小笠原に住む先輩が笹に遊びに来たとき、「今度はうちにおいで」と長女長男を誘ってくれた。これは良い機会と、当の本人たちが返事をする前に、僕は「行きます!」と言っていた。そんなわけで、長女と長男と付き添いの友人が、早めの夏休みをスタートさせて、小笠原村父島へ滞在することになった。
高知から小笠原へ行くには、なかなかの長旅となる。
夜8時過ぎ高知駅で深夜バスに乗り込み、翌朝に東京八重洲着。そこから電車で浜松町に移動し、11時に出港するおがさわら丸に乗船する。さらに24時間、南へ南へ船を進め、やっと父島に到着する。家を出発してから約41時間、移動距離1,800キロを経て、やっと現地に着く。交通網の発達した現代で、世界のどんな場所よりも遠い場所のひとつだろう。でもここは東京都。走る車は、品川ナンバーだ。
父島は以前僕が数年間暮らしていたところで、奥さんと出合った思い出深い場所でもある。僕たちの第二の故郷だ。その島で自分の子どもたちがどんな経験をしてくるのか、お土産話をとても楽しみにしてる。
一方、留守番組の五名は、上のふたりが不在なことで、いろいろ気づきがありそうだ。
長男長女には洗濯物の片付けやお風呂や部屋の掃除、食器洗いなどを担当してもらっていたが、これを僕ら夫婦でこなすことになる。これが地味に時間を取られて、ふたりが家庭において大切な「働き手」であることを身をもって感じてる。
一番大きな変化となるのは、次男だろう。
お姉ちゃんお兄ちゃんがいるときは、三番目として、のほほんとしていたが、突如としてそうはいかなくなった。
母ちゃん父ちゃんが家事や下の子たちにかかりきりになるわけだから、以前にも増して「自分のことは自分で」やらなければならなくなった。親から頼まれごとが多くなり、下の子たちからはあれしてよこれやってよとリクエストが飛んでくる。普段からマイペースでのんびり屋、小学校二年生になってもまだ幼さが残る次男の頭の中は、きっとこんがらがっているに違いない。側から見ても大変そうだと思うが、この試練?によって、彼の成長スピードが加速しているように思える。
その下の次女三女も、頼れるふたりがいないことで、何かを感じているように見える。しきりに「いつ帰ってくるの?」と聞いてくる。滞在先の友人からスマホに送られてくる写真や動画を一緒に見ながら、早く会いたいとせがんでくる。
あるとき奥さんと、子どもが三人のときってこんな感じだったかねーと思い出話。あの頃は子育て大変だと思ってたけど、三人でも五人でもやっぱ相変わらず大変だね、と笑い合う。
これまでは家族全員がひとつの単位だったけれど、子どもたちが大きくなるにつれ、今回のような「別行動」も増えるだろう。
もうはじまっている子どもたちの「親離れ」を、楽しみながら見守ることにしよう。
写真:小学校行きのスクールバスが来るバス停まで歩いて二三分だが、ひとり行くのはまだ不安とのことで、僕か妻に付き添ってもらう次男。彼の「親ばなれ」はもう少し先みたいだ。バスを待っている間、彼と二人きりのおしゃべりタイムは、大家族では貴重なひとときだ。この日は、前日に捕まえたカミキリムシをクラスメイトに見せると虫かごを持って行った。