私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「よるのびょういん」 谷川俊太郎 作, 長野重一 写真 福音館書店

「あさから おなかが いたいといっていた ゆたか、よるになって たかいねつがでた。おとうさんは やきんで つとめさきの しんぶんしゃにいっている。おかあさんは 119ばんで きゅうきゅうしゃを よんだ。」

お母さんは慌てたように電話をかけ、その傍らで「ゆたか」がおでこにタオルを当てて寝ている。次はどうなるのか、臨場感溢れる言葉と写真が、次へ、次へとページを進めさせます。

ゆたかの手術が無事終わるのを、まだかまだかと待つお母さんの祈りが痛いほど伝わってきます。

「よるの びょういんは しずかだ。けれど そこには ねむらずに はたらくひとたちがいる。びょうしつを みまわる かんごふさん、ちかのぼいらーしつで よどおし おきている ぼいらーまん。おもいびょうきの ひとたちを よるも ひるも やすまずに みまもる しゅうちゅうちりょうしつ。」

私の子どもも入院したことがあります。付き添いながら不安で眠れずにいた時、見回りに来た看護師さんが「どうですか?」と病室に入ってくる。子どもの様子を見て、点滴を確認して、熱を計る。「うん、大丈夫ですね」。その一言にどんなに救われたか。

夜中に手術を終えて、朝を迎えたゆたかの言葉は「ねえ、まんがかってきて」。

お母さんの安堵感はどれほどだったでしょう。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「土佐町資料」 前田和男編者 土佐町教育委員会発行

昭和54年(1979)、土佐町教育委員会が高知市の高校の先生である前田和男さんに町内の神社や寺院、祠堂の調査を依頼、その調査結果が収録されています。

今年の土佐町オリジナルポロシャツのデザインとなった「地蔵堂の大龍」の作者を調べている途中、土佐町教育委員会がこの資料を見せてくれました。

2枚目の写真は、地蔵堂にある棟札の内容です。建立された年、大工さんや関わった人たちのお名前が書かれています。

年代ごとに記録を追っていくと、棟札の裏側に「水災風陸風災風」「水災金意災金蓮」という文字がいくつも書かれています。台風などにより地蔵堂が壊れ、地域の人たちから寄付を募って改修や再建したのではと想像します。

地蔵堂の中に入らせてもらった時に見せていただいた棟札には、木の板に墨で文字が記されていました。昔の人が記した文字が、もう見ることのできないその時代の風景を伝えてくれます。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「おによりつよいおれまーい」 サトワヌ島民話 土方久功再話,画 福音館書店

これは、南太平洋のミクロネシア諸島の中にある小さい島、サトワヌ島に伝わるお話です「おれまーい」は、サトワヌ島に住んでいる男の子。おれまーいは、「生まれるとすぐにはいはいし、4日経つと歩き、8日経つと椰子の葉で編んだ戸を破り散らした」というほどの強い男の子です。

あまりにも強すぎるおれまーいに恐れをなした島の大人たちは、おれまーいを森に連れて行きおれまーいの上に木を切り倒そうとしたり、海に沈めようとしたりしますが、その度ににこやかに帰ってくるおれまーい。ついに、「やにゅう」という鬼が住んでいる「ぴーくしま」に置いてきてしまおうということに。

さてさておれまーいはどうするか?

それはぜひこの絵本を読んでもらえたらと思います。

この本を開くことで、日本とはまた一味もふた味も違うだろう南の島の暮らしの一片を見せてもらっていた気がします。子どもの頃、本に出てくる「ぱんのみ」を一度でいいから食べてみたいと思っていましたが、今でもその気持ちを持ち続けています。

鳥山百合子

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私の一冊

鳥山百合子

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「手づくりのすすめ」 自然食通信編集部 自然食通信社

版画の絵と手書きの文字で、豆腐や醤油、お麩、こんにゃくなどの作り方が掲載されています。数年前、柿酢と麹を作った際にはこの本に大変お世話になりました。

最も気になっているのは「水あめ」。さつまいもと乾燥麦芽で作るそうですが、いつか挑戦したいと思っています。(ページを開くだけで作った気になってしまうのが不思議です。)

私がこの本が好きなのは作った人たちの愛情と熱を感じるからです。あとがきに「生産の場と生活の場が切り離され、身近な物の成り立ちさえ見えなくなった都会の中で、都市育ちの私が、単なる知識でない、存在感を持った生活の知恵と出会えたこの取材。それは一面、二人の子の母としての実力を養う得難い場でもありました。」という編集者の方の一文があり、とても共感します。

1987年に出版された本を2006年に新装改訂したものがこの本で、その間19年間。改訂版あとがきには「初版当初からすると私たちの暮らしは、なんと遠いところに来てしまったのか」と書かれています。この時から14年後、2020年の今、私たちの暮らしはどんな風に変化しているのでしょう。

土佐町には、生産と生活の場が共にある環境が今もまだ残っています。その環境があるからこそ培われて来たお母さんたちの知恵も、あちこちに存在しています。町のお母さんたちの家を訪ねて学び、次の世代に残していきたいと思っています。

鳥山百合子

 

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私の一冊

川村房子

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「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」 ブレイディみかこ 新潮社

これはイギリスの、荒れているといわれている地域に住んでいる家族。

小学校は市のランキング1位の小学校を卒業し、中学校入学に元底辺中学に入学した優等生の僕。銀行員から前からやりたかったとダンプの運転手になった父と前向きでちょっぴり破天荒な母の3人家族。

元底辺中学校は毎日が事件の連続。人種差別、ジェンダーに悩む少年、何より貧富の差があって、食事でさえ満足にとれない、超底辺の友人のやりきれなさを見つめる僕。パンクな母ちゃんと考え悩んだりしながら、前をむいて毎日を暮らす。

EU脱退か否かで荒れる政治。国から忘れられてしまったような底辺での日常を果敢に乗り越えていく。子育て中のお父さん、お母さんには、是非是非読んでもらいたい一冊です。

老人はすべてを信じる。中年はすべてを疑う。若者はすべてを知っている。子どもはすべてにぶち当たる。

川村房子

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私の一冊

鳥山百合子

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「ゆうこのあさごはん」 やまわきゆりこ作,絵 福音館書店

きっと多くの人が、この本の作者・やまわきゆりこさんの絵を目にしたことがあると思います。やまわきさんが絵を、やまわきさんのお姉さんである中川李枝子さんが文章を書いた「ぐりとぐら」や「そらいろのたね」はあまりにも有名です。お二人の著書は懐かしい思い出と共に、私の本棚に何冊も並んでいます。

この「ゆうこのあさごはん」は、やまわきさんが文章と絵の両方を担っています。

このお話は簡単に言うと、朝寝坊をしたゆうこが朝ごはんの「ゆでたまご」と冒険に出かけて帰ってくるという内容なのですが、このお話を面白くしているのは、ゆうこが卵と同じ大きさになるためのおまじないの存在です。小指に塩をほんの少しつけてぺろりと舐めると、あら不思議!ゆうこは卵と同じ大きさになりました。そして、卵はにっこり笑って言うのです。「“びゆことおし”のまほうさ!」。

少し前にこの本を読んだ時、このセリフを聞いて「???」となった末っ子。最後まで読んで「“びゆことおし”を反対から読んでごらん!」と伝えると「し・お・と・こ・ゆ・び…。塩と小指!そっか!!」。謎が解け、晴れやかな顔をしていました。

冒険から帰ってきた後、元の大きさに戻る時には「びゆやおとおし」。そう、今度は親指に塩をほんの少しつけて、ぺろりと舐めるのです。

出かけて、ちゃんと帰ってくる。この安心感はなんでしょう。やまわきさんの子どもたちへの優しいまなざしが伝わってきます。

この本は、私が幼い頃にも母が繰り返し読んでくれました。何十年も読み継がれている本の底に流れているのは、作者の愛情そのものではないかと思っています。

鳥山百合子

 

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私の一冊

川村房子

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「愛の領分」 藤田宜永 文藝春秋

この本を読んで数日後に、高知新聞のメモリアル欄に藤田氏の訃報が掲載されていた。

冒険・恋愛小説の名手で直木賞作家。はじめての作家でしたが、直木賞受賞作品につられて読み始めた小説でした。

待望の恋愛小説と書かれていた。不倫でもないのに秘密のにおいがする。愛を信じられない男と女。それでも出会ってしまった彼らの運命。交差する心と身体、複雑に絡み合う男女4人。すべてをかなぐり捨てた中年男女がゆきつく果ては…。

新聞に、常に完璧さを求める母親から愛情を感じられずに育ったという。そのためか「女の人へのこだわり」が人一倍強かった。作風はひろいが共通するのは主人公が皆どこか寂しげであることだと書かれていた。本当にその通りで、恋愛小説を読んだあとの幸せ感ではなく、寂しさやせつなさを感じた。

川村房子

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私の一冊

古川佳代子

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「家守綺譚 」 梨木香歩 新潮文庫

「影との戦い」(アーシュラ・K.  ル=グィン)のゲドに出会ってから今に至るまで、私の理想はゲドですが、もう一人愛してやまない男性が綿貫征四郎さん。不慮の事故で亡くなった大学時代の友人・高堂の家を守りながら、文筆業で何とか糊口をしのいでいる、新米のちょっと頼りない精神労働者です。

本書では、100年ほど昔の“あわい”に生きるものと征四郎の生活が少しだけ重なったときにおこる出来事が端正な日本語で綴られています。 庭のサルスベリに恋心を抱かれてしまいからかわれると「木に惚れられたときにどうするべきか、またどうしたいのか、まるで思いもしないことだった」と真剣に考え込む征四郎さん。

けれども黄泉の人々に何も思い悩むことのない理想の生活に誘われた際には「そういう生活は、私の精神を養わない」とキッパリ断ります。

世間と少しずれてはいても、人間としては決してぶれない自分がある綿貫征四郎さんは、ゲドに負けず劣らず素敵です。

古川佳代子

 

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私の一冊

西野内小代

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「自分のことは話すな」 幻冬舎新書 吉原珠央

オリジナルのメソッドで企業向け研修や講演活動を全国で実施されている方なので、仕事関係における話術に重きを置いている内容ですが、日々の会話の中でも活かされるポイントはあるように思いました。

例えば「褒め殺し」という言葉がありますが、「相手を褒める」は上から目線になりがちなので、相手への感謝・尊敬できる点等を素直に伝えればいい…。

相手の話を横取りするが如く相手の話題を自分の話へとすり替えない。相手の話をじっくりと聞く姿勢が大切…。

相手の気持ちを察する・汲み取る・共感する大切さも強調されています。

 

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私の一冊

川村房子

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「それぞれの終楽章」 安部牧郎 講談社

本棚にあった一冊で、昭和62年発行だから、30年以上前になります。作者紹介をみても、何も書いておらずスマホで調べてみた。85歳で死去。

推理小説、官能小説、野球小説等、多岐にわたって書いていて直木賞候補には何度もあがっていたらしい。「直木賞受賞」にひかれて読みました。でもなんで読んでなかったろう?

主人公は矢部宏、小説家、50歳。親友だった森山が自殺した。通夜に出るため故郷に帰った。友人の借金の保証人になっていたのだ。1億円以上の負債をかかえていたのだ。その上愛人と子どもまでいるという。通夜の席で同級生たちに会い、中学、高校の頃が苦い思い出とともによみがえってくる。

森山とは音楽も一緒によく聞いた。シンフォニーの弟三楽章で幕を閉じてしまった。矢部は終楽章を聞くことができる。もうそれははじまっていると。

私も楽しい思い出とともに苦い思い出もいっぱいある。終楽章がとっくにはじまっている身としては、今を大事に生きていきたいと思う。

 

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