「老後の資金がありません」 垣谷美雨 中公文庫
老後資金は2000万円必要とか、政治家の発言。そんな足下にも及ばない自分の財布事情からは、楽しい題名。
どんな内容?
しっかり蓄えたはずの老後資金が、娘の結婚・舅の葬式・姑の生活費…などなどにどんどん減っていく。
家族の金難に振り回される主人公後藤篤子。
そんな時、思っても見ない奇策を演じる姑にハラハラ。
楽しい小説でした。
田岡三代
著者名
記事タイトル
掲載開始日
山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。
人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。
土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?
みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!
(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)
「新しい時代のお金の教科書」 山口揚平 ちくまプリマー新書
「そして将来お金はなくなる?!」
本質的な意味で「お金とはなんなのか?」を探る本。個人的には非常に勉強になったし、とてもおもしろかった一冊です。
お金とはなんなのか?
この疑問は「仕事とはなんなのか?」「社会とはなんなのか?」はたまた「人間とはなんなのか?」といった根源的な問いと同質のものですよね。
特に近現代の人間は、お金のために自分の人生から大部分の時間を割いて仕事にあてていると言っても間違いではないと思います。
ではその人生を費やして得る「お金」とは一体なんなのか?
実はその答えを明確に持っている人は意外と少ないのではないでしょうか?
この本はその問いに正面から取り組み、そしてお金という存在が今後どのように変化していくのか予想しています。
詳しくは本書を読んでみてほしいのですが、ひとつ印象に残った部分を挙げるとすれば、2枚目の写真に撮った「物語とつながりが切れる」という一文。
資本主義の限界、もしくは問題として巷間多く取り上げられるのは「格差の拡大」ですが、筆者はそれよりも大きな問題なのは「物語の毀損」であると言います。
本来、モノとはその所有者との間に物語を有している。例えば「おばあちゃんが昔着ていた着物」などというモノは、その所有者である人(この場合はお孫さんかな?)の視点で見れば他とかけがえのない一点モノであるわけですが、資本主義というものはその所有者が持つ物語をザクザクと切り裂いて貨幣価値に換算していく。
「おばあちゃんの形見」という物語は毀損され、「この着物は○○円だから価値がある」とか逆に「○○円だから価値がない」といった価値判断がなされる。
人間にとって、そういった個人の物語というのはとても重要な位置を占めるはずなのに、資本主義はそれをまるでブルドーザーかのように貨幣価値というものさしで真っ平らにしていく。
これが資本主義の1番の問題である、ということを著者である山口揚平さんは述べていて、そしてそれを読んだ僕は心からの同意をしたのでした。
資本主義の限界が盛んに取り沙汰され、次代の世の中の仕組みを多くの人が模索している昨今、貨幣価値にやられちゃいそうになっている「人間の物語」を人間の手に再び取り戻す、そんな視点から未来の世の中を想像してみるというのもおもしろい。そう思います。
「はたらく① 本屋」矢萩多聞文,吉田亮人写真 アムブックス
瀬戸内アートブックフェアで出展していた、装丁家矢萩多聞さんのブースで購入した一冊です。アートブックフェアに合わせて作ったというこの本は、手にするとぷーんとインクの匂いがしてきます。前日まで夜な夜な糸で綴り、一冊ずつ手で製本していたそうです。まさに「生まれたての本」という佇まいをした本でした。
大阪の本屋で働く「みのるさん」の1日を追ったこの本は、みのるさんが本を読みながら田んぼの脇道を通って、お店へ歩いて出勤するところから始まります。
なじみのお客さんが今日発売の雑誌を買いに来たり、女の子が買いに来た算数ドリルを一緒に探したり、お昼には近所のお店へ黒パンを買いに行くみのるさん。小学生の時からのお客さんと今一緒に働いていたり、12年間やっているけれどプレゼント包装はまだうまくできなかったり…。そして夜10時にお店のシャッターは閉まります。
こういったことはきっと誰にでもあって、身の回りに当たり前のようにあることかもしれません。でも、その当たり前のようなことが実は特別で、私たちの毎日は、目の前の人たちとの関係や何気ないものごとの重なりでできているんだと実感します。
世の中は、一人ひとりの人の存在で成り立っている。
そう思うと目の前の風景がまた違ったものに見えてくる気がするのです。
多聞さんの本を作ることへの愛情と熱が伝わってくるこの一冊。
「はたらく」シリーズ、次の号がとても楽しみです。
鳥山百合子
「かくしたのだあれ」 五味太郎 文化出版局
以前紹介した「たべたのだあれ」と同じように、何度も破れてはテープを貼り…を繰り返してきた本です。2枚目の写真にあるように「ぼうしかくしたのだあれ」という言葉のあとに「たくさんの鳥の中に明らかにぼうしをかぶっている鳥が一羽いる」という何ともわかりやすい仕組みになっています。
ワニの歯が歯ブラシに、たぬきの尻尾は靴下に…。五味さんのユーモアとアイディアには脱帽です。
本を受け取る人が笑顔になったり、ちょっと元気をもらったり、そんな本を作り続けている五味さんにいつかお会いできたらいいなあと思っています。もしお会いできたら、この本を手にした子どもたちがどんなに喜んでいたか、そして私自身が今も時々ページを開いては、懐かしい子どもたちの顔を思い出していることを伝えたいです。
鳥山百合子
「樹木希林さんからの手紙」 『NHKクローズアップ現代』+『知るしん』制作班 主婦の友社
「人生上出来!と、こらえて歩こう」の副題。
大きな病(癌)と闘いながら、自分自身を見つめ続けた姿が、いろんな方への手紙の端々に感じられる樹木希林さんの手紙。
そのひとつに、
『前略 あさはさん
「言葉ってものは傷つけもするし
幸せにもする 単純な文法です」
ブラジルの11才の少年のことばです
原文はポルトガル語
私はネ60才すぎて癌になってガチンと響きましたヨ 遅いけど その罪ほろぼしでこうやって手紙書いてます』
と、直筆の手紙が紹介されています。
もっともっと生きていて欲しかった樹木希林さん…です。
田岡三代
「死の壁」 養老孟司 新潮新書
週に一度水泳にいきはじめて5年を過ぎた。その間の半分位を休んではいるけれど。水泳のコーチは、2歳うえでマスターズで何度も優勝。行動的でバイタリティーあふれる人だった。
先日、そのコーチが練習中亡くなった。あっという間の出来事だったと聞いた。あまりに突然でショックだった。
以前に上滑りだけ読んでいた「死の壁」を開いた。誰もが必ず通る道でありながら目をそむけてしまう「死」の問題。人間の死亡率は100%。死といかに向き合うべきか、生と死の境目はどこにあるのか。
自分の老いも感じ始めたこの頃、たまに考えておくと安心して生きていけると作者はいうけれど、本当だろうか。
川村房子
「とんとんとめてくださいな」 こいでたん文, こいでやすこ絵 福音館書店
お友達の赤ちゃんが初めての誕生日を迎えるという時、何度この本にお世話になったことでしょう。本屋さんでこの表紙を見つけたら、探していた人に会えたような気持ちで手にし、贈り物にしてくださいと包んでもらってきました。
三びきのうちの赤いスカーフを巻いたねずみが何とものんびりしたのんきな子で、他の二匹が不安そうにこれから開くドアを見つめているというのにずっとぐーぐー寝ていたり、家の主がごちそうしてくれる時にはちゃっかり膝に座ってシチューをいただき、みんなが安心して眠る時には自分だけ目が冴えて栗をコリコリかじっています。我が道をゆくその子に「ウンウン、そのままでいいぞ!」といつも思います。
こいでさんの描く絵には物語への愛情とそこで営まれてる丁寧な毎日が描かれていて、忙しくしていると忘れがちな大切なことを思い出させてくれます。鍋からあがる湯気や台所の野菜たち、棚に並べられた蜂蜜のびん…。一見何気ないものごとが、日々の暮らしに楽しみと体温を与えてくれているのだなとあらためて感じます。
私もできるところから。
今日もごはんを作りましょう。
鳥山百合子