私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

西野内小代

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「恵比寿屋喜兵衛手控え」 佐藤雅美 講談社文庫

インターネットで他の本を注文した時にお薦めとして紹介されていたので、購入してみた一冊です。

直木賞受賞作という事なので期待度も高まります。

導入部分のさりげない描写に促され、すんなり江戸へとタイムスリップできます。期待通りの面白さでした。

恵比寿屋という旅籠屋が舞台、そこの主人を中心に物語は展開していきます。

今でいう司法書士事務所も併設している旅籠なので、種々の人間模様が深い観察力で描かれています。

主人公が命を狙われるという複雑なサスペンス性も兼ね備え、先へ先へとページが進みます。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「21世紀に生きる君たちへ」 司馬遼太郎 ドナルド・キーン監訳, ロバート・ミンツァー訳 朝日出版社

司馬遼太郎さんが子どもたちのために書いた「21世紀に生きる君たちへ」。国語の教科書にも掲載されています。

「君たち。君たちはつねに晴れ上がった空のように、たかだかと した心を持たねばならない。 同時に、ずっしりとたくましい足どりで、大地をふみしめつ つ歩かねばならない。私は、君たちの心の中の最も美しいもの を見続けながら、以上のことを書いた。 書き終わって、君たちの未来が、真夏の太陽のようにかがや いているように感じた。」

何度も読み返しては司馬さんの人間観、価値観を感じ、いつもお会いしてみたかったと思うのです。

 

話は少し遡りますが「とさちょうものがたりZINE04 山峡のおぼろ」が出た後、神山義三さんという方がとさちょうものがたり編集部に電話をくださいました。

「『とさちょうものがたりZINE04』を、著者である窪内隆起さんから送ってもらった。友人たちにも手渡したいから購入したい。送ってもらえるだろうか?」ということでした。

お話を聞くと、今は亡き奥様が入院中、義三さんは枕元で「山峡のおぼろ」を一話ずつ読んであげていたとのこと。「『今日はここまで。また明日ここから読もうね』と毎日楽しみに少しずつ読み進めていたんです。でも、全部読み終わる前に、亡くなってしまいました」と話してくださいました。

その亡くなった奥様が、神山育子さんでした。育子さんは小学校の先生で、司馬さんの「21世紀に生きる君たちへ」を日本で初めて授業で取り組んだ先生として、2000年に愛媛県で行われた「えひめ菜の花忌シンポジウム」に招かれました。そこには窪内隆起さんも招かれていて、司馬文学を21世紀にどう受け継ぐか、議論をしたそうです。

それがご縁で、義三さんと育子さん、窪内さんは長年手紙や電話でやり取りするようになったとのこと。

枕元でお話を読む義三さんの声に耳を傾けながら、育子さんは、懐かしい窪内さんの顔も思い浮かべていたことでしょう。

その風景が見えるようで、涙がこぼれました。

司馬遼太郎さんの編集者だった窪内隆起さんが書いてくださった「山峡のおぼろ」が、神山さんご夫婦と私たち編集部との新たな出会いを運んできてくれました。

この本を開くたび、窪内さんや義三さんや育子さんのことを思っては、ご縁の不思議さと尊さを思います。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「殺人者の涙」 アン=ロール・ボンドゥ, 伏見操 訳 小峰書店

アンヘル・アレグリアは殺人者。逃亡生活にうんざりした彼は隠れ家を得るため、チリの最南端、太平洋の冷たい海にのこぎりの刃のように食い込む地の果てに住む夫婦を殺します。

一人残された息子のパオロは生きのびるため、殺人者と一緒に暮らすことになるのですが…。

なんとも強烈な出だしからはじまる、緊張感あふれる二人の生活。何も与えられず、何かを与えたことのない殺人者と愛されたことはなく愛されるとはどんなことかを知らない少年。空疎な二人が共同生活を送る中から生まれる「なにか」。

生きる意味、赦すということ、贖罪とは…。決して心温まる物語ではないし打ちのめされる展開に読み続けるのがつらいこともあるにもかかわらず、未来への希望が感じられる読みごたえのある小説です。

 

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私の一冊

川村房子

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「我が家の母はビョーキです」 中村ユキ サンマーク出版

「統合失調症」って病気、知ってますか?

「私の母は27歳のとき、突然おかしなことを言いはじめ、そしてついに、この病気を発病しました…。当時私は4歳。」という作者は、マンガ家。

統合失調症生活31年になった母と、介護福祉士で楽天家、我が家の潤滑油で私と母にとって心の安らぎの夫の3人暮らし。

何年たっても、父のギャンブルと借金癖は、なおることなく全く頼りにならない。父と母の離婚成立。17歳で後見人。

母親も苦しいだろうが、子どものかかえた苦労やつらさは壮絶。

この生活の中で母の面倒をみながら、よくぞまっすぐに生きてこられたものです。総理大臣賞でもあげてほしい。

母と暮らしながら、周囲に出せない病気のことを学び、誰かに相談することで、とても生きやすくなってきた。

相談機関、いろいろな書類の提出の仕方も詳しくかかれている。

ユーモアをまじえた親子のやりとり。

家族一緒にのんびり楽しく「失敗」と「反省」を繰り返しながら、「涙」と「笑顔」で生きてみよう…と結んでいる。

ユーモアとのんびり、ゆっくりはとても大切だと思う。

 

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私の一冊

西野内小代

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「農山村は消滅しない」 小田切徳美 岩波新書

2013年頃に話題となった「市町村消滅論」「地方消滅」。

詳しい内容まで踏み込まなくても、この言葉の与えるインパクトはかなり強烈だった。「農山村は消滅しない」というこの本のタイトルを見た時は励ましを感じました。

移住・地域おこし協力隊の意義・受け入れる側の心構え等、現実を踏まえた上で論理的に述べられています。

先祖代々根付いてきた高齢者の方たちの住み続けるという強い意思、そして土地に対する誇りが農山村を消滅させない力強い原動力となっている。

中央によるアメとムチをちらつかせた政策として平成の大合併が行われましたが、隅々まで手の届かない地方自治体が増えた事により地方に諦め感が発生する。その諦めが地方を衰退させる遠因となりうる。

もう一度、統合の為に廃校となった学校単位での集落の活用が見直されるべきであると述べられていて、納得でした。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「いしぶみ  広島二中一年生全滅の記録」 広島テレビ放送 編 ポプラ社

表紙を開くと見開きには石に刻まれた名前が…。これは、広島二中慰霊碑に刻まれた子どもたちの名前です。

昭和20年8月6日。その日、子どもたちは世界で最初の原子爆弾により自分の命が絶たれることなど露とも知らず、家族にいつものように挨拶をし、家を出たのでした。

広島に原子爆弾が落とされた時、20数万の方が命を奪われ、多くの人が原爆症で苦しみ、今も原爆病院には長い入院生活を送っている患者もいるのです。「20数万人」「多くの人」「患者」と文字にするとなにか一つの抽象的なもののようにも感じられますが、その単語の向こうには、言葉のなかには一人ひとりの個人がおり、それぞれには家族があり、生活があり、夢があり、「明日」があったはずなのです。

ひとくくりにすることで見えなくなりがちな一人ひとりが、どのような子どもであったのか戦時下ではあっても家族との語らいを楽しみ、友達を笑いあい、今日が明日に続くと信じていた子どもたち。誰一人として奪われてよい命はないのに、簡単に奪ってしまい奪うことが正義となる戦争。

戦後75年といわれる今日が「戦前」とならないよう読み継ぎ、手渡したい1冊です。

 

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私の一冊

石川拓也

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「哲学と宗教全史」 出口治明 ダイヤモンド社

500ページ近くある分厚い本ですが、読了したときには静かに拍手を送りたくなるような良い本でした。

以前「全世界史」も紹介した出口治明さんが、「哲学と宗教」にフォーカスして「人類全史」を書くとこうなる。

有史以来、人類が命がけで紡いできた生き延びるための「思想」の全体像が、朧げながらつかめてくるような気がします。

個人的に、抜群におもしろいのはやはり古代。

東は仏教・バラモン教・ジャイナ教などが発祥したインド、古代〜中世中華が育んだ儒教・道教・仏教の中華三大宗教。

西はギリシャ哲学の諸々派や、世界最古の宗教といわれるゾロアスター教(拝火教)から、セム系一神教(アブラハムの宗教)のユダヤ教・キリスト教・イスラム教の誕生と発展。

私たちが生きる現代のこの世界が、先人たちの知的格闘の末に作り上げられたものであるということがよくわかります。

仏典や聖書・クルアーン、四書五経、実存主義・唯物論から構造主義まで。頭がクラクラしてきます。

蛇足ですが、古代・中世の日本では、時の権力者の方針により、仏教と儒教を行ったり来たりしていたようです。

このふたつに対しては、日本人として理解できる肌感覚がありますが、なぜそこで道教が3つ目の選択肢として根付かなかったのか。謎であるとともに、道教のスローライフ的な教えが興味深く、少々惜しい気がします。

 

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私の一冊

西野内小代

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「ペスト」 カミュ著, 宮崎嶺雄訳 新潮文庫

コロナの時代に再度ブレイクしている小説「ペスト」。ペストの流行を扱った小説です。

アルジェリアのオラン市という港町が舞台、医師ベルナール・リウーが傍観者の立場で語るという構成です。医療従事者の疲弊、ロックダウン、死者を葬る場所さえなくなりかねない現実。

令和の今「コロナ」と過ごす日々、昭和44年発行の「ペスト」の内容がゾッとする程ソックリです。

哲学者カミュの描写は複雑な精神・社会情勢分析等難解でもあります。我慢して、我慢してやっと読み終えました。

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私の一冊

古川佳代子

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「窓ぎわのトットちゃん」 黒柳徹子 講談社

今を去ること40年前の大ベストセラー。読んだことのある方は多いでしょうし、読んでなくても書名に覚えのある方もおありでしょう。

“これは、第二次世界大戦が終わる、ちょっと前まで、実際に東京にあった小学校と、そこに、ほんとうに通っていた女の子のことを書いたお話です” ではじまる本当にあった物語。 周りの空気を読むとか、同調するとか忖度なんか一切ない、好奇心旺盛で心のままに行動するトットちゃん。何をしても何を言ってもまるごと受け止めて「君は、本当は、いい子なんだよ!」と声をかけてくれる校長先生。

子どもたちに関わる大人がみんなこの校長先生のようなスタンスで子どもに関わっていければ、子どもにとってどんなに生きやすい社会となることか…。

 

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私の一冊

田岡三代

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「ホセ・ムヒカの言葉」 佐藤美由紀 双葉社

2012年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連の「持続可能な開発会議」で各国の首脳によるスピーチが行われた。その最後のスピーチが南米のウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカだった。そのスピーチが「もっとも衝撃的なスピーチ」と呼ばれるようになった。

「質問をさせてください。ドイツ人が一世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てば、この惑星はどうなるのでしょうか。息をするための酸素がどれくらい残るのでしょうか。(中略)私の言っていることはとてもシンプルなものですよ。愛を育むこと、人間関係を築くこと、子供を育てること、友達を持つこと、そして必要最低限のものを持つこと。環境のために闘うのであれば、人類の幸福こそが環境の一番大切な要素であることを覚えておかなくてはなりません。」(ホセ・ムヒカのスピーチ)

コロナ禍の今、もっともっとという無限の慾に支配されずに、ほんの少しの我慢、必要最低限の物で生きていける社会を考えてみるのもいいのかもしれない。

 

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