「詩集 人生の扉は一つじゃない」 大崎博澄 たんぽぽ教育研究所
困ったり、辛かったり、イヤになったり、どうしよう…、と思う時に開いてみてください。
「救求書」です。
藤田英輔
著者名
記事タイトル
掲載開始日
山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。
人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。
土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?
みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!
(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)
「外来植物 高知嶺北 A・B」 山中直秋
土佐町の山中直秋さんが自費出版した本です。
牧野植物園が行った高知県内の外来植物を把握する調査に参加した山中さん。嶺北地域を担当し、嶺北の外来植物をまとめたものです。
道端でよく見られるあの花この花が掲載されていて「え?!あの花も外来植物だったのか!」と驚かされます。
山中さんは今年、牧野植物園が行っているたんぽぽの調査にも参加されていました。外来種、在来種のたんぽぽがどのように分布しているか調べるのです。私も調査に参加させていただのですが、これをきっかけにいつも通り過ぎ、見逃していたたんぽぽの存在に気づくようになりました。新しい世界を知るのは面白いことです。
ある日、土佐町の溜井地区を車で走っていた時に山中さんにお会いしたことがありました。
「溜井に在来種のたんぽぽがあるって聞いて、探しに来たんだよ!」ととても嬉しそうに話してくれました。
その何日か後、山中さんの家の庭に、ひとつ、たんぽぽがちょこんと植えられていました。とても丁寧に植えられていることがわかる佇まいでした。聞いてみると、溜井で見つけた在来種のたんぽぽのひとつをここへ植えたのだそうです。(ちゃんと根付いたそうです!また来年も咲くのでしょう。)
山中さんのこの本は、土佐町の青木幹勇記念館で購入することができます。
(青木幹勇記念館:〒781-3401 高知県土佐郡土佐町土居437 TEL.0887-82-1600)
興味のある方はぜひ!
道を歩き、草花と出会うことが楽しくなること間違いなしです!
鳥山百合子
「野生の思考」 中沢新一 NHK出版
「構造主義の父」と呼ばれるクロード・レヴィ=ストロースの著書「野生の思想」を、NHK「100分de名著」が取り上げた際の、これはテキストに当たる一冊です。
この「100分de名著」シリーズ、多くの場合解説にあたる方々が、机の上の話だけに終始しないところが、意図してそうしているような気がしますが、素晴らしいと思います。
「野生の思考」自体はなかなか難解で読みづらい本ですが、この回の解説員は中沢新一さんで、とてもわかりやすく解説されています。
レヴィ=ストロースが中心となって打ち立てた、いわゆる「構造主義」ですが、これは1960年代に現れ、現在の世の中を形作った思想的土台を担っていると言えます。
その時代、それまでの主流としてあったのは「実存主義」。レヴィ=ストロースはこの「実存主義」をこてんぱんに論破し、その思想的生命に終止符を打ったそうです。
具体的にいうと、「実存主義」が、人類の歴史を直線上に進化・進歩していくものと捉えていたことに対し、レヴィ=ストロースは真っ向から批判します。
歴史を「直線上に進化・進歩していくもの」と定義した場合、そこには必然的に「進んだ西欧と遅れた後進国」という概念が生まれ、それは啓蒙主義(遅れた未開人には教えてやるべき)とか進歩主義(進歩や成長至上主義というもの)の根拠になります。
「構造主義」はその歴史観を一旦全て否定し、そうではなく、人類は新石器時代から変わらない構造の脳を持ち、人類に共通の「構造」のもと文化を育んでいると主張しました。
そう考えると、一見進んでいるかのように見える欧米社会も、遅れているとか未開とか言われてきた先住民の社会も、共通の「構造」によって作られた土台を、表面上の味付けだけを変えて繰り返しているにすぎないということになり、そこに本質的な優劣は存在しないのです。
むしろ人間の本質に沿っているのが実は未開と呼ばれる社会の方なのでしょう。
この考え方が1960年代以降、世界を動かすエンジンオイルのように染み渡ります。先住民文化の再評価という世界的な動きや、オーストラリアの首相がアボリジニの人々に公式に謝罪したこと(2008年)なども大きく捉えるとその一環としてあるとも言えます。
だいぶ長くなってしまって恐縮ですが、翻って考えてみれば、日本ではとても顕著な「進んでいる都会」と「遅れている田舎」という二項対立は果たして本当でしょうか?
レヴィ=ストロースの「野生の思考」というメガネをかけて見てみれば、「人間の本能や本質を発揮しにくい場所」と「人間の本能や本質に沿った暮らしがしやすい場所」という考え方もできるかもしれません。
「野生の思考」という言葉は、「とさちょうものがたり」が土佐町でやってきたこと、やろうとしていることにもどこか深いところで直結しているもののような気がします。
「園芸家12ヶ月」 カレル・チャペック 中央公論社
高知新聞2019年5月30日から、いとうせいこうさんの「日日是植物(にちにちこれしょくぶつ)」というタイトルで、ご自身の園芸観についての連載が始まりました。
その中にカレル・チャペック著「園芸家12ヶ月」の紹介があり、ハタと「確か家にあったような…」と捜してみると…ありました。再読しました。
チャペックさんはヒトラー専制の時代に苛烈にファシズム(独裁的な権力、弾圧と制御による思想・体制のこと)を批判し、当時のゲジュタポ(独の秘密警察)に捕われる前に、その鼻を明かすように亡くなっていました。同時にひたすらストイックに植物について著し、煮えたぎる情熱と静かな湖面のような「熱湯とそよ風の精神」を持った混乱するチェコに生きたジャーナリストであり、作家であり、趣味の多才な人でした。1929年に著されたようです。只の「園芸について」だけの本ではありません。
挿画は実兄のヨゼフ・チャペック氏(1889~1945)です。
高知新聞のいとうせいこうさんの連載の挿画は里美和彦さん(1957~高知市在)です。里見さんは同じく高知新聞の水曜日に「定年のデザイン」というタイトルで文とスケッチを連載されています。文章は大変読みやすく、興味深く、情景の浮かぶ素晴らしい連載です。新聞が待ち遠しく、楽しみが増えました。(また、木曜日には「おじさん図鑑・おばさん事典」が連載されており、これまたおもしろいです)
今回は高知新聞の紹介になりましたね。植物を愛する気持ちはどこの国民も同じです。
牧野植物園(五台山・佐川町)へも行きたくなりました。
藤田英輔
「ヤモリの指から不思議なテープ」 石田秀輝, 監修 アリス館
新幹線が時速300キロ以上で走るようになった時、騒音基準をクリアするのが大変だったようです。
電車が空気の中を突っ切る時に出る音、つまりパンタグラフの形を様々に変えて騒音を抑えようとした時ヒントになったのが、音をほとんどたてずに飛ぶふくろうの羽の秘密であり、電車の先頭部の形の工夫については、カワセミの細長い流線形のくちばしが水に飛びこんだ時、水の衝撃をうまく逃がしていることがヒントになりました。
生物は本当によく出来ています。その能力や不思議を知れば知るほど、設計者である神の偉大さと、そこに学ぼうとする人間の賢さを素晴らしいと感じます。この本にはたくさんのネイチャーテクノロジーが、とってもわかりやすく丁寧に詳しく書かれています。
藤田純子
「現代語 古事記」 竹田恒泰 学研
「古事記、おもしろいよ」と次男が言っていたのを思い出しこの本を買ってみました。
「序にかえて」で『日本は現存する唯一の古代国家』と書かれています。全く意識していない事だったので、驚きと共に少し誇らしささえ感じました。
【私にとっての法則:古事記=神様大発生=覚えられない=読まず嫌い】でしたが、「神様と人の名前が出てきたらすぐに忘れること」という記述に後押しされ、どうにか読破できました。古事記における神話は絵本や童話でチラホラ知ってはいるものの、単発的な読み物としての枠でした。
世界最大のベストセラー「聖書」は『高尚さ』『教養人としての常識』を感じさせるのに対して、同じ神話というカテゴリーにおいて「古事記」というと荒唐無稽な絵空事と感じてしまう。日本人として「古事記」という書物を大切に伝えていかなければ…と、少なからず使命を感じた読後です。
西野内小代
「繕う暮らし」 ミスミノリコ 主婦と生活社
薄くなった靴下のかかと、Gパンのズボンのポケット、木登りして盛大にお尻の部分が破れた息子のズボン、転んで穴が空いたズボンの膝小僧。
裏側から布を当てて、色々な色の糸でチクチク繕う。夜は眠くなってうとうとしながら縫うので、針で指を刺してハッと目が覚める。
息子が小さかった時、穴のあいた箇所をチクチクと繕ったズボンを嬉しそうに学校へはいていった。そうやってちょっと手を加えたものは古くなっても小さくなってもなかなか手放せず、引き出しに大事にしまってある。
ひと針ひと針、針を進める作業は自分の心と会話する時間でもある。
ざわざわ、モヤモヤする気持ちを軌道修正しながら、縫いあがってちょっとかわいく生まれ変わった靴下やズボンをたたむ。ふと見渡した周りの風景が、いつもとはちょっと違うものに見えたりする。
鳥山百合子
「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」 ヤニス・バルファキス ダイヤモンド社
著者のヤニス・バルファキスは、ギリシャの経済危機に際して財務大臣であった人物です。
お父さんが10代の娘に説いて聞かせるように、平易な言葉遣いで、経済の本質的な部分を整理して語っているのがこの本。
経済という、誰もが無縁でいられないけれど誰もが実態を分かっていないものを、根本から紐解こうとしていることに面白みがあります。
この時代、システムが大きく複雑になりすぎて、人間を振り回すような状況になってきています。
その始まりは人間にとって必要だから作られたはずのシステムや制度が、いつの間にやら形骸化して中身のないものになっていたとしても、システムだけは回り続けて人間を振り回すようになっている。そういう意味では「経済」というシステムはその中でも最大最強のものではないでしょうか。
その状況を前にして、人間としてどういう態度をとるか。
◯既存のシステムの中で良い点を取れるように頑張るか
◯古いシステム自体を塗り替えて次の世の中を作ることに力を注ぐか
実は意外と近いところにその選択肢を選ぶときが来てるのかもしれません。