2019年6月

笹のいえ

植えたかよ?

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「植えたかよ?」

つまり、田植えは終わったか?という、この時期の挨拶みたいなものだ。

僕らが暮らす地域では、田植えの大半は、5月下旬から6月上旬の間に行われる。道沿いや家のとなりにある田んぼ、そして山の棚田に、苗が植えられていく。水を湛えた田んぼのそこここに人が集まり、日に日に緑の絨毯が広がる様子は、生命力に溢れ、「いよいよ始まるぞ」という気になる。

僕がお借りしている田んぼは、田植え時期の最後の最後に、やっと終わった。

今年は、種蒔きから田植えまで、なるべく手作業やってみようと計画していた。が、これがとっても大変で、時間が掛かってしまった。田んぼの苗床に直播し苗を育て、田植え前に水を落として、植えるための線を引き、手植えする。やってみたい方法をあれこれ試していたら、時間がどんどん過ぎていった。

「渡貫さん、植えたかよ?」「今年は苗の成長が遅くて、まだなんです」

「植えたかよ?」「いやあ、まだですー」

「植えたかよ?」「いえ、まだ、、、」「はよ植えんと秋になるぞね」

いつまで経っても田植えが始まらない僕の田んぼを集落の人が見て、声を掛けてくれる。僕は言い訳がましく、これこれこういうやり方をしていて遅れているんです。と話すと、それはこうした方がえい(良い)ぞ、昔はこうやっていた、と貴重な話を聞くことができる。次回はこうしてみよう、そうかああしてみたらいいのか、と苗を植えながら、頭の中で来年の田植えに向けてシュミレーションしてみる。

田植えが始まると、とてもひとりではやりきらないと言うことが分かった。急遽友人たちに連絡し、手を貸してもらって、なんとか終了した。

やれやれ、これでなんとか一安心、少し休もう。

と思ったが、最初に植えた田んぼでは、すでに雑草が生えはじめてる。これを放っておくと、せっかく植えた苗が草に負け、収量も減ってしまう。下ろしたばかりの腰を上げ、再び田んぼへと入る。

今年こそはと、春に余裕をもって計画し、はじめる農作業。しかし、いつの間にか季節に追い越され、作業に追われる農ライフは続くのだった。

 

写真:田植えのときは、田んぼの神様にお供えをし、安全に収穫ができるようお願いをする。五穀豊穣を表した旗を揚げるが、今年は奥さんに頼んで、古布で作ってもらった。

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私の一冊

鳥山百合子

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「外来植物 高知嶺北 A・B」 山中直秋

土佐町の山中直秋さんが自費出版した本です。
牧野植物園が行った高知県内の外来植物を把握する調査に参加した山中さん。嶺北地域を担当し、嶺北の外来植物をまとめたものです。

道端でよく見られるあの花この花が掲載されていて「え?!あの花も外来植物だったのか!」と驚かされます。

山中さんは今年、牧野植物園が行っているたんぽぽの調査にも参加されていました。外来種、在来種のたんぽぽがどのように分布しているか調べるのです。私も調査に参加させていただのですが、これをきっかけにいつも通り過ぎ、見逃していたたんぽぽの存在に気づくようになりました。新しい世界を知るのは面白いことです。

ある日、土佐町の溜井地区を車で走っていた時に山中さんにお会いしたことがありました。
「溜井に在来種のたんぽぽがあるって聞いて、探しに来たんだよ!」ととても嬉しそうに話してくれました。

その何日か後、山中さんの家の庭に、ひとつ、たんぽぽがちょこんと植えられていました。とても丁寧に植えられていることがわかる佇まいでした。聞いてみると、溜井で見つけた在来種のたんぽぽのひとつをここへ植えたのだそうです。(ちゃんと根付いたそうです!また来年も咲くのでしょう。)

山中さんのこの本は、土佐町の青木幹勇記念館で購入することができます。
(青木幹勇記念館:〒781-3401 高知県土佐郡土佐町土居437 TEL.0887-82-1600)

興味のある方はぜひ!
道を歩き、草花と出会うことが楽しくなること間違いなしです!

鳥山百合子

 

 

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山峡のおぼろ

人名渕

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モリタカ渕

セイゴ渕

 

石原の川に「モリタカ渕」という呼び名のついた渕がある。

覆いかぶさった木の枝で薄暗い。渕は深く、そこへ落ち込む水は轟々と腹に響くようであった。

小学校に入って何年か前から、モツゴ釣りをしていた私に祖父母がよく、

「むかしモリタカという人が死んだ渕じゃ。こけたら助からんきに、行きなよ」

と言った。

自分も最初はこわい渕だと思って、そこで釣るのを避けていた。しかし、他の似たような渕で釣っているうちに、いつしか「モリタカ渕」でも釣るようになっていた。

そして、小学校入学を直前にひかえたある日、自分としては忘れ得ぬ記録が、この渕で生まれた。

その日、いつものように、そこの深い渕でモツゴを釣った。よく釣れた。

そのうち何気なく、深い所から下へ流れる浅い瀬に餌を流した。それまではそこで釣ったことはなく、初めての場所だった。

すると、流してすぐ、強烈な引きで竿がキューンと曲がった。モツゴ釣りにはない引きだった。

全く経験のなかった引きに、テグスが切れるか、竿が折れるかもと、はらはら、どきどきしながら、四苦八苦して釣り上げるとアメゴだった。釣ったあと、

“アメゴはこんなところで釣れるのか”

と思い、しばしその瀬を見詰めた。そして、この「モリタカ渕」は、自分が生まれて初めてアメゴを釣った場所、という記憶よりも、記録の一つになったと、子ども心にもそう思った。

帰って計ったアメゴの寸法は忘れたが、結構大きかった。

もう80年も前のことだが、あの強烈な引きは手首に残っている。

もう一つ「セイゴ渕」という渕がある。ここは「セイゴ」という人が死んだ渕だと祖父母から聞いた。

この渕は広く、日も当たって明るい。しかし巨岸がどんと座り、その下はえぐられたようにくぼんで、魚には絶好の隠れ家となっている。

そのためここは、釣るよりも潜って突く方に適している。

ここに初めて潜ったのは、小学校の高学年になってからであった。金突鉄砲を持って潜った。

深いので最初は、底にたどりつくのがやっとだった。大きく息を吸い込んでおいて、何度も潜り直した。案外早く、岩の底まで潜れるようになった。

そこで似た巨岩の底は、アメゴやイダの宝庫のように見えた。鯉も居た。大きなアメゴが突けた。

色んな場所で釣り、潜って突いた。その中で「モリタカ渕」での思い出が深いのは、そこで人が死んだという言い伝えをかいくぐって行き、そこが生まれて初めてアメゴを釣った場所になった、という思いが強いからだろう。

「モリタカ」という人も「セイゴ」という人も、ここへアメゴをとりに行って、死んだのであろうか。

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私の一冊

石川拓也

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「野生の思考」 中沢新一 NHK出版

 

「構造主義の父」と呼ばれるクロード・レヴィ=ストロースの著書「野生の思想」を、NHK「100分de名著」が取り上げた際の、これはテキストに当たる一冊です。

この「100分de名著」シリーズ、多くの場合解説にあたる方々が、机の上の話だけに終始しないところが、意図してそうしているような気がしますが、素晴らしいと思います。

「野生の思考」自体はなかなか難解で読みづらい本ですが、この回の解説員は中沢新一さんで、とてもわかりやすく解説されています。

レヴィ=ストロースが中心となって打ち立てた、いわゆる「構造主義」ですが、これは1960年代に現れ、現在の世の中を形作った思想的土台を担っていると言えます。

その時代、それまでの主流としてあったのは「実存主義」。レヴィ=ストロースはこの「実存主義」をこてんぱんに論破し、その思想的生命に終止符を打ったそうです。

具体的にいうと、「実存主義」が、人類の歴史を直線上に進化・進歩していくものと捉えていたことに対し、レヴィ=ストロースは真っ向から批判します。

歴史を「直線上に進化・進歩していくもの」と定義した場合、そこには必然的に「進んだ西欧と遅れた後進国」という概念が生まれ、それは啓蒙主義(遅れた未開人には教えてやるべき)とか進歩主義(進歩や成長至上主義というもの)の根拠になります。

 

「構造主義」はその歴史観を一旦全て否定し、そうではなく、人類は新石器時代から変わらない構造の脳を持ち、人類に共通の「構造」のもと文化を育んでいると主張しました。

そう考えると、一見進んでいるかのように見える欧米社会も、遅れているとか未開とか言われてきた先住民の社会も、共通の「構造」によって作られた土台を、表面上の味付けだけを変えて繰り返しているにすぎないということになり、そこに本質的な優劣は存在しないのです。

むしろ人間の本質に沿っているのが実は未開と呼ばれる社会の方なのでしょう。

この考え方が1960年代以降、世界を動かすエンジンオイルのように染み渡ります。先住民文化の再評価という世界的な動きや、オーストラリアの首相がアボリジニの人々に公式に謝罪したこと(2008年)なども大きく捉えるとその一環としてあるとも言えます。

だいぶ長くなってしまって恐縮ですが、翻って考えてみれば、日本ではとても顕著な「進んでいる都会」と「遅れている田舎」という二項対立は果たして本当でしょうか?

レヴィ=ストロースの「野生の思考」というメガネをかけて見てみれば、「人間の本能や本質を発揮しにくい場所」と「人間の本能や本質に沿った暮らしがしやすい場所」という考え方もできるかもしれません。

「野生の思考」という言葉は、「とさちょうものがたり」が土佐町でやってきたこと、やろうとしていることにもどこか深いところで直結しているもののような気がします。

 

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土佐町ポストカードプロジェクト

2019 Jun.

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西石原 | セイゴ渕

 

昨日「モリタカ渕」を紹介しましたが、今回はもうひとつの渕である「セイゴ渕」。モリタカ渕の少し下流に位置します。

「もうひとつの」というのは、前回の記事と繰り返しになりますが、この写真の大元になった窪内隆起さんの「山峡のおぼろ」のエッセイから来ています。

「人名渕」というタイトルの文章(現時点で未公開です)の中に、窪内さんが少年の頃に夢中で走り回った二つの渕が描かれています。

そのうちのひとつが前回公開した「モリタカ渕」、今回のものがもうひとつの「セイゴ渕」になります。

窪内さんのエッセイ「人名渕」は明日6/27に公開予定です。80年前の窪内少年の視点を通して、そのころの人々の暮らしを体感する機会になればうれしく思います。

人名渕

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私の一冊

藤田純子

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「生きていることを楽しんで」 ターシャ・テューダー メディア・ファクトリー

色々と気に入らない時
マイナスな気分の時
情けない気分の時
疲れて何もしたくない時

この本をめくり、ターシャが心を込めて手づくりした物たちを見る
ターシャの自然体に励まされる
気分を落ち着けリセットされる

藤田純子

 

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土佐町ポストカードプロジェクト

2019 May

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西石原 | モリタカ渕

西石原と平石の間を流れる平石川。

この川の奥の方にある渕の一つがこの「モリタカ渕」です。

ここは土佐町の中でも「秘境」の類に入ります。なんせ、正確な「モリタカ渕」の位置を知っている人がなかなかいない。

そしてここに降りれるような道もない。たどり着くためには川をザブザブと歩いて行くことになります。

この場所の存在を教えてくれたのは、とさちょうものがたりで「山峡のおぼろ」を連載している窪内隆起さん。

ある原稿の中に、西石原の2つの渕のお話がありました。(現時点ではまだ未公開です)

原稿に付ける写真が必要になったため、最終的にはご本人に来てもらい、場所を教えていただくことになりました。

80年前、小学校に上がる直前の窪内少年が草鞋を履いて歩き回っていた場所です。

夏の川遊びにはもってこいの場所ですが、なんせ降りる道がない‥。

人名渕

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4001プロジェクト

窪内隆起・窪内晧視 (西石原)

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親戚であり、幼なじみの隆起(たかおき)さんと晧視(きよし)さんのお二人。

隆起さんは、当「とさちょうものがたり」にて連載中の「山峡のおぼろ」の著者です。

「山峡のおぼろ」のある記事の中で、町内の方々に尋ねても正確な位置がわからない場所がふたつありました。隆起さんは現在高知市内に在住ですが、場所を教えていただくために無理を言って故郷まで来ていただきました。

隆起さんが育った西石原のご実家へ向かう途中の小道で。

幼なじみの晧視さんが梅を収穫しているところにばったり出くわしました。

予定していなかった出会いに、予定していなかった笑顔で。

 

 

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私の一冊

藤田英輔

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「園芸家12ヶ月」 カレル・チャペック 中央公論社

高知新聞2019年5月30日から、いとうせいこうさんの「日日是植物(にちにちこれしょくぶつ)」というタイトルで、ご自身の園芸観についての連載が始まりました。

その中にカレル・チャペック著「園芸家12ヶ月」の紹介があり、ハタと「確か家にあったような…」と捜してみると…ありました。再読しました。

チャペックさんはヒトラー専制の時代に苛烈にファシズム(独裁的な権力、弾圧と制御による思想・体制のこと)を批判し、当時のゲジュタポ(独の秘密警察)に捕われる前に、その鼻を明かすように亡くなっていました。同時にひたすらストイックに植物について著し、煮えたぎる情熱と静かな湖面のような「熱湯とそよ風の精神」を持った混乱するチェコに生きたジャーナリストであり、作家であり、趣味の多才な人でした。1929年に著されたようです。只の「園芸について」だけの本ではありません。

挿画は実兄のヨゼフ・チャペック氏(1889~1945)です。

高知新聞のいとうせいこうさんの連載の挿画は里美和彦さん(1957~高知市在)です。里見さんは同じく高知新聞の水曜日に「定年のデザイン」というタイトルで文とスケッチを連載されています。文章は大変読みやすく、興味深く、情景の浮かぶ素晴らしい連載です。新聞が待ち遠しく、楽しみが増えました。(また、木曜日には「おじさん図鑑・おばさん事典」が連載されており、これまたおもしろいです)

今回は高知新聞の紹介になりましたね。植物を愛する気持ちはどこの国民も同じです。

牧野植物園(五台山・佐川町)へも行きたくなりました。

藤田英輔

 

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少しずつ、「とさちょうものがたりZINE」を取り扱っていただけるお店が増えてきています。

今回はその中のふたつのお店をご紹介します。

  金高堂書店本店

 

帯屋町商店街の金高堂書店本店さんです。

入り口入ってすぐ左手です。奥の、あそこに、見えますね。

高知市・帯屋町の大型書店・金高堂さん。品揃え豊富、店員さんの対応抜群、帯屋町商店街に行くたびに寄っています。

入り口入ってすぐの左側に、「高知コーナー」があり、その一角で販売していただけることになりました。

金高堂さんのFacebookページでも紹介していただきました。

金高堂書店本店
〒780-0841 高知県高知市帯屋町2−2 帯屋町チェントロ

 

  藁工ミュージアム

藁工ミュージアムは、高知市内の名所の一つともなっている美術館。以前は藁の倉庫だった建物がとても特徴的です。

以下は藁工ミュージアムウェブサイトからの引用。

藁工ミュージアムは、かつて藁を保管していた藁工倉庫を改修し、2011年12月に開館しました。 アール・ブリュット、アウトサイダー・アート、美術や芸術、そしてそのほかいろいろ・・・ 私たちのまわりにある「おもしろい!」を感じ、創り、楽しむ小さな美術館です。 年に4回ほど展覧会を開催するほか、五感にはたらきかけるワークショップや専門的なレクチャーなども行っています。 また、高知県内外で活動する個人や団体との協働企画、アウトリーチ活動として、創作表現プログラムの開催などにも積極的にとりくんでいます。
福祉とアート、地域とアートをつなぎ、誰もが多様なものとつながることのできる創造的な場となること。そんな美術館を目指しています。

その藁工ミュージアム入り口横のショップでも、「とさちょうものがたりZINE」を取り扱っていただいています。

様々な企画展や演劇の上演などが絶えず行われています。個人的には建物がとても好きで、これを見にいくだけでも価値アリと思える場所です。

藁工ミュージアム〒780-0074 高知市南金田28 藁工倉庫
TEL.088-879-6800 | FAX.088‐879‐6800

 

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