2023年11月、土佐町石原地区で「石原高齢者訪問」が行われました。
これは、土佐町石原地区(東石原・西石原・峯石原 ・有間)に住む高齢者のお家に伺い、会って近況を聞いたりする活動で、集落活動センターいしはらの里の事業の一つになっています。
土佐町の田井内科と早明浦病院に勤める土佐町在住の医師・竜野真維さんが、できるだけ多くの住民の方と知り合いたいと毎月1回この訪問を続けています。
この日は県立大学看護学部の小林秀行さん、高知大学の医学生や地域おこし協力隊の方も一緒に回りました。
土佐町・峯石原へ
約6年前、当時石原の集落支援員だった山下秀雄さんが「高齢者の方の暮らしを見てみませんか」と竜野さんに声をかけ、この訪問活動は始まりました。
訪問にはいつも山下さんか、同じく集落支援員の中町和正さんが同行しています。「山下さんや中町さん、地域の民生委員さんがいつも一緒に来てくれるから、こうやってお家を回れるんです」と竜野さん。
この日は午前中だけの訪問日で、峯石原地区の訪問に行くことに。
くねくねした山道をのぼって一軒目の家へ。いつも季節ごとの色とりどりの花が咲いているお家です。山下さんが玄関先から声をかけました。
「おはよう。おるかよ〜?」
返事は聞こえず、誰も出てきません。ポストにはたまった郵便物が見え、しばらくの間留守にしているようでした。「もしかしたら入院しているのかもしれない。ちょっと聞いてみよう」と山下さん。これから行く他の家の人に聞いてみようという訳です。
標高700メートルの場所で
次に向かったのは、標高700メートルの場所にあるお宅。西川正子さんのお家へ向かう途中の坂から、見事な雲海が見えました。
山下さんが「おるかよ〜」と言いながら庭へ入っていきます。
「竜野先生が来てくれたよ〜」
家の玄関前のすぐ下は斜面になっており、畑にブロッコリーや葉物野菜が育っています。玄関前の通路には手すりが付けてありました。
しばらくすると、
「はーい、まあまあ、ありがとう」
家の中から声が聞こえてきました。ガラガラと玄関が開き「まあまあ、久しぶりねえ」と元気そうな声が。
「お元気ですか?体調はどうですか?」と竜野さんが声をかけると、「自分のことは自分でそれなりにごちごちよ。坂をおりたりとかできんけんど。2月で80歳!元気な、もう!」とにっこり。
高知大学の学生さんが、西川さんの血圧を測り始めました。西川さんご自身も看護師だったそうで、学生さんの手元をじっと見ながらアドバイスもされています。
「玄関前に柵をつけたんやね」と山下さん。
「そうそう、そうすると安心して歩けるきね」
何気ない会話からその人の日々の様子が伝わってきます。
「春にきた時は、ぜんまいがたくさん干してあったんですよ」と竜野さん。南側を向いた屋根付きの干し台にはカゴがずらりと並んでいます。軒下には収穫した玉ねぎが下がり、プランターには立派な大根や葉物野菜が。きっと、畑まで降りていくのはしんどいので、玄関近くにプランターを置き、野菜を育てているのでしょう。
帰り際、西川さんは訪問した6人全員に缶コーヒーを手渡してくれました。私は西川さんから一番離れた場所にいましたが、玄関先から顔を出し、私の方を見て「もらったかね?」。
「はい、いただいてます」というと「そうかそうか、よかった」と言って顔を引っ込め、玄関先に座っていました。
足が痛いだろうに私が見えるよう立ち上がり、玄関の戸から上半身をのぞかせ、こちらを見る姿。ポケットに入れた缶コーヒーが、何度もそのやりとりを思い出させました。何気ないそのふるまいから、その人となりが伝わってくるのでした。
特別扱い
竜野さんが研修医だった頃のこと。山奥の僻地にある診療所で、地域に腰を据えて診察する自治医大の先生に出会い、その時から地域医療をやりたいと思ってきたそう。
「病院勤務の場合、患者さんと医師としての付き合いになるけれど、地域に住む医師となると住民同士としての付き合いになる。患者さんを病気になって初めて知るのではなく、その人が地域で生活している姿を知った上での診療がしたかったんです」
「みんなを特別扱いできたらいいな、と思って」と竜野さん。
医師と患者という関係以前に、人間同士としての関係を築きたい。互いの存在を大切に思い合えるような関係を土台とし、その人にとって必要な医療を提供したい。
相手が自分にとって「特別」になるのは、相手のことを好きになるから。好きだから相手を大切にしたい。医師と患者でありながら同じ住民、同じ人間である。その上で、医師として自分にできることとは?
「特別扱いできたら」。竜野さんの考える地域医療の在り方が伝わってくるような言葉でした。
向き合う人の目を見つめて優しく丁寧に話し、その人のお話に耳を傾ける竜野さん。行く先々で地域の方が「竜野先生」と呼ぶ声を聞き、その声色から竜野さんがどれだけ地域の方から信頼されているかが伝わってきました。
(「石原高齢者訪問 2023年11月 後編 」へ続く)