新聞紙に包まれた四角い包みを受け取った。それは、早明浦ダムを見下ろす眺めのいい土地で新たな生活をスタートさせた友人家族が届けてくれた包みで、カズラのつるで丁寧に蝶々結びがしてあった。
友人は、ぶどうができたので持ってきた、と言った。
友人の住まいには前に住んでいた人が残したぶどう棚があって、もう何年も人の手が入っていなかった。家や畑を少しずつ整えながら草を刈り、ぶどうを狙うスズメバチとも戦いながら、やっと収穫を迎えたぶどうだった。
包みを開けると紫や黄緑、色とりどりのぶどうはみずみずしく、一粒一粒が宝もののように納められている。ぶどうの放つ存在感をしばし味わいながら、友人がこの実りを得るまでにあっただろう苦労や葛藤を思った。でも多分、友人は、持ち合わせていたしなやかさでそれさえも楽しみに変え、道を拓いてきたのだと思う。
笑顔で手を振りながら、友人家族は山に帰っていった。
ぶどうはもったいなくてすぐには食べられなかった。冷蔵庫を開け閉めしては眺め、次の日ようやくいただいたぶどうは、しみじみと甘く、とても美味しかった。