鳥山百合子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「星のような物語」 星野道夫 NHKプロモーション

写真家 星野道夫さんは1996年、取材先のカムチャッカ半島で事故により亡くなりました。

星野さんがもし生きていたら、お会いしたかった。星野さんの本を手に取るたびにそう思います。

星野さんのまなざしが伝わってくる写真と、星野さん自身の「軸」が隣に感じられるような文章がとても心に響きます。

「あわただしい、人間の日々の営みと並行して、もうひとつの時間が流れていることを、いつも心のどこかで感じていたい。」

「人の言葉ではなく、いつか見た風景に励まされたり勇気を与えられたりすることが、きっとあるような気がする。」

「これからどんな旅が待っているのか、自分自身にもわかりません。が、どれだけ長い時間をひとつの土地で過ごそうとまだすべて見ていないという心の白地図だけはいつまでも持ち続けたいものです。」

星野さんが暮らしたアラスカの空も、この場所の空も繋がっているんだということを思い出させてくれます。

 

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山の手しごと

エンドウの収穫

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土佐町早明浦ダムのほとり、上津川地区で暮らす高橋通世さん。猟師であり山師であり、山暮らしの達人です。敷地内には季節ごとの花が咲き、いつも楽しげに最近の出来事を話してくれます。

4月にワラビを収穫させてもらった時に「5月の終わりにはエンドウがなるき、また取りにきたらえいよ」と言ってくれていました。

そろそろ連絡がある頃だろうかと思っていた6月初旬、通世さんは電話をかけてきてくれました。

「エンドウ、取りにきいや」

 

張り切って上津川へ向かいました。

なんと、想像を超える一面のエンドウ畑!これは気合いが入りました。

 

 

エンドウとつるが繋がっているところに親指と人差し指を重ね、親指に、きゅ、と力を入れて採るといいとのこと。

 

 

おしゃべりをしながら収穫すること1時間、こんなに取れました!ずっしり、なかなかの重量。「さ、帰って(さやを)はごうか!」

 

ここは標高600メートル。気持ちの良い風が吹いていました。

 

道の途中には、山水が流れ出ています。谷から引いている山の水は、絶えることがありません。なんてゆたかなのでしょう。冷たくて甘い水をゴクゴク飲むと体がシャキッとします。

 

山イチゴも見つけました。イチゴのつぶつぶの中に、時々「あり」が隠れているので注意!
甘酸っぱくて美味しいです。たくさん集めてジャムにしたい。

 

座る場所を用意して、さやをはぎます。
時々コロコロ飛び出していく豆たち。井戸端会議をしながら、忘れずに手もせっせと動かします。

 

 

一つのさやに行儀よく、くっついて収まっている豆たち。どうしていつも、こんなにきれいに並んでいるのでしょう。
この一粒ずつがまた来年の種になるのですから、自然は不思議で偉大です。

 

収穫したエンドウはまず、豆ごはんにしていただきました。ホクホクしていてとても美味しい!
普通に水加減をして、お酒と塩、豆を冷凍のまま加えて炊くだけです。

他にも、煮物に一緒に入れたり、ちょっと緑色がほしいなという時に重宝します。

この季節しか収穫できないエンドウは、さやから出してジップロックなどに入れてそのまま冷凍しておくことができます。

 

 


 

きっと通世さんは、また次の季節の仕事の準備をしていることでしょう。

あの山に通世さんがいると思うだけで、何だか励まされるような、元気が出てくるような気がするのです。

 

 

 

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「外来植物 高知嶺北 A・B」 山中直秋

土佐町の山中直秋さんが自費出版した本です。
牧野植物園が行った高知県内の外来植物を把握する調査に参加した山中さん。嶺北地域を担当し、嶺北の外来植物をまとめたものです。

道端でよく見られるあの花この花が掲載されていて「え?!あの花も外来植物だったのか!」と驚かされます。

山中さんは今年、牧野植物園が行っているたんぽぽの調査にも参加されていました。外来種、在来種のたんぽぽがどのように分布しているか調べるのです。私も調査に参加させていただのですが、これをきっかけにいつも通り過ぎ、見逃していたたんぽぽの存在に気づくようになりました。新しい世界を知るのは面白いことです。

ある日、土佐町の溜井地区を車で走っていた時に山中さんにお会いしたことがありました。
「溜井に在来種のたんぽぽがあるって聞いて、探しに来たんだよ!」ととても嬉しそうに話してくれました。

その何日か後、山中さんの家の庭に、ひとつ、たんぽぽがちょこんと植えられていました。とても丁寧に植えられていることがわかる佇まいでした。聞いてみると、溜井で見つけた在来種のたんぽぽのひとつをここへ植えたのだそうです。(ちゃんと根付いたそうです!また来年も咲くのでしょう。)

山中さんのこの本は、土佐町の青木幹勇記念館で購入することができます。
(青木幹勇記念館:〒781-3401 高知県土佐郡土佐町土居437 TEL.0887-82-1600)

興味のある方はぜひ!
道を歩き、草花と出会うことが楽しくなること間違いなしです!

鳥山百合子

 

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「繕う暮らし」 ミスミノリコ 主婦と生活社

薄くなった靴下のかかと、Gパンのズボンのポケット、木登りして盛大にお尻の部分が破れた息子のズボン、転んで穴が空いたズボンの膝小僧。

裏側から布を当てて、色々な色の糸でチクチク繕う。夜は眠くなってうとうとしながら縫うので、針で指を刺してハッと目が覚める。

息子が小さかった時、穴のあいた箇所をチクチクと繕ったズボンを嬉しそうに学校へはいていった。そうやってちょっと手を加えたものは古くなっても小さくなってもなかなか手放せず、引き出しに大事にしまってある。

ひと針ひと針、針を進める作業は自分の心と会話する時間でもある。

ざわざわ、モヤモヤする気持ちを軌道修正しながら、縫いあがってちょっとかわいく生まれ変わった靴下やズボンをたたむ。ふと見渡した周りの風景が、いつもとはちょっと違うものに見えたりする。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「ながい旅でした。」 砂浜美術館 編集・発行

「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」

この本を作ったのは、高知県黒潮町にある「砂浜美術館」。

町に新しいハコモノを作るのではなく、もともとここにある海や砂浜、ここにある季節に沿った人々の営みや知恵を「作品」として、この環境そのものを美術館にしようという考えで砂浜美術館は生まれたそうです。
時は1989年、今から40年前。その考えにとても共感します。
40年もの間、この考えでやり抜いてきたことには並々ならぬ苦労もあったことでしょう。

今年のゴールデンウィークに訪れた黒潮町の砂浜美術館でこの本を購入しました。少し黄ばんだこの本を手にした時から、この本の持つ体温が伝わってくるようでした。本にはそういう力と役割があるように思います。

黒潮町の海に打ち上げられたものが紹介されていて、くじらの骨ややしの実、船のスクリューや気象観測器といったものもあります。

2枚目の写真はその中のひとつ「海流ビン」です。アメリカのブライアン君(当時11歳)がタンカーで働く人に頼んで太平洋側に流したもの。9ヶ国語でメッセージが書かれており、瓶の口はロウで固められて水が入らないように工夫されていたとのこと。16歳になったブライアン君からは「理科の実験で流した」と返事が届いたそうです。流れ着いたものにも物語があるのですね。

この本の中にこんな文章があります。

「海岸に流れ着いたものを、単なるゴミとしかとらえることのできない感性より、素敵な砂浜美術館の作品、そうとらえられる感性。それが私たちの求める姿です。」

私たちのそばにも「作品」となりうるものが、あちらこちらにあるのではないでしょうか。

鳥山百合子

 

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土佐町ストーリーズ

びわの季節

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5月下旬、白やオレンジ色の袋をつけた木があちらこちらにあることに気づく。
びわの木だ。
鳥に食べられないように、びわの実の一つひとつに袋をつけるのだ。

 

土佐町で暮らし始めてからずっとお世話になっていたおじいちゃんがいた。

おじいちゃんの家にもびわの木があった。

ちょうど家の向かいに住んでいたおじいちゃんが教えてくれたこと、一緒に過ごした思い出は数え切れない。
しいたけのコマ打ちの仕方を教えてくれた。梅や柿を取りにおいでと言うために、朝出かけて行こうとする私を階段の下で待っていてくれた。しし汁をストーブにかけてあるから食べにおいでと電話をかけてきてくれた。
夕方、おじいちゃんの家を見て「灯りがついたなあ」と思っていたのは、おじいちゃんも一緒だったと知った時の気持ちは今も忘れていない。

 

毎年5月、おじいちゃんのびわの木には袋がかかって、白やオレンジの花が咲いたように見えた。その「花」が咲いてしばらくたった頃、おじいちゃんはいつも声をかけてくれた。

「びわをとりにおいで」

 

私の息子はびわが好きだ。おじいちゃんは高いところのびわはハシゴをかけて採って手渡し、びわを頬張る息子を目を細めて見ていた。

おじいちゃんは、息子をまるで自分の孫のようにかわいがってくれた。息子にたけのこの掘り方を教えてくれた。息子は学校から帰るとランドセルを置いて自転車でおじいちゃんの家に行き、一緒にテレビの時代劇を見たり、そのまま夕ご飯をご馳走になって、おじいちゃんの運転する軽トラで帰って来たこともあった。

おじいちゃんと息子は、気の合う友達のようでもあった。

 

確か土佐町での3回目の5月を迎えた時、やっと気づいた。おじいちゃんは、びわを息子に食べさせるために袋をかけてくれていたのだ。「結くんはびわが好きじゃき」と言って。

 

 

今年の2月、おじいちゃんは亡くなった。棺に入ったおじいちゃんはいつものように穏やかな優しい顔で眠っていた。声をかけたら起き上がって笑ってくれそうだった。息子は棺のそばに膝をつき「なんで、なんで…」と泣き崩れた。「おじいちゃんは結くんが大好きじゃったきねえ」と言いながらおばあちゃんも泣いていた。みんな泣いた。

 

おじいちゃんがよく薪を割っていた田んぼの畦や薪がたくさん重ねられた小屋の前を通る時、ふと、おじいちゃんの気配を感じることがある。
ここは、おじいちゃんが歩いた道。おじいちゃんが生きた場所。

 

 

今年もびわの季節になった。
おじいちゃんはもういない。

それでもびわは色づく。

おじいちゃんは、今日もどこかで見守ってくれている気がする。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん」 エルサ・ベスコフ 作, 絵 福音館書店

お母さんのお誕生日の贈り物をブルーベリーとこけももにしようと考えたプッテ。森のあちらこちらを探したけれど見つからず、しょんぼりしていたところに現れたのは小人のおじいさん。その人はブリーベリー森の王様でした。森の動物たちや王様の子どもたち、こけもも母さんのおかげでブルーベリーとこけももがカゴいっぱい集まって、このお話は終わります。ページを開くたび、なんて美しい絵なのだろうと、ずっと眺めていたくなります。

いつのことだったか、お菓子の中に入っていたブルーベリーに気づいた娘が「あ、プッテが食べてたブルーベリー!」と言ったことがありました。
娘が大きくなった時、いつかどこかでこの絵本に再会することがあったら、プッテと友達だったことを懐かしく思い出したりするのかな。

絵本はそんな楽しみもつくってくれます。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「土佐町史」土佐町史編集委員会

深緑色の布張りのこの本は「土佐町史」。土佐町の町の歴史や成り立ち、自然の様子や言い伝えが掲載されているこの本に、とさちょうものがたりは今までとてもお世話になってきました。

高峯神社を案内していただいた筒井賀恒さんは「土佐町史にも載っているけんどよ」と言って、神社の鳥居の横にある手洗い石のこと、山の中に湧いている水のこと、神社にまつわる伝説のことを色々とお話してくださいました。

賀恒さんを自宅まで送った際、ふと見上げると、2階の窓際にある机の上にこの土佐町史が置かれていることに気づきました。賀恒さんが窓際に座り、土佐町史のページをめくっているだろう姿が見えるようでした。一体どれだけの時間を費やしてきたのでしょう。窓から見えたこの本の佇まいが、賀恒さんの重ねてきたものの存在を教えてくれていました。

「土佐町史」は土佐町立図書館で借りることができますし、土佐町教育委員会では購入もできます。興味のある方はぜひ!

鳥山百合子

 

 

筒井賀恒 (東石原)

 

*賀恒さんのことを書いた記事はこちら

高峯神社の守り人 その1

*高峯神社への道を示す石碑についての記事はこちら

高峯神社への道 はじめに

 

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土佐町のものさし

幸福度調査:長野静代さんに聞きました。

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土佐町役場の職員が町の皆さんに届けた幸福度調査の回答用紙やインターネットでの回答が、続々と返ってきています。

「私のところにも来たし、娘のところにも来た」「私のところには来んかった。答えたかったのに〜」などなど、色々な感想をいただいています。

 

町の皆さんは幸福度調査の質問をどんな風に考え、答えたのでしょうか?

とさちょうものがたり編集部は、以前皿鉢料理の作り方を教えていただいた土佐町地蔵寺地区の長野静代さんにお願いをして、土佐町ならではの質問にいくつか答えていただきました。ご本人の了解を得て、長野さんがどんな風に答えたのか、ここで紹介したいと思います。

長野さんは、質問文を読み、じっくり考えて答えてくれました。

 

 

これはブータンの幸福度調査を元に作られた質問です。土佐町で昔から引き継がれてきた技や手仕事の数々が並びます。

「地元料理…、うーん、“少しできる”、かねえ」
「え?長野さん、“少し”ではないでしょう?」と思わず言ってしまった編集部。

長野さんの作る「さば寿司」は本当に美味しいと、土佐町の多くの人が知っています。他にもゼンマイの煮物や季節の野菜の天ぷら…。40年以上、地元の食材を使って美味しいものを作り続けてきた長野さんの技は「少しできる」どころではありませんが、このような質問の形になると謙遜して答えてしまうのかもしれません。

 

「米作り…、昔、私一人で6反(約60a)作っちょったよ。草刈りするのが大変でねえ」

「野菜作り…、私は野菜づくりが大好きでね。間があったら畑するの好き。畑がすいちょったら植えたいしね」

「縄ない・わらじ作り…、わらじは子どもの頃からよく作ったねえ。昔は今みたいに何でも買えなかったから、何でも作ったよ」

出てくる数々のエピソード。項目のひとつひとつがゆっくりと長野さんの持っている引き出しを開いていくようでした。重ねてきた記憶がしまわれているその引き出しは実に深く、ゆたかです。

 

 

長野さんの答えは「3」。長野さんのお母さんも色々作る方だったそうです。その背中を見て育った長野さんは、8歳の頃から自分のお弁当を作ったり家のお手伝いは何でもしていたそうです。「粟や稗、麦を育てて、ひえばっかりのご飯を炊いてね、お弁当箱からボロボロこぼれてね…」と長野さん。

 

 

こちらもブータンの質問を元に作られています。

「幸せよねえ、今は本当に。自分は自然の一部だなあと思う。そうねえ、今は豊富に何でもあるから、幸せに生活させてもらいゆうと思います」

長野さんのその言葉には、言葉として語られないこと、長野さんが重ねてきただろう実感が込められていました。

 

 

 

「イノシシ、シカ、アメゴ、アユ…、ハエ、イタドリ、タケノコ、ゼンマイ、ワラビ、ふきのとう(以前長野さんは皿鉢料理の一品として、ふきのとうの天ぷらの作り方を教えてくれました)。ふき、コシアブラ、しおり、せり、クレソン、よもぎ、アケビ、キイチゴ、ヤマモモ、山栗。クワノミは最近は食べんねえ。」

 

 

「山のごちそう」にたくさんの丸がつきました。

 

 

 

長野さんは「5」に丸をつけました。

「毎日ばあ、家で作ったものを食べゆう。野菜も全部作ってるからね。間があったら畑するの好き。畑がすいちょったら植えたいしね。今はジャガイモもどっさりあるし、ニンニクも太い玉になっちゅう。玉ねぎも作っちゅうしね。夏野菜のなす、かぼちゃ、トマトも植えちゅう。ナスは家で作ったのを焼いて食べたら美味しいがね。次に何を植えようかなあって考えるのが楽しみ。」

 

長野さんは裏の畑を案内してくれました。

じゃがいもの花が咲いていました。「もう食べられるよ」と長野さん。

 

 

ねぎ、キャベツ、ニンニク、玉ねぎ、赤玉ねぎ、夏大根…。長野さんの毎日の食卓はこの畑からうまれます。

「持っていきや」と畑から抜いてくれた玉ねぎとにんにく。

 

土が近くにあり、自分で作ったお米や野菜を自分で料理して食べる。そのことをあたりまえのように感じる人は土佐町では多いかもしれません。でもそれは本当に「あたりまえ」なのでしょうか?

 

「本物の幸福…。そうねえ、健康で美味しいものをずっと作れるのが一番しあわせ。健康が第一。美味しいものを作ってみんなに喜んでもらうのが、私はしあわせ。」

長野さんはこう言って、そっと笑いました。

 

月に2回、土佐町社会福祉協議会が毎月各地域で開いている「あったかふれあいセンター」へ、長野さんは料理を作りに行っているそうです。みんなで「来月は何にしようか?」と食事のメニューやおやつを考えるのが楽しみなのだそう。

「いつまでできるかなあと、そればかり考えてる」と長野さんは言います。

「仕事はすればなんぼでもありますね。果てがない。それが生きがい。」

 

長野さんのお店には毎日のように色々な人が集います。田んぼの仕事が終わって午後から来る人。コーヒーを飲みに来る人…。そのことを長野さんはとてもうれしそうに話してくれました。長野さんの心に浮かぶ人たちの姿がすぐそばに見えるようでした。

 

 

 


 

 

土佐町の人たちの幸福度調査アンケートは、これから高知大学の協力も得て集計に入ります。

アンケートの結果は「土佐町のものさし」でまたご報告します!

 

 

*長野さんのことを書いた記事はこちらです。

40年目の扉

*長野さんに教えていただいた「さば寿司」「皿鉢料理」の作り方はこちらです。

皿鉢料理 その2 さば寿司

皿鉢料理 その10 盛りつけ

 

 

*アンケート内容に興味のある方は、ぜひこちらからご覧ください。

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山の手しごと

ギボウシの収穫

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4月中旬、土佐町の平石地区を車で走っていると、道脇の斜面に這いつくばるように何かを収穫している人がいました。

その人は近藤雅伸さん。

「この葉の正式な学名はギボウシ。このあたりでは「きしな」というし、田井(土佐町の中心地)のあたりでは「いそな」というのよ。
 じけ(あく)もないきね、軽くぬめりがあるけんど、さっとゆがいておひたしにしたり。生姜入れたり、揚げ(油揚げ)を入れてもかまんきね、炒めても食べられるし。」

 

 

「ある程度まばらにとって残していくわけよ。おっきい方が美味しい。なるたけ元(根元)をとって。ゆがいたら量が減るきね。
これからずっと先、夏になって葉がかとうなるき、その時は葉は取って、茎は湯がいておひたしにして食べる。茎は真夏でもかとうならん。鰹節をかけたり、ほうれん草と同じように食べられるよ。」

 

「こうやって残しちょいちゃったら またおんなじ量が生えるきね。ここら辺一帯、株があるき。
 時期的に寒いとことあったかいとことあったら、だんだんに出るきね、あっちこっち取りに行ったらいい。
 ちっさい時に採って塩漬けにしても置ける。水につけて塩抜きして、そのままの形で煮物にしたり炒めたり。いろんな食べ方があるきね。」

 

食べてみて!と近藤さんが差し出してくれた。

近藤さんは言いました。

「昔の人の知恵はすごいね。昔はものがない時分やきね、ここら辺にあるもんをとって食べるしか方法がないんよね。今から先が一番お金がいらんときよ、いろんなものが出てくるきね。」

土佐町は今、ゼンマイ、わらび、イタドリ、たらの芽…、山の恵みの収穫に大忙しの季節です。

 

この日、近藤さんは稲の苗を育てる苗床を作る仕事をしていた合間に「ちょっと採っておこう」と、ギボウシを収穫していたそうです。スーパーに行かずとも、目の前の山を見渡して今日のおかずの材料を見つけることができるのです。ちょっとした合間にちょっと収穫しておく。それは、その人の心のあり方にもつながっているような気がします。

「りぐった言葉ではよう言わんけんどよ、気安うに何でも言うてもろうたら!」と近藤さんは見送ってくれました。

 

 

その日の夜、近藤さんが教えてくれたように、おひたしにしていただきました。

ギボウシのおひたし

【材料】ギボウシ・かつお節・しょうゆ

①ギボウシを洗って、さっと湯がく。

②食べやすい大きさに切り、かつお節や海苔をふりかけ、しょうゆを加えて和える。千切りした生姜を入れても美味しい。

 

くせがなくてとても美味しい!色々工夫ができそうです。

 

この日、家に帰る道の途中に気づきました。
この「ギボウシ」、なんと私の家の近くにも生えていたのです!

今日は緑の野菜がないなあという時に重宝することになりそうです。

 

 

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