鳥山百合子

メディアとお手紙

高知新聞 閑人調 1

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とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただくことになりました。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。

鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載される予定です。

 

12年

高知県で暮らし始めてもうすぐ12年になる。長いようであっという間だったが、12年間変わらないのは 「高知に来てよかった」という思いだ。私が住む土佐町は人口約3500人の中山間地域。山の間を縫うように澄んだ川が流れ、四季折々の姿を見せてくれる。

春が近づくと朝露を含んだ土から湯気が立ち昇り、人は大地を耕し始める。道端にはフキノトウやナズナが顔をのぞかせる。空はトンビの鳴き声が響き、水路には水が流れ始める。そして山々に加わる桜色。この音、この色、この光。ああ、春が来た!

縮こまっていた背筋をぐーんと伸ばし、ちょっとそこまで駆け出したくなる。これからゼンマイやワラビなど山菜の収穫や、苗床の準備、お茶摘みも始まるだろう。

この地には豊かな四季の中で食べるものを作り、生きる人たちがいる。この地で生きる知恵と技術を持ち、土地のものを上手に工夫して暮らす。地に足をつけて暮らす人たちをそばに感じるだけで、じんわりと喜びが湧き上がってくる。

海山の恵みと心温かい人たちの存在、それは高知のかけがえのない財産であると思う。感じてきた「高知に来てよかった」。その数々をこれから綴っていきたい。(風)

 

2023年4月10日に一本目が掲載されました。

高知に来て、土佐町で暮らし始めてもうすぐ「12年」。本当に色々なことがありましたが、この地に来てよかったという思いはずっと変わりません。

掲載後、早速「記事読んだよ〜」と何人もの方から声をかけてもらいました。本当にありがたいことです。

 

「閑人調」では、日々の出来事や体験、それへの感想や考えを自由に書いて良いとのこと。高知での日々、土佐町での日々の中で感じてきたあれこれを、これから綴っていきたいと思います。

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山の手しごと

お茶摘み

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2023年5月16日、土佐町老人クラブの皆さんと一緒にお茶摘みをしました。

場所は土佐町中心部から車で約40分、土佐町南川地区のお茶畑。

 

南川のお茶畑を引き継ぐ

南川地区は標高が高く、昔からお茶どころとして知られていました車で走っていると「家があるところに茶畑がある、そんな印象があります。しかし、高齢化でお茶を摘む人は年々少なくなり、地区内にあった製茶工場も数年前に閉じられました。

2007(平成19)年、土佐町老人クラブの会が開かれ、「南川地区にお茶をようとらんなった茶畑があるんじゃけんど…」という話が出たそうです。

その話を聞いた土佐町社会福祉協議会の上田大さんは、何とかできないだろうかと土佐町老人クラブの当時の役員と話し合い、その結果「引き継いでお茶を作って販売し、クラブの活動資金にしよう」ということに。

それから16年。土佐町老人クラブの皆さんは毎年欠かさず、お茶を作り続けてきました。

 

 

茶摘み日和

この日は5月晴れ、絶好のお茶摘み日和でした。

瑞々しいお茶の葉がまぶしい。老人クラブの元気なお母さんたちがせっせとお茶を摘み始めました。摘むというよりも、むしり取ると言った方が良いでしょうか。新芽をわしっとつかんで、わしっとむしる。その葉を米袋に入れていきます。

 

広大なお茶畑。6人のお母さんたちが、おしゃべりに花を咲かせながら、せっせとお茶を摘んでいきます。

 

お茶畑には、お母さんたちの楽しそうな笑い声が響きます。わいわい笑い合って一緒に仕事をし、ちょっとしたモヤモヤを笑い飛ばしながら、今までお茶を摘んできたんだろうなあと感じました。

 

お茶の葉が米袋にたまった頃、社会福祉協議会の上田大さんがお母さんたちの元へ。網の袋にお茶の葉を入れ替えます。

 

お母さんたちから預かったお茶の葉を担いで、選別している人たちの元へ運ぶ上田さん。お茶の葉一枚は軽くても、集まればずっしり重い。これを何往復も。なかなかの重労働です。

 

 

お茶畑には成長したワラビがあちこちに生えています。ワラビはお茶の木に覆いかぶさるように育ち、日陰を作ってしまうので、お茶の葉がよく育たなくなってしまうそうです。

「お茶畑のワラビは雑草!」

抜いていくのもかなりやっかいな仕事です。広大なお茶畑の中、せっせとワラビを抜いているのは和田純一さん。

 

中央にいるのは、南川までバスを運転してくれた山首美三夫さん

こちら、選別作業中の一コマ。お母さんたちが摘んだお葉の葉中に、小枝や枯れた葉が混じっていないか選別していきます。

山のように積まれた葉からは、むんとお茶の香りが。新茶の葉は収穫するとすぐに発酵が始まってしまうそう。新鮮さが命。せっせと選別して、また袋に入れます。

このお茶の袋は町に帰ったらすぐ農協へ持って行き、そこから製茶工場へ。しばらくして、製茶されて戻ってきます。

 

 

もうひとつのお茶畑に移動して、さらなるお茶摘み。かなり急勾配な畑でしたが、お母さんたちは元気いっぱい、お茶を摘む手が止まりません。

この日は日差しが強く、とても暑い日でした。お母さんたち、何という体力!普段から、田畑の仕事、草刈りなど、体を動かしているからこその姿でしょう。

多く摘めば、その分多くのお茶ができます。「もう終わりにしましょう〜」と言われても、お母さんたちはなかなかやめない。「もったいない!こんなにお茶があるのに」と名残惜しそう。

 

 

左から 上田大, 和田純一,  森岡登志子, 川田美智子, 筒井京野, 森岡今朝幸, 曽我部美智子, 細川和子, 窪内花美(敬称略)

 

この写真は「最後もう一仕事、頑張ろうか!」という前に撮影しました。

今年は6人のお母さんたちが参加しましたが、年々参加する人の人数が減っているそうです。

お茶摘みをぜひやってみたいな、という方はぜひご参加ください!5月中、町内放送で参加者を募集します。山の風は気持ちがいいし、お母さんたちとの時間はとても楽しく、元気をたくさんもらえます。

 

この日摘んだ葉は全部で107キロ。製茶されて戻ってきたら、皆さんで袋に詰める作業をするそうです。

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読んでほしい

鹿の角、届く。

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朝7時、土佐町の猟師である上田義和さんから電話がかかってきた。

「もしもし、鹿の角がほしいって聞いたんやけども」

「え…!?そうですそうです、ほしいです!」

以前も上田さんから鹿の角をいただいたことがあった。これで2度目である。

高橋通世くんから“鹿の角、あるかよ?”って連絡があって。うちにいくつかあったから、届けちゃろうかと思って」

なんと!

 

猟師さんのネットワーク

「高橋通世」さんは、私たち編集部が大変お世話になっている猟師さんである。編集部で制作している「鹿の角ガチャ」の原料である鹿の角の在庫がほぼなくなり、通世さんに「鹿の角があったら分けてほしいです」と冬に連絡したことがあった。

通世さんは、「春になったら鹿の角が生え変わるから、手に入ると思う」と言っていたが、猟師仲間の上田さんにも声をかけてくれていたのだった。(次の日、通世さんも鹿の角を届けてくれた。)

 

「持って来てもらうのも申し訳ないので、取りに行きます」

と言うと、

「いや、出ていく用事があるき、その途中で寄るき。7時10分くらいに家を出るから」

とのこと。

なんと、ありがたい。本当に、ありがたい。

 

角は生まれ変わる

上田さんに会ったのは久しぶりだったが、変わらぬ笑顔でうれしかった。袋からはみ出ている鹿の角は針金で二本ずつ組み合わさっていて、ずしりと重い。

この鹿の角が、角を切って紐を通す穴を開けてくれる渡貫洋介さんや、仕上げの作業をしてくれる大豊町のファーストの皆さんの手を通り、鹿の角ガチャに生まれ変わる。

上田さんが乗り込んだ軽トラックを見送りながら、たくさんの人の助けや思いがあって、今の仕事の現場が成り立っていることをあらためて感じた。

 

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私たちの身の回りには食べられる野草がたくさんあります。今の季節にはよもぎ、ミツバ、ギボウシ、ふき…。

先日、野草の料理教室に参加しました。教えてもらった料理の一つに「きゃらぶき」が。きゃらぶきはふきで作る佃煮で、昔から作られてきた保存食。最高のごはんのお供です。

ふきは、まさに今が旬。この辺りでは山や歩く道々でよく見かけます。お金を払わなくても手に入る、ありがたい食材です。

ふきは茹でて皮をむくのが大変だと思っていましたが「細いふきだったら皮をむかずに食べられる」と聞いて、俄然やる気が湧いてきました。

 

きゃらぶきを作る

ふきなら、我が家の小さな畑にもある!

暖かくなり、伸びる雑草に紛れて生えるふき。毎年、草と一緒に刈られて土の肥やしとなっていましたが、今回はふきが主役です。

 

5分もしないうちにこんなに収穫。なるべく細いふきを選びました。茎の元の紫色がとてもきれいです。

 

葉を取ると、少し苦味を帯びたふきの香りが。これぞ、ふきです。茎だけ集めて水にさらします。(料理教室では葉をゆがいて広げ、ごはんを包んで食べました。これまた美味!)

 

2~3センチほどに切り、再び水にさらします。(今回は半日ほど水にさらしました。)

水を切って、水気を拭き取ります。

 

醤油を沸かし、ふきを入れて時々混ぜながら煮ます。醤油の量はふきと同量。醤油は2種類使うと、味に深みが出るとのこと。今回は家にあった濃口醤油と薄口醤油を使いました。

 

弱火で煮るうちに、どんどん色濃くなってくるふき。残念なことに、目を離したすきに少し焦がしてしまいました…。ふき独特の苦味よりも塩辛さが優ってしまい、かなりしょっぱくなってしまった…。

調べてみると、ふきを茹でて砂糖やみりん、酒を加えるきゃらぶきのレシピもありました。

ふきはまだまだ生えている!めげずに、次回はこちらのレシピで試してみたいと思います。

 

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「字はうつくしい」 井原奈津子 福音館書店

先日、土佐町小中学校で英語を教えているエヴァンさんと話す機会がありました。

「昨日の夜、部屋にこれが出たんだよ!」エヴァンさんが見せてくれたのはムカデの写真!

どうやって捕まえたらいいのか聞かれたので「火挟で挟んで、油を入れた瓶に突っ込む」と伝え、さらにムカデが出なくなるおまじないも教えました。

紙に「茶」という漢字を書き、上下逆さまにして壁に貼るという非科学的なおまじないです。(調べてみると「ムカデはお茶が嫌いで、「茶」の文字を逆さにして貼っておくとお茶がこぼれるから、そこにはムカデが入ってこない」という説があるそう)

「 Amazing!」とエヴァンさん。英語圏で生まれ育ったエヴァンさんにとって漢字はとても興味深く、面白く、美しいものとして見えるようです。そして「書き順や何通りもある読み方が難しいんだ」とも。

この本には手で書いた色々な種類の文字が出てきます。漢字、ひらがな、カタカナ…。同じ文字でも書いた人によって文字の佇まいが違います。文字を通してその人の人柄まで伝わってくるような。懐かしい人や大切な人に手紙を書きたくなってきます。

エヴァンさんも筆を持ち「茶」と書きました。実に味わい深い文字。きっと、もう二度とムカデは出なくなるはずです。

2つ並んだ「茶」の文字。アメリカで生まれ育ったエヴァンさんとここ土佐町で出会えた不思議とご縁を感じました。

 

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読んでほしい

春の音

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春、桜開く頃のこと。水路に水が流れる音が聞こえ始める。傍らの田んぼからカエルの鳴き声。遠くには鶯の鳴き方が。耳元では春風が通り過ぎていく。

これから田んぼの準備やぜんまいわらびイタドリなど山菜の収穫も。「せわしい、せわしい」という町の人たちの声が聞こえてきそうだ。

山の麓に咲く桜の花びらが流れていく。一枚、また一枚。

季節はめぐる。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「木はいいなあ」 ジャニス=メイ=ユードリイ著, マーク=シーモント絵,さいおんじさちこ訳 偕成社

「木はいいなあ」。木がそばにあるとどんなにいいか、この絵本は教えてくれます。

葉はそよ風の中で口笛を吹くし、枝にのぼると遠くの方が見える。りんごの木だったら、木にのぼってりんごを取るし、ブランコだってつけられる。こかげを作ってくれて、お弁当も食べられるし、家を守ってくれる。

山に囲まれた土佐町ではさまざまな木が見られます。杉やヒノキ(春は花粉でなかなか大変笑)桜や欅、コナラや桃やネムノキ…。花を咲かせ、山に色を加え、めぐる季節を教えてくれます。

あちこちに気持ちの良い散歩コースもあるし、少し標高の高いところに行って木々の間を歩いて深呼吸、これも最高です。頭のてっぺんからつま先まで、澄んだ空気が通り抜けていきます。

「木はいいなあ」。心から同感です。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「はるかぜさんといっしょに」 にしまきかやこ こぐま社

山のあちらこちらに桜色が加わり、時々ウグイスの声も聞こえるようになりました。土佐町はもうすっかり春です!

春らしい風を感じながら歩いていると、足元にはたんぽぽ、オオイヌノフグリ、なずな、つくし、桃。庭先にはムスカリやチューリップ。色とりどりの花たちが、足取りを軽くしてくれます。

この絵本の主人公「こんちゃん」は、ふーっと風を吹かせる「はるかぜさん」と出会って、はるかぜさんについていきます。このはるかぜさん、何とも気持ち良い風を吹かせているようで、いつの間にかこんちゃんに続き、町の人たちも長い長い行列に。歩いて歩いて、みんなでたどり着いた丘でひと眠り。

ああ、いいなあ!私もこんな丘で、大の字になって寝てみたい。

春は、心も身体も開いていく季節なのだそうです。人間をそうさせるのは、はるかぜさんが新たな気持ち良い風を運んできてくれるからかもしれないですね。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「のせてのせて」 松谷みよ子 著,  東光寺啓 絵 童心社

1969年に出版され、もう50年以上読み継がれている「のせてのせて」。私が子供の時、母に何度も読んでもらい、私も3人の子供たちに繰り返し読んだ一冊です。

「まこちゃん」が赤い自動車に乗って出発、途中で「ストップ!のせてのせて」とうさぎやくま、ネズミの大家族が加わっていきます。その姿が何とも楽しげ。

ところが一転、ページは真っ暗。トンネルに突入して…さあ、どうなるか?

トンネルを抜けた先、「でた!おひさまだ!」という言葉に子供たちが笑顔になるのが好きでした。その顔見たさにこの本を読んでいたくらい。

何回も読んで知っているはずなのに、お話の世界を何度も行ったり来たりできる子供の姿が何とも愛おしい。

大切な一冊です。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「みんなでこんにゃくづくり」 菊池日出夫 福音館書店

土佐町で暮らし始めた頃、近所のおばあちゃんが家にやってきて「こんにゃく作ったき、食べや」とビニール袋を手渡してくれた。袋の中には、ソフトボール位の大きさの丸いものが幾つも入っていてずっしり重く、ほかほかと温かい。

これがこんにゃく!丸い

それまでこんにゃくといえば四角い板こんにゃくしか知らなかった。さらに、おばあちゃんは「そのまま薄く切って、刺身みたいにしょうゆをちょこっとつけて食べてみや」という。

刺身!

こんにゃくは煮物にしたり炒めたり、火を入れて食べるものだと思っていた。何と生で食べられるとは!その日の夕ごはんに食べたこんにゃくの刺身は絶品で、子供たちの箸も止まらない。あっという間に平らげた。

絵本「みんなでこんにゃくづくり」は、おじいちゃんやおばあちゃんとこんにゃく芋を育て、みんなでこんにゃくを作るお話だ。土佐町で暮らし始める前から、どこか遠い所の話だと思いながらページをめくって眺めていた「こんにゃくづくり」。それをリアルにしている人が現れたのはかなりの衝撃だった。

後日、おばあちゃんがこんにゃくを作るところを見せてもらった。掘っておいた芋をぐつぐつ茹でて皮を剥き、ドロドロになるまでミキサーにかける。浅木の灰を水と混ぜ、布で漉した灰汁を入れると立ち現れるこんにゃくの香り。混ぜ続けると次第に固まってくる。まるで化学実験だ。杉やヒノキの灰汁では固まらないと聞いて、この地の人たちの試行錯誤が見えるようだった。

土が足元にある暮らしは実にゆたかだ。身の回りにあるものを工夫して使って何でも作る。手間も時間もかかるが、この地で引き継がれてきた知恵に、この場所で生きるという強い意志を感じる。

 

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