2018年6月

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

西原聖子

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「お聖どん・アドベンチャー」 田辺聖子 集英社文庫

田辺聖子さんの小説。
私の名前の由来となった作家さんで、初めて読んだ田辺さんの本です。

文章が苦手だったので田辺聖子さんの本も読んだことがなく、勝手に新源氏物語など古典をイメージしていましたが、これは未来のお話。 政府に表現の自由を奪われ、聖子さん、筒井康隆さんなど作家さんたちが仕事をなくして…と言うお話です。

自分のイメージと違ったお話は親しみが湧き、田辺さんが好きだったおばあちゃんが、その好きだった田辺さんの名前を私に付けてくれたことが今更ながらとっても嬉しく思われた一冊です。

  西原聖子

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土佐町ストーリーズ

ねむの花

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「いや~、百合子さん。そろそろだよ。」

これは、笹のいえの洋介さんとのある日の会話。

 

そうそう、洋介さん、私もそう思っていた。
6月、私たちはそわそわし始める。国道439号線を走りながら「あの木」のある去年の風景を思い出し、確かあの木がそうやったと見定める。

そこから毎日の観察が始まる。

あの木、緑の葉をあんなに茂らせている。
そろそろかもしれない…。

そんなことを思いながら同じ道を通る日々が何日が続く。

 

ある日、はっとする。

咲いてる!

 

今年も咲いた。小さな線香花火のような、桃色と白のふわっとした軽やかな花。
それは、ねむの花。

「ねむの花が咲いたら、大豆の蒔きどきだよ。」

 

土佐町で暮らし始めたばかりの頃、近所のおばあちゃんが教えてくれた。

ああ、大豆を蒔かなくては!大豆で味噌や麹を作るのだ。

 

その言葉を知ってから、この花の咲く頃はそわそわして仕方がない。
そして咲いている間、ずっと私は落ち着かない。(早く種をまけばいい話だが。)

 

この季節にそわそわしているのはきっと私や洋介さんだけではないはずで、私にその言葉を教えてくれたおばあちゃんも、あの人も、あの人も、きっとねむの木を見上げ、独り言をいっているに違いない。

「大豆を撒かなくては!」

 

カレンダーや手帳に書かれた予定ではなく、この地に育つ花や木が「この季節がやってきましたよ」とそっと耳元で内緒話をするように教えてくれる。

それはコンクリートの上からは聞こえてこない声。気づこうとしないと気づけない声。

それは大地からの手紙のようなものなのかもしれない。

 

この地で繰り返されてきた営みを支えるその声に耳を澄まし、心に置き直す。

さあ、大豆の種をまこう!

 

 

*大豆だけではなく、小豆など豆類の種はこの時期に蒔くと良いそうです。

 

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私の一冊

渡貫洋介

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「発酵道」 寺田啓佐 河出書房新社

 

「ベタベタと甘く、二日酔いするだけの酒」という僕の日本酒の印象を全く変えてしまった寺田本家。

筆者は他界しているが、その意志は次世代に伝わり、いまもプクプクと発酵している。

目に見えない微生物たちに、僕たち人間が学ぶことはまだまだ多い。

渡貫洋介

 

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土佐町ストーリーズ

すももの季節

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どんぐりさんとの打ち合わせが終わって外へ出ると、ワイワイとなにやら人だかりができている。

「あ!ちょっとこっち来や!よかったら持っていきや~。」

こちらを振り向いた笑顔のその人が指差した先にあったのは、かごいっぱいのすもも!

なんて美しい色なんやろう!

 

さっき採ってきたばかりというだけあって、つやつや、ピカピカ紅色に光っている。

「うちで採れたもんやき、好きなだけ持っていきや!」

カゴの前にしゃがんですももを袋に詰め、立ち上がると「え?それだけでいいが?もっと持っていきや!」と、次々と何本もの手が袋にころころと入れてくれる。

すももの入った袋をそれぞれの人が手にしながらにこにこと笑い、みんなはまたおしゃべりを始めた。

 

 

土佐町の人たちはもしかしたら気づいていないかもしれない。

すももをカゴにいっぱい採って好きなだけ持っていきやと言えること、季節の食べ物が手の届くところにあるということ、この風景が日常であることが、どんなにゆたかであるか。

こういったやりとりに、私がどんなに励まされているか。

 

私たちの毎日の中には当たり前のようでいて実は当たり前ではないことが、あちらこちらにちりばめられている。

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私の一冊

西原聖子

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「お弁当カレンダー」 家の光4月号付録(昭和48年発行)

 

一人暮らしを始めた時に、おばあちゃんに譲ってもらったお弁当の本。

素材別の副菜アレンジのページを見てお弁当生活だった頃はちょこちょこ作ってたなー。

表紙は色褪せてますが、今でも色褪せない内容だ、と私は思うのです。

西原聖子

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くだらな土佐弁辞典

びっと・ちっと

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びっと・ちっと

【形】びっと⇨ちょっと ちっと⇨たくさん・ちょっと

例:ビットコイン、びっとこうたのにちっともうけたちゃ

(ビットコインちょっと買ったのにたくさんもうかりました。)

「ちっと」はアクセントの違いで2通りの意味があります。

ちっと↘=たくさん

ちっと↗ =少し

 

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私の一冊

渡貫洋介

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「しばわんこの和のこころ」 川浦良枝 白泉社

 

日本に昔から伝わる風習文化を、しばわんこが紹介する。

知っているようで知らなかった、僕たちの暮らし方とその意味や由来を分かりやすく解説している。

座ぶとんにも裏表があるって、知ってました?

渡貫洋介

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これは良いニュース!!

設立以来、破綻と復活を繰り返していたパクチー銀行土佐町支店がこの度、初の種の返済を受けることができました!

以下、6月22日(金)の土佐町新聞朝刊です。

初!種の返済

土佐町在住・矢野信子さん

パクチー銀行土佐町支店 ついに健全経営への一歩か

 

パクチーの世界的普及活動で知られるパクチー銀行(以下パ銀)の土佐町支店が昨年から立て続けに起こした破綻騒動は記憶に新しい。しかし今回、パ銀は融資した種の回収に初めて成功したことを発表した。 (土佐町支社)

パ銀関係者の話では、パ銀土佐町支店は高知県土佐町でのパクチー普及を目的とし2017年9月に開設。支店は土佐町役場玄関を住居にしているペッパーくん横に設置され、誰もがパクチーの種を持ち帰り栽培できる仕組みになっていた。

パ銀は種を希望者に融資し、栽培した人が収穫の一部を種で返済することで成立する。しかし種を持って行く人はいても種を返済する人が現れず、二度の破綻騒動の直接的な原因となっていた。

一時は存続自体が危ぶまれた土佐町支店だが、この度当紙が入手した情報によると、ついに収穫された種が一部返済された模様だ。

記念すべき初の返済者は、土佐町役場勤務の矢野信子さん。矢野さんは自身のプランターで栽培したパクチーの一部を種にすることに成功し、6月14日パ銀に初の返済がもたらされた。

矢野さんは「栽培自体は難しいことはなかった。パクチー銀行がまた破綻しそうなので見ていられないので栽培した」とコメント。ちなみに返済した種は「発芽するかどうか植えてみないとわからない」という。

初の返済を受け、土佐町支店長の石川氏は「これは土佐町パクチー王国化の始まりの一歩に過ぎない」と記者に低い声で語った。同日、支店長の机に「デーモン閣下」という題名の書籍があったのを記者は目撃している。インタビュー中に複数回「我輩は‥」と言いかけて恥ずかしそうな表情をしたので、影響を受けている割には馴染んでいない、またはモノマネの質が低過ぎて恥ずかしい、そのどちらかもしくは両方の可能性があると専門家は見ている。

現在土佐町支店は青木幹勇記念館に移動しているが、開催中の「石川拓也とさちょう写真展」の終了(6月30日)と共に土佐町役場玄関に戻る予定。

パ銀土佐町支店は、引き続きみなさまからの返済をお待ちしています!

返済された種は、支店が新たな希望者へ融資いたします。支店長が私服を肥やすようなことは決してありませんので安心してご利用ください!

 

以下、過去の記事です。

まずパクチー銀行開設

パクチー銀行土佐町支店オープンです!

そして一度目の破綻

[ニュース]パクチー銀行土佐町支店が破綻しました。

破綻を乗り越え再開

[ニュース]パクチー銀行土佐町支店が再開です。

そして二度目の破綻!

【ニュース】破綻再び-パクチー銀行

前回の復活!

【ニュース】パクチー銀行・復活

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私の一冊

鳥山百合子

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「太陽と月」 青木恵都訳 タムラ堂

南インドのターラー・ブックスが2016年に出版した「Sun and Moon」の日本語版。

この本の紙は布でできている。木綿の端切れと水を一緒に細かく砕いて撹拌、それを漉いて紙にしている。
そして職人さんが「シルクスクリーン」で一枚一枚手で刷り、製本も全て手作業。

ターラー・ブックスの人たちのやってきたこと、この一冊の本から伝わってくることは、なんだか言葉にできなくて、ちょっと溢れそうになっている。

本の裏表紙にはエディションナンバーが書かれている。
私の本は「1964 of 2000」。世界で一冊の手作りの本。

先日長女が「この本、とてもきれい。なんだかずっと見ちゃうね。」と言った。
「なんだか、いい匂いがするね。」

「それはインドの匂いなんやって。」
インドに何度も行っている人からそう聞いたことがあったから伝えると、へえーという顔をして何度もページをめくっては戻り、めくっては戻りしていた。

インド。行ってみたい。行きたい。

『太陽は 生命をもたらし 月は 時をきざむ。』

鳥山百合子

 

 

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読んでほしい

1周年記念! ②

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当ウェブサイト「とさちょうものがたり」は6月15日にオープン1年となりました!

これもひとえにいつも訪れていただいている読者の方々、そして楽しんで記事を作成してくれる執筆陣、様々な形で支えてくださっているたくさんの方々、みなさまのおかげです。改めて御礼申し上げます

今回は1周年記念として、とさちょうものがたりが手がけた記事の中で、特にゲストを招いて開催された講演やイベントを、何回かに分けて振り返ってみたいと思います。

 

パクチーハウス東京・佐谷恭さん

 

No.2  1日限りのパクチーフェス in 黒丸

ちょっと話が長くなるかもしれません。

現在の日本のパクチーブームの火付け役が、東京の経堂という町にあった「パクチーハウス東京」というパクチー料理専門店であることはよく知られている事実です。

ここで供される食事は全てがパクチー。何から何までパクチーで、パクチー好きなら天国のようなお店でしょう。

 

●「絶対失敗する」と言われながら繁盛店

このお店の店主が佐谷恭さん。佐谷さんは10年前にパクチーハウス東京を立ち上げたのですが、当時はもちろんパクチー料理専門店なんて世界のどこにも存在していなかった。この新しいアイデアを実現したかった佐谷さん、周囲に意見を求めたところ、「絶対失敗する」「危険すぎる」とネガティブな反応がとても多かったそうなんです。

それでも「世界初のパクチー料理専門店」というアイデアに熱中し挑戦したところ、パクチーハウス東京は予約困難な大繁盛店になりました。いつしか日本全体でパクチーブームとでも呼ぶべき現象が起き、パクチー料理店はあちこちにでき、コンビニで売っているお菓子やカップラーメンなんかにも「パクチー味」が登場しています。

 

●黒丸でパクチーフェス

2017年7月30日、とさちょうものがたりはパクチーハウス東京のスタッフと「1日限りのパクチーフェス in 黒丸」を開催しました。

黒丸という土佐町の中でも最も山奥にある集落。その旧・瀬戸小学校が会場です。ここで土佐町で採れる季節の食材とパクチーを掛けあわせたイベントを開催しました。

食材集めには、黒丸を始め土佐町の方々に大きく助けていただきました。「これ使って!」と野菜を持ってきてくれる方もいらっしゃいました。土佐町という土地の大きな底力を感じさせてもらったイベントとなりました。

当日は予想を超え、100名以上のお客様が集まっていただきました。四国はもとより、東京からわざわざ足を運んでいただいたパクチーハウスのファンの方々もいらっしゃいました。到着するとみなさんが笑顔で「遠い!」「ここまで山奥と思ってなかった!」などと笑顔で言われていたのが印象的でした。

スタッフ側から見たイベントは、バタバタのひと言。予期せぬことの連続で、厨房は戦場のような様相でした。料理をお待たせしてしまったお客様もいらっしゃったと思いますが、それでもニコニコと楽しんでいただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。改めてありがとうございました。

 

●ほんとにやりたかったこと

パクチーフェスを黒丸でやるにあたって、隠し味のようでいて大切にしていた思いがありました。

それは、店主の佐谷さんのストーリーを土佐町の、特に子供たちに少しでも伝えること

先述したように、佐谷さんがパクチーハウスを東京に作ろうと考えたとき、そこに先駆者は一人もいませんでした。

ビジネスの先輩、飲食店の先輩はいても、パクチー料理専門店の先輩はいなかった。

周囲の「絶対失敗する」「危険すぎる」という意見を聞きながら、それでも佐谷さんは自分のやりたいことに耳を傾け、実現させました。結果は先に書いた通りです。

このストーリーには、「仕事」というものを考える上でとても大切なことが含まれています。誰かが作ってお給料の出るいわゆる「仕事」ばかりが仕事ではない。今はまだ世の中には現れていない新しいものが、多くの人をわくわくさせるような仕事になる可能性はあるのです。

 

●そのとき、あなたは誰の意見を聞きますか?

考えてみれば、当時佐谷さんに「絶対失敗する」とアドバイスした方々は、パクチー料理専門店に挑戦したことがない人たちばかり。そういった状況で、「ああやっぱりダメか」と諦めてしまうといったことは、もしかしたら世の中にとても多いのではないかと思います。

土佐町の子供たちがこれから将来の仕事を考えていく上で、佐谷さんのように「やりたい仕事を作る」という選択肢も存在するという事実を、少しでも伝えられたらいいなと考えていました。

念のため付け加えておくと、これは「夢を追え」という単純な話とは少し違います。佐谷さんもパクチーハウス以降に作ったお店を一つ失敗しているということも聞きました。そしてそれもこのストーリーには大切な要素なのです。

 

 ○以下は当時とさちょうものがたりで公開した記事です。

パクチーハウスがやってきた!

黒丸の道

「一日限りのパクチーフェス!」レシピ

○パクチーフェスをきっかけに設立されたパクチー銀行土佐町支店もよろしくお願いします。

パクチー銀行・復活

 

 

 

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