「21世紀に生きる君たちへ」 司馬遼太郎 ドナルド・キーン監訳, ロバート・ミンツァー訳 朝日出版社
司馬遼太郎さんが子どもたちのために書いた「21世紀に生きる君たちへ」。国語の教科書にも掲載されています。
「君たち。君たちはつねに晴れ上がった空のように、たかだかと した心を持たねばならない。 同時に、ずっしりとたくましい足どりで、大地をふみしめつ つ歩かねばならない。私は、君たちの心の中の最も美しいもの を見続けながら、以上のことを書いた。 書き終わって、君たちの未来が、真夏の太陽のようにかがや いているように感じた。」
何度も読み返しては司馬さんの人間観、価値観を感じ、いつもお会いしてみたかったと思うのです。
話は少し遡りますが「とさちょうものがたりZINE04 山峡のおぼろ」が出た後、神山義三さんという方がとさちょうものがたり編集部に電話をくださいました。
「『とさちょうものがたりZINE04』を、著者である窪内隆起さんから送ってもらった。友人たちにも手渡したいから購入したい。送ってもらえるだろうか?」ということでした。
お話を聞くと、今は亡き奥様が入院中、義三さんは枕元で「山峡のおぼろ」を一話ずつ読んであげていたとのこと。「『今日はここまで。また明日ここから読もうね』と毎日楽しみに少しずつ読み進めていたんです。でも、全部読み終わる前に、亡くなってしまいました」と話してくださいました。
その亡くなった奥様が、神山育子さんでした。育子さんは小学校の先生で、司馬さんの「21世紀に生きる君たちへ」を日本で初めて授業で取り組んだ先生として、2000年に愛媛県で行われた「えひめ菜の花忌シンポジウム」に招かれました。そこには窪内隆起さんも招かれていて、司馬文学を21世紀にどう受け継ぐか、議論をしたそうです。
それがご縁で、義三さんと育子さん、窪内さんは長年手紙や電話でやり取りするようになったとのこと。
枕元でお話を読む義三さんの声に耳を傾けながら、育子さんは、懐かしい窪内さんの顔も思い浮かべていたことでしょう。
その風景が見えるようで、涙がこぼれました。
司馬遼太郎さんの編集者だった窪内隆起さんが書いてくださった「山峡のおぼろ」が、神山さんご夫婦と私たち編集部との新たな出会いを運んできてくれました。
この本を開くたび、窪内さんや義三さんや育子さんのことを思っては、ご縁の不思議さと尊さを思います。