ハンス・ロスリング著 日経BP社
これは誰にでもオススメの非常におもしろい本。久しぶりに貪るように読書しました。
著者のハンス・ロスリングはスウェーデンの医師であり公衆衛生学者です。
彼は世界の人々の「事実に対する根拠のない誤解」と戦うことに人生の多くの時間を費やしました。
ロスリング氏曰く、データを丁寧に見ていくことで、世界について事実ではないことが当たり前のように信じられている状況がわかる、とのこと。
そのためにロスリング氏はありとあらゆるところで世界についての質問を人々に投げかけていきます。例えば以下のようなもの。
◯質問 世界の1歳児で、なんらかの予防接種を受けている子供はどのくらいいる?
・A 20%
・B 50%
・C 80%
◯質問 いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいる?
・A 20%
・B 50%
・C 80%
答えはここでは書きませんが、ぜひ本書を開いてほしいと思います。ロスリング氏が投げかけるこういった質問に対する正解率は、回答者の学歴や職業に限らず、チンパンジーが回答するよりも低いのだ、と彼は言います。
つまり、世界について正しい知識を持っている人はとても少ない、ということ。
その傾向と原因、そして正しく世界を見る方法を、丁寧かつシンプルに詳述したのがこの本です。
月並みな言葉になりますが、目からウロコが落ちました。
今回の私のこの紹介で、どれほどこの本の魅力が伝わるか甚だ自信はないのですが、ぜひ読んでみてください、と言える一冊です。
良くあること学院
ウェルビーイング(wellbeing)という語は、日本語でぴったりな言葉を見つけるのがなかなか難しいのですが、「良くあること」「健康で安心な状態」を指します。
なので「福祉」や「幸福」と訳す場合もあるようです。
ここではあえて強引に「良くあること学院」とでも訳しましょうか。「いや、それムリ‥」というブータンからの声が聞こえてきそうです。やっぱりそのまま「インスティテュート・オブ・ウェルビーイング」でいきましょう。
ミッション
インスティテュート・オブ・ウェルビーイングは、ブータンの首都ティンプーから車で40分ほどの、山間地帯にあります。
周囲は瓜二つと言えるほど土佐町の自然にそっくり。ブータンをもう少し水っぽくして苔っぽくしたら土佐町の風景になりそうです。
土佐町の風景に似ていませんか?
インスティテュート・オブ・ウェルビーイングは、ブータンの国策であるGNH(国民総幸福度)の思想に則って、青少年の育成に努めている機関です。
さらに具体的に言えば、薬物やアルコール依存に陥った青少年を更生させることがミッションの大きな部分を占めています。
そのため、ここに一定期間居住できる居住棟があり、私たちが訪問した日にも数十人の若者が共同生活を送っていました。この日はちょうど家族デーに当たり、遠方の家族がここに住む方々を訪れていた1日でした。
奥の建物が居住棟
ダショー・ペマ・ティンレイ
ここの学院長は、写真にも写っているダショー・ペマ・ティンレイ氏。
「ダショー」というのはブータンにおける尊称で、国王から授与されるものです。「最高に優れた人」を意味します。なのでファースト・ネームではありません。イギリスでいうところの「ナイト」みたいなものでしょうか。
ペマ・ティンレイ氏はブータンの最高学府であるブータン王立大学の学長を務めていた人物で、退官したのち請われてインスティテュート・オブ・ウェルビーイングの学院長をされています。
ダショー・ペマ・ティンレイ氏
ちなみにティンレイ氏が着ているこの着物に似た民族衣装、男性は「ゴ」女性は「キラ」と呼ばれ、ブータンでは日常の普段着として町でもよく見かけます。
正確に言えば、よく見かけますというレベルではなく、ほぼ皆さん民族衣装を着て町を歩いてます。特にブータンの公務員は、就業中の民族衣装の着用を義務付けられているということです。
話を戻します。
インスティチュート・オブ・ウェルビーイングのミーティングルームで、ダショー・ペマ・ティンレイ氏にGNHについてお話を伺いました。
左:ダショー・ペマ・ティンレイ氏 右:京大東南アジア地域研究研究所・安藤和雄氏
人間を理解する
以下はダショー・ペマ・ティンレイ氏のお話から。
GNH(国民総幸福度)の本質とは、言い換えれば「人間を理解する」ことです。
自己を見つめ、人間を理解し、より良い人間になること。より良い人間になろうとすること。それがより良い家族を作ることにつながります。そしてそれがより強いコミュニティーを作ることになり、それは国の繁栄と平和で安定した国際社会を作ることになるのです。
その全ての始まりは、一個人が、自分自身に対してリーダーシップを持つことから始まると考えます。
ブータンは仏教国だからGNHが可能なんだという指摘がありますが、それは誤りです。
実際にはどんな宗教であれ、宗教に関連がなかろうが、人間が生きていく上で「人間を理解する」ことは大変重要なことなのです。
先ほども書いたように、インスティテュート・オブ・ウェルビーイングの大きなミッションは、薬物やアルコール依存を患う若者たちの更正にあります。
現在ブータンでは、主に外国から入ってくる薬物に依存する若者の数が急増し、社会問題となっています。
インスティテュート・オブ・ウェルビーイングは、そういった問題を抱えた若者たちを一定期間ここで共同生活させ、運動や畑仕事を含む規則正しい生活を送ることによって薬物依存を断ち切り、再び社会に戻すことを活動の目的としています。
仏教国のブータンらしいのは、そこに「自己を見つめなおすため」の瞑想の時間があること。
これはGNHの目的とも深く関連することだと思うのですが、「自己を見つめなおす」「人間(=自己)を理解する」ということは、個人レベルから世界規模の視点まで含めた全ての基本である、というのがGNH・ブータン政府・仏教などに共通した姿勢であるでしょう。
そこに「仏教」はブータンの場合、とても大きな要素として機能しているのですが、この【「自己を見つめなおす」ということが全ての基本である】という考えは、仏教に限った話では決してないことですし、さらに言えばティンレイ氏の言葉にもあるように宗教に限ったことでもないと思います。
ブータンと違い、政教分離の原則のある日本では、施策の根本に宗教的な考え方を置くことはありません。
なので一つの具体的な施策が、「人間を理解する」という深い階層からスタートすることは、実はあまりないんじゃないかというのが、日本に育ち生きてきた個人として思うところです。
ただやはり、大小問わず全ての自治体や政府の目的には「人間のため」という根本があるはずで、だとすれば「人間を理解する」ということはそのスタート地点で実は必須なことなのではないでしょうか。
僕自身、個人的にも「人間を理解しているか」と問われれば、そんなに立派な答えを返せる自信があるわけでもないのですが、それでも可能な限り根本的なところから自己や自分の人生や仕事を問い続ける、ということはやっていきたいと考えています。
パロで出会った少年僧