鳥山百合子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「宇宙兄弟」 小山宙哉 講談社

以前にも「宇宙兄弟」は紹介しましたがもう一度!

この写真の36巻はこの夏に発売された最新刊です。

「宇宙兄弟」は私の道しるべのような存在。「うーーん、いいなあ!」と巻ごとに心に響くセリフがあって、気持ちがしゅんとした時に読むと元気になります。

『「上には上がいる」ってことを痛感した時、打ちのめされるのか、ワクワクするかは、自分で選べばいいからね。ワクワクしながら挑戦するよ、私』。

36巻のこの言葉、グッときました。

多くの子どもたちにも読んでもらえたらいいなあと思います。(土佐町小中学校の図書館にも「宇宙兄弟」は置いてあります!)

 

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らっきょうの塩漬けから約1ヶ月が過ぎ、「そろそろ本漬けしようかと思うんじゃけど」と計美さんが言いました。
その日は7月29日、昼間の色々な仕事を済ませ、その日の夜、いよいよ本漬けです。

この時期は昼間はとても忙しいきよ。毎年、らっきょうの本漬けは夜なべ仕事よ」と計美さん。

 

 

 

 

計美さんは、部屋の奥から一枚の黄色がかった紙を持ってきてくれました。

計美さんのらっきょう漬けのレシピ

30年以上前、雑誌に載っていた「らっきょうの甘酢漬」の作り方。切り取って大事に持ち続け、このレシピでらっきょう漬けを作ってきたのだそうです。

「何十年も昔の本の資料。これがなくなったら困るけ」

作ることを重ねてきた計美さんの蓄積が見えるようでした。

 

「まあ、らっきょうを畑で育てるところからやってみや!」と笑う計美さん。

らっきょうを育て、収穫し、洗って、塩漬け、塩抜き、そして本漬けする。そうすることで初めてらっきょう漬けを食べられる。

長い道のりですが、いつかやれるようになれたらいいなあと思います。

 

*計美さんのことを書いた記事はこちらです。

お山のお母さん 1

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同じく6月18日の夜、昼間に下準備したらっきょうを塩漬けしました。

らっきょうは切ったらすぐに芽を伸ばすので、その日のうちに塩漬けにするのです。

農業を生業としている計美さんは、トマトや他の野菜の世話や出荷、保存食作り、細々とした用事を全部済ませた夜のちょっとしたすきま時間を見つけて作業します。細切れの時間を上手に利用しながらいくつもの仕事をこなしていく。本当に働き者のお母さんです。

 

 

 

 

「だいたい一ヶ月置いたら発酵してくる。水も濁ってくる。泡が出てくらあ。そしたら本漬けにする」と計美さん。

この乳酸発酵が計美さんのらっきょうの美味しさの秘密です。(ある程度、量が多い方が発酵がしやすいそうです)

「もう何十年もそれでつけゆうきね!」

 

計美さんの漬けたらっきょうは天下一品!!食べると元気をもらいます。(実は私も毎年らっきょうを漬けますが、「母さんの漬けたらっきょうより計美さんのらっきょうの方が美味しい」と子どもたちは言います。。)

「色々若い人に教えちょかんとよ。むこうに持って行っても使いものにならんきよ」と計美さんは笑うのでした。

 

「また本漬けの時にきてみいや。声かけちゃおけ」と計美さん。

本漬けは一ヶ月後!

らっきょう漬けづくり 本漬け編に続く

 

*この日の夜、計美さんのご主人の豊喜さんの姿が見えませんでした。聞いてみると「夕方、山水が止まってしまった。途中のホースが抜けたのではと見に行った」とのこと。バイクで山へ上がって行ったそうです。山で暮らすということは、朝昼夜関係なく、何でも自分たちでやっていかなければならない厳しさも隣り合わせにあるのです。

 

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毎年恒例のらっきょう作業。6月のある日、土佐町の和田農園で行われるその作業を私はとても楽しみにしています。

ゴールデンウィークが明けた頃、和田農園の和田計美さんから電話がかかってきます。

「今年も、らっきょうに来てもらえるろうかね?」

「もちろん!」

 

天気予報と計美さんの育てるトマトなどの野菜の生育状況とも相談しながら日程調整が行われ、今年は6月18日に決定。

 

予定が書き込まれたカレンダー。計美さんの家の台所入り口にかけられている。

 

 

 

 

作業自体も楽しいですが、何より楽しみなのは、計美さんの作るお昼ごはん!

テーブルに並べられたごちそうの数々。ちらし寿司、ぜんまい、切り干し大根の煮物、新玉ねぎのポン酢かけ、すまし汁

 

らっきょう作業の日程を決める時に必ず聞かれる「お昼ごはん、何がいいろうかね?」

私は毎年、迷うことなく(遠慮もなく)、この2品を必ずお願いしています。

 

①切り干し大根の煮物(ちりめんじゃこと卵入り)

卵は飼っているにわとりの卵。贅沢に6つも割って、大根の入ったお鍋に溶き入れます。こんなに美味しい切り干し大根の煮物は、未だかつて出会ったことがありません!

 

②干したけのこの煮もの

コリコリコリコリ、歯ごたえがたまらず、つまみ食いが止まりません。春に収穫した、たけのこを干したものを柔らかく戻して味付けしたもの。私も作れるようになりたい。

 

計美さんの料理は土から生まれます。お米や卵はもちろん、大根もたけのこも、計美さんが山からの恵みに手を加えて一年中食べられるよう工夫したものです。もう何も入らない…というお腹を抱えて、また一年が巡ったのだという実感が湧いてくるのです。

 

らっきょう漬けづくり(塩漬け編)に続く

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「おさるとぼうしうり」 エズフィール・スロボドキーナ作・絵 福音館書店

「ぼうし、ぼうし、ひとつ50えん!」

頭に帽子をいくつも積み重ねてかぶり、町から町へ帽子を売り歩くちょっと気取った行商人のこのセリフを、どんな風に読むかが腕の見せどころです(少し大きい子は「50円!安い!」と合いの手を入れてきます)。

行商人はたくさん歩いて疲れたため、大きな木の下で帽子をかぶったまま昼寝をし、あ〜よく眠った!と起きたら、さあ大変。頭の帽子が全部なくなっていたのです。

さて、誰の仕業だったのか?答えは、ぜひこの本を読んでもらえたらと思います。

作者のエズフィール・スロボドキーナさんのユーモアセンス、絵や色の美しさ、この本が1970年に出版されてからずっと愛され続けてきた理由がわかるような気がします。

幼稚園や保育園で働いていた時、子どもたちは本棚に並んでいたこの本を「読んで!」と何度も持って来ました。読み終わると満足げな顔をして笑っていた子どもたちの顔が、今でも心に浮かびます。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「国旗のえほん」 戸田 やすし 戸田デザイン研究室

ページを開くと世界の国々の国旗が描かれている本。お話が書いてあるわけじゃないけれど子どもたちはこの本がとても好きです。下の国名を隠して「この国旗はどこの国?」とクイズをしたり、紙を切り、国旗の模様を描きうつして旗を作ったり。

スイスやアメリカの国旗はわかりやすいけれど、ラグビーボールのような形の盾と槍が描かれている「スワジランド」、爪で丸い何かを握っているような龍が描かれている「ブータン」(調べてみると握っているように見えた何かは、「龍の爪についているのは宝石で富の象徴」なのだそうです)。

他にも「アンティグア・バーブーダ」や「セントクリストファー・ネイビス」など、長い名前の国もあります。その国を探すために地球儀とセットで楽しむのがおすすめです。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「魔法のびん詰め」 こてらみや 三笠書房

紅生姜、いちごミルクジャム、ニンニク味噌、おかずきのこ…。今まで何度、この本を開いたでしょうか。

生姜もいちごも、ニンニクもきのこも、自分の畑で作っている人たちが土佐町にはたくさんいます。旬のものは栄養があるし、美味しいし、何よりお財布にやさしい!

おすそ分けでいただいたり、産直市で購入した季節の食べものにちょっと手を加えてびんに詰め、一年中食べられるようにします。並んだびんの数々を眺める時の達成感は、なかなかいいものです。

近所のお母さんもおばあちゃんも、それぞれ工夫しながら季節の野菜や果物を保存食にしています。らっきょう、味噌、干し大根、干し芋、干し柿…。

とさちょうものがたりの「お母さんの台所」というコーナーで、今までお母さん達に教えてもらった料理や保存食の作り方を紹介しています。人生の先輩たちから教えてもらった作り方を、少しでも次の世代へ引き継いでいけたらいいなと思います。

秋になったら、紅生姜を作りたい! 柚子胡椒にも初挑戦したいです。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「ちいさいモモちゃんあめこんこん」 松谷みよ子文, 中谷千代子絵 講談社

昭和55年5月10日。この日付と松谷みよ子さんのサインがこの本に書いてあります。松谷みよ子さんご本人が、この本に私の名前を書いてくれている風景をうっすらと覚えているのですが、なんと今から39年前!こどもの頃の記憶は案外たしかなものです。

ももちゃんが「まっかなかさ」と「まっかなながぐつ」を買ってもらって外に遊びに行き、カエルやかたつむりと出会う、というお話。

「あめこんこん ふってるもん うそっこだけど ふってるもん あめふりごっごするもん よっといで」

子どもたちと絵本を読む時、このセリフを言う私の口調が驚くほど母に似ていることに、はっとさせられます。ああ、母もこんな風に読んでいた、と記憶が蘇ってくるのです。日常の中にあるふとしたこんな瞬間は、母が手渡してくれた確かなものが私の中にあることを教えてくれます。

そんな記憶を、私も子どもたちに贈ることができたらいいなと思います。

鳥山百合子

 

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土佐町ストーリーズ

むかしきゅうり

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たまらなく懐かしい人に会ったような気持ちで受け取った。

「野菜、取りにきいや」と声をかけてくれた人が手渡してくれたもの。長さ約30センチ、厚さ10センチ、重さ約1.5キロ。色は薄い緑で、少し黄色がかっている。その姿はまるでお腹をへこませたラグビーボールのようである。

その野菜の名は「むかしきゅうり」。

 

町のスーパーの野菜売り場で見かけるのは、気軽に片手で持ち、ガブッと丸かじりできる細長いきゅうりがほとんどだと思うが、「むかしきゅうり」がそういった場で売られているのをまず見たことがない。丸かじりで完食するにはかなりの根気がいる大きさであり、ましてや皮はけっこう硬い。多分、自宅用または近所の知り合い同士、その土地の間だけで出回っている野菜なのではないだろうか。

 

むかしきゅうりは、私にとって大切な人を思い出させる。

夏になると、「むかしきゅうり」を何度も持ってきてくれる人がいた。私が土佐町に来てから、毎年毎年ずっとだ。

その人、上田のおじいちゃんは、軽トラックの荷台にいくつも積んで来て「皮をむいて、小エビなんかを一緒に入れて炊くとおいしいで」と言いながら、手渡してくれた。その一つ一つはずっしりと重く、夏の太陽をさっきまで浴びていたんですよ、と言っているかのように内側から熱を放っていた。

大きめのむかしきゅうりを半分に割ると白い種が行儀よく交互に並んでいる。調理するときはそれを大きなスプーンか何かでこそげ取るのだが、おじいちゃんはその種を取っておいて、種の周りについてぬめりを山水で洗い、来年用の種として乾かして保存していた。夏の盛りにおじいちゃんの家に行くと、軒下にひかれた新聞紙の上にいくつもの白い種が散らばっていたものだった。むかしきゅうりを手にし、急にその風景が蘇った。

おじいちゃんは、今年の2月に亡くなった。

 

 

今年、むかしきゅうりを手渡してくれた人も「皮をむいて、煮て食べるとおいしいで」とおじいちゃんと同じことを言った。

その言葉を聞いて「ああ、上田のおじいちゃんから、むかしきゅうりを受け取ることはもうないのだ」と思った。同時に、おじいちゃんと同じきゅうりを育てている人がいるということが、どこか嬉しくもあった。

家に帰り、二人が教えてくれたように皮をむき、だしと醤油、小エビを一緒に煮て、クズでとろみをつけ、おろし生姜を添えていただいた。

 

 

「おじいちゃん、今年もむかしきゅうりと会えたよ」

そんな気持ちで、まだいくつか残っているむかしきゅうりを眺めている。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「ヴィオラ母さん」 ヤマザキマリ 文藝春秋

漫画「テルマエ・ロマエ」を描いたヤマザキマリさんが、自分を育てたお母さんのことを書いた一冊。

現在86歳というお母さんが20代の頃、まだ女性が仕事を持つということが難しかった時代に「やりたいことをやる」とヴィオラ演奏家になり北海道へ移住、各地で開かれる演奏会をこなしながら、なかなかのハチャメチャぶりで二人の娘を育てていく。「これはすごい…」と思わず唸ってしまうような出来事の数々がこれでもかと飛び出して来ます。

当時、女性が自分の思いを貫き通すことは相当の覚悟がいることだったでしょうし、並大抵のことではなかったと思います。そのお母さんのそばでマリさんは、お母さんの背中をちゃんと見ていたのだとわかります。

「鼻息荒く駆け抜ける野生の馬のように自分の選んだ仕事をし、子供を育てて来た一人の凄まじき女の姿を思い浮かべてもらうことで、自分や子供の未来に対してどこまでも開かれた、風通しの良い気持ちになってくれたら嬉しく思う。」

もう一度「テルマエ・ロマエ」を、そして他の著書も読んでみたくなりました。

鳥山百合子

 

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