「ちいさいおうち」 バージニア・リー・バートン文,絵 石井桃子訳 岩波書店
物心ついてから今に至るまで、いつも傍らには本があったように思います。 本は善きもので、信頼に足る存在だと私に教えてくれたのは『ちいさいおうち』でした。
小学校に入学してひと月ほど経った頃でしょうか。父に作ってもらった「代書板(1センチほどの厚さの木の板で背には名前が書いてあり、借りた本の代わりにその場所に差し込む)」を持って、学校図書館に入ったときの感激。どの壁も本棚でうまり、まだ読んだことのない本が想像もしたことのない冊数で目の前にあるのです。こんな素敵な部屋が学校にはあるんだ!すご~い!! けれども1年生が借りられるのは1冊だけです。吟味に吟味を重ねているときに目に入ってきたのが、美しい空色に縁取られた小ぶりな絵本。赤く可愛らしいおうちとシンプルな花の絵も気に入り、表紙を開きました。一冊読み終えるのに、15~20分ほどかかったでしょうか。読み終えたとき、15分前の私とは全く別人のような気持ちがしていました。
なにしろちいさいおうちと一緒に100年を超す長い時間を生き延び、やっと元の場所に帰ってきたのですから。 すっかり老成した気分でため息をつき「本はすごい!この部屋の本を全部読もう!」と決心しました(笑)。
それからずっと今に至るまで、本は魔法の世界に誘い、時には励まし支えながら、親友の1人として寄り添ってくれています。 本の世界に遊ぶ楽しさを教えてくれた『ちいさいおうち』に感謝しながら、今日もこどもたちに本を手渡しています。
古川佳代子