「風の谷のナウシカ」 宮崎駿 徳間書店
さてさて、私の1冊「風の谷のナウシカ」第2部。随分と間が空いてしまいました。あいすみません。
前回は2巻の続きまでだったので、そこからを語っていきたいと思います。
2巻には、アニメにも出てくる有名なシーンがあります。王蟲の幼生をおとりに使う場面です。原作ではペジテ市の残党の作戦ではなく、土鬼がクシャナの軍を殲滅するために用いる作戦です。しかもこの作戦はトルメキアの皇子もしくは王から、クシャナ暗殺の為に意図的に土鬼にリークされた情報によるものです。ナウシカは犠牲を減らそうと、土鬼の戦艦から脱出し味方に伝えに行きます。しかし、怒りに猛る王蟲の方が早く、クシャナ直属軍は、コルベット1機を残して壊滅。クシャナ自身もクロトワの機転によって何とか難を逃れます。ナウシカは全ての惨状を見て、王蟲の幼生を救い王蟲の怒りを鎮めようとします。クシャナは嵌められたことに怒り、部下を失ったことに深く悲しみ、己の髪を断ち餞として上空から投げ捨てます。口元は唇を食い切らんばかり、歯を割らんばかりです。私には過剰な感情を捨て、冷静で冷徹な指揮官になろうと、更に悲壮な覚悟をしているようにみえます。そこにナウシカが王蟲を助けるため、メーヴェで乗り込んできます。土鬼の服をきていたナウシカが情報を流したのではないかと、クシャナは疑いますが、"ドルクはあなたが南下してくるのを開戦前から知っていた。時間をかけねばあの罠ははれないわ。"というナウシカの一言で考えを改め、王蟲の幼生救出に手を貸します。そこでアニメのシーン'金色の野に降り立つ~'という場面が登場するわけです。アニメでは風の谷の大ばば様が、見えない自分の代わりに子供に風景を描写させ、古の伝承を思い出し涙を流すのですが、原作では土鬼のマニ僧正と傍付きの少女ケチャがその役割を担っています。
ここで注目したいのが金色の野の下で、ナウシカを見上げるクシャナの表情です。どう表現したらいいのか分かりませんが、深く驚いているようにも、呆然としているようにも、何かの疑問に対して考えを巡らせているようにもみえます。しかし、ナウシカとクシャナが関わって行く中で、印象深い一コマでもあります。清く優しい(ようにみえる)ナウシカが金色の野にいて、それを影になった地上から見上げるトルメキアの(=血みどろの)白い魔女。相対的な構図が少し痛々しく感じるのは私だけでしょうか。でもそこに王蟲の癒しの力を持つ光る粉が降り注ぎ、私の心も少しは慰められるのです。描かれ方は違えど、話す言葉は違えど、表裏一体のようなナウシカとクシャナは、ここで強く結びつくのではないでしょうか。
さて場面は少し進んで、ナウシカは王蟲と心を通わせ、これより南の森(土鬼領)が助けを求めており、そこに王蟲が向かうことを知ります。王蟲はそれ以上のことは明かさず、"北へオカエリ"と伝え去っていきます。ナウシカはここで決めたのでしょう。このままクシャナに従軍し、何が起ころうとしているのか確かめると。土鬼は囮に王蟲の幼生を使っていましたが、ナウシカの見立てでは推定12回は脱皮している王蟲の幼生を腐海から奪ってくることは不可能であり、そこに何かがあると確信していました。そして腐海中の王蟲たちが動き出していることは、『大海嘯』の予兆ではないかと推測します。
ナウシカは1人で従軍し、ミトたち城おじは風の谷へ戻りました。ミトはナウシカの推測と意思を、族長であり父のジルに伝えます。また、辺境諸国の族長が集められ、そこで『大海嘯』の詳しい説明が、辺境いちの大年寄りである、大ばば様からなされます。
・『大海嘯』とは突如として腐海が沸きかえり押し寄せることを言う。王蟲を始めとした蟲が主に怒りを理由に我を忘れ、大集団となり襲いかかる。飢餓を理由に死ぬと、体に付着していた腐海の植物たちが一斉に発芽し、新たな腐海を形成する。
・『大海嘯』は『火の7日間』のあと3回おこり、最後は300年前内紛状態であったエフタル王国を滅ぼした。それは20日間エフタル王国全土に及び、多くの命、住むことのできる場所、伝わっていた奇跡の科学技術が失われた。今腐海のほとりに住む辺境諸国の人々は、その末裔であり王を頂かずトルメキアの同盟国(属領)になった。蟲使いたちは内戦時に王蟲を殺し、硬い外皮を調達していた武器商人の末裔であり、『大海嘯』のあと腐海に暮らすようになった。
この説明通りであれば、『大海嘯』が起きれば蟲もヒトも動植物も多くが死にます。ジルはナウシカの為にガンシップを使い、師であるユパを探すよう、ミトに命じます。そして"おろかなやつだ…たったひとりで……世界を守ろうというのか……ナウシカ……"とその身を案じながら息を引き取るのです。その表情は少し誇らしげにも、また少し後悔しているようにもみえます。腐海に生きるものは石化の病にかかります。もしかしたらジルの表情は、長い間に染み付いた表情なのかもしれません。
場面は変わり、ユパはセラミック鉱山の街で腐海に向かう船を探しいていました。セラミック鉱山といっても、宇宙船の残骸を切り出して使用しており、今はトルメキア戦役のおかげで特需状態です。ユパは、何故か蟲使い達が鉱山に出入りし、土鬼皇帝貨を使っていることに疑いを持ち彼らを船に潜入します。そこで見たものは、培養液らしきものに浸されたなにかの欠片でした。蟲使いたちの本拠地に潜入したユパは、土鬼僧正たちの密会と蟲使い達との商談を目撃します。(その中にはマニ族もいました。)更に王蟲が培養されていることを確信し、戦慄します。しかし、蟲使いの蟲に見つかり、密会の現場に躍り出てしまいます。土鬼と蟲使いがた襲いかかってくる中、マニ族のなかから1人の戦士が立ち会いを臨んできます。戦う中、マニ族の戦士が自分はペジテのアスベルであり、助太刀すると耳打ちします。2人は戦いの途中でうまく培養層を破壊し機械を壊し、マニ僧正とケチャと共に脱出しようとします。しかしそこに王弟ミラルパが登場します。マニ僧正は勝てないと悟りながらもミラルパを相手取り、念動力で戦いユパ達を逃がします。そしてマニ族に虐げられてもめげず生きることを説き、古き予言にある青き衣の人が大地との絆を結び人々を導くだろうと激励します。ミラルパはその者の名を知ろうと更に攻撃を仕掛けますが、マニ僧正はナウシカの名を言わずその身を楯にしてユパ達を逃がします。マニ僧正の強い思念は、遠くナウシカの心に届きます。"僧正さま!?お別れ……なぜ!?"突然のことにナウシカはマニ僧正の元に思念をとばそうとしますが、そこには超常の力をもつミラルパがいます。ミラルパにからめとられそうになったその時、マニ僧正の最期の力がナウシカを守ったのでした。ナウシカは王弟ミラルパの思念体を'生きている闇'と評しました。
今後ナウシカはその闇と光、蟲と人間、生と死の狭間を歩んでいきます。
それではまた3巻が書き終わるまで、今しばらくお待ち下さい。