2021年5月

笹のいえ

Stand by Me

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

三月終わりのころの話。

8歳の息子が友達を連れ立って、高知市内に遊びに行くことになった。

彼にとって、子どもだけの遠出は生まれてはじめてのこと。

ある日長女グループが自分たちで計画を立てているのを見て、僕も連れて行ってほしいと願った。が、「女の子たちだけで行きたいから」という理由で断られたので、母ちゃんに泣きつき、男子旅プロジェクトがスタートした。

行き先は、わんぱーくこうち。

県内では有名な公園で、小規模ながら動物園と遊園地を併設している。僕らの住む地域からはバスと電車を乗り継いで片道約二時間掛かる。

まず実行日とメンバー決定して、乗り物の時刻と料金調べる。お小遣いをいくら持っていくかなど、綿密な計画が彼らの間で練られていった。良く言えば細かいことは気にしない性格の息子は、何回確認しても、紙に書いたスケジュールを覚えられない。そんなことで無事に旅は遂行されるのだろうか。いろいろ手を尽くした親が最後に言ったアドバイスは、「わからないことがあったら、周りの人に聞きなさい!」。高知県民の人情の厚さに頼るのが一番確実と考えたからだ。

二年生から五年生、ドキドキの男子旅。数日後に県外へ引っ越してしまう同級生も飛び入り参加することになり、総勢四人の記念旅行となった。

翌朝、集合場所であるバス停に乗るべき便が到着した。よしさあ出発!というとき、ひとりが漫画を読み耽っていてあわや置いて行かれそうになり、見送りの親たちは息子たちの一日を案じた。

 

夕方の到着時間。保護者たちの心配をよそに、男子たちは笑顔で帰りのバスから降りてきた。まずは怪我もなく無事に戻ってきてくれたことに感謝し、我が子と友だちの成長に胸が熱くなった。

冒険から生還した勇者たちは、我が町に到着して緊張の糸が切れたのか、旅の話を一斉に喋りはじめた。道中の様子、遊園地のアトラクションが如何に刺激的だったか、お小遣いで何を買ったか。皆我先にと話すものだから、聞く方は大変。でも、今日という日が彼らにとってどれほど素晴らしかったのかよく分かった。ちなみに、うちの息子はアイスクリームの三段重ねを二つも食べたと得意そうに話していた。普段うちでそんな暴挙は許されていないが、それも親がいない旅の醍醐味だろう。使ったお金より彼のお腹が心配だけど。

そんな彼らの武勇伝の中で、印象深かったのは、帰りのバスに乗り遅れた話。

帰りのルートは、わんぱーく→高知駅→土佐町とバスを乗り継いで戻ってくる予定だった。しかし、わんぱーくでバス停の場所を間違っていたのか、運転手が彼らを見落としたのか、乗るべきバスが出発してしまったらしいという事態が起こった。どうするどうする、次のバスを待っていたのでは約束の到着時間に間に合わない。しばらくの問答ののち、グループの最年長であり乗り物好きなW君は、この路線バスは高知駅を往復する路面電車と同じ道を走っているということを、行きのバスの車窓から眺めて覚えていた。だからそのルートを辿っていけば駅に着くはずだと主張する。かくして一行はその線路を探し当て、駅まで歩き、予定していた土佐町行きのバスに乗り込むことができたという。その話を聞いたとき、僕の頭の中にあの映画の一場面が鮮明に飛び込んできた。ストーリはだいぶ違うけれど、そして実際には線路上を歩いたわけではなく歩道を歩くという交通ルールを守った正しい方法だったけれど、どちらも少年たちの大冒険であったことに変わりはない。

友人たちに別れを言い、車に乗り込んだ息子。少し気持ちが落ち着いたのか旅の疲れが出たのか、シートに身を沈めてじっと外の景色を眺めてる。運転する僕の脳内では、Ben E. Kingの曲が繰り返し流れていた。

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
読んでほしい

春の玄関先から

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

春になると、山で働く人たちからいただく贈り物がある。

それは夕方、帰宅した玄関先にどさりと置いてあることがほとんどで、かなりの不意打ちをくらう。それは保育園の年長さんくらいの子どもの背丈があり、ずしりと重い。

4月27日の夕方にもそれはやってきた。

下を向いて歩きながら、やっと辿り着いた家の玄関先。

わ!

思わず声が出て、足が止まる。さっき採ってきたばかりですよという顔で、2〜3本が並んで玄関前に鎮座しているのはなかなかの風景だ。

誰が置いてくれたかは、いっぺんでわかった。

 

晩ごはんのおかず、決まる

その時、近所に住む知り合いのおばあちゃんが通りかかった。挨拶すると、おばあちゃんは玄関先を見て「今、美味しいわよね〜、タケノコ!」と言った。

「みんなたいてい、糠を入れて炊くけど、私は水で煮ちゃうの。それでも全然大丈夫。このへんのタケノコはあくが少ないから」

「ゆがいたタケノコをすって、メリケン粉を少し足して、スプーンでぽとんと落として、お団子みたいにあげると美味しいわよ〜。カラッとして!」

 

俄然やる気が出てきた。

水で煮ればいいなんて気軽だし、ちょうど冷蔵庫の中は空っぽで、今晩のおかずは何にしようか決めかねていたのだった。

 

タケノコの「解体作業」

そうと決めたら、まずはタケノコの「解体作業」から。

タケノコはとにかく大きく、剥いだ皮は山盛り、大量。そして剥ぐときに粉のようなものが落ちる。だから外でやるのがいい。

土佐町の山の人たちは、たいてい、かまどで大きな鍋にごんごん湯を沸かし、その中にタケノコと糠を入れて茹でる。でも私はそういう環境がないので、台所のガスで炊く。

まずはタケノコに包丁を入れる。見た目は鎧のようだが、気持ちよくざっくりと包丁で切れる。切ったそばから、タケノコの香りが台所中にひろがり、今年も出会えましたねという気持ちになる。

半分に切ってぱかっと開くと、幾重もの皮に包まれていたたまご色のタケノコが姿を現す。皮から剥ぎ取るようにして、筍を鍋に入れていく。一番大きな鍋の蓋が閉まらないほどタケノコを詰めて、煮る。途中、シューシューと煮汁が溢れるので、他の仕事をしていても鍋の音に耳を傾けている。

部活から帰ってきた娘が、玄関を入って開口一番、言った。

「わ!いい匂い!タケノコ?」

 

 

 

おばあちゃんは「タケノコを擦る」と言っていたけど、何だか大変そうだったので、ゆがいたタケノコを小さく刻むことにした。米粉と卵、少し片栗粉と塩も加えて、油にぽとん、ぽとんと落としていく。

揚げているそばから、これは絶対美味しいな!と確信。やはりつまみ食いが止まらず、大皿に盛りつけたそれらは、かなり少なくなっていた。

 

小さなしあわせ

その日、東京に住む友人からメールが届いた。

「小さなしあわせ、嬉しいことが毎日ありますように!」

私のその日の「小さなしあわせ」は、タケノコだった。そのメールで初めて気がついた。

ある人が届けてくれたタケノコ。たまたま通りかかったおばあちゃんが教えてくれた作り方。友人からのメール。

それらの思いがけない出来事が、小さなしあわせを運んできてくれたのだった。

日々はさまざまな出来事で満ちている。その中にある小さなしあわせに気づく時、いつもそこに誰かの存在がある。私のエネルギーの源は「人」なのだとつくづく思う。

春の玄関先が、最近忘れがちだった大切なことを思い出させてくれた。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
私の一冊

鳥山百合子

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

「はははのはなし」 加古里子 福音館書店

懐かしい!と声を上げる方も多いのではないでしょうか?

加古里子さんの本「はははのはなし」。

「歯は大事!虫歯にならないよう、栄養のあるものをよく食べて、運動をして、歯磨きをして、元気に大きくなろうね!」という子どもたちへのメッセージを、真面目に、ユーモアたっぷりに伝えてくれます。

「ちいさなかすが  はのまわりにのこります。こののこりかすをえさにして  ばいきんがふえます。ばいきんは  かたいはをとかす  さんをつくります。」

よく考えると恐ろしいことを、あっさりとわかりやすい言葉で伝える加古さん。この文章には、白い元気な歯がどんどん溶けて大きな穴があき、最後には半分になってしまう絵が添えられています。かなりリアルで、小さな子どもは震え上がること間違いなしです。

子どもたちにせがまれて何度も読んだこの本の一番の見せ所は、やはり最後のページ。

「こどものはは20ぽん おとなのはは32ほんあるのがふつうです。

だからこどものはは

はははははははははは

はははははははははは

おとなのはは

はははははははははははははははは

はははははははははははははははは

となりますね」

そして最後は

「それではみなさん  さようなら はっはっはっ。」

で終わります。

読んだ後の爽快感といったらありません。

加古さんが世界を見つめるまなざしはいつもあたたかく、子どもたちへの信頼に満ちている。

「おーい!子どもたち。世界は面白いよ!不思議なことでいっぱいだよ!」

そのメッセージを子どもたちはちゃんと受け止めています。子どもたちの顔を見ていたら、そのことがよくわかります。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
土佐町ポストカードプロジェクト

2021 Apr. 一の谷

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone

一の谷 | 長野恵弦 桃也

 

地図上で土佐町を見て左上の位置に稲叢ダムがあります。

町中心部から向かった時に、黒丸とアメガエリの滝を通り越し、稲叢ダムの手前にあるのが「一の谷」。

地元の方に聞くとここは昔、石切り場でありました。

削り出された石や岩は、ロックフィルダムという石を積み上げて作る工法で建てられた稲叢ダムの建材になったそうです。

ダムの工事が終わった後、一の谷に少しずつ桜の木を植え始めた人がいました。谷種子さんというその方は、毎年休むことなく桜を植え続け、今年で24年が経つそうです。

標高が高いので、町中心部とは3週間ほどの時期の差があります。この写真を撮影したのは4月25日。

「植える人」がいてくれたから、一の谷はこの時期にも桜が楽しめる場所になっています。谷種子さんのお話は、また改めて記事にしたいと思っています。

ふたつの小さな後ろ姿は、長野恵弦くんと桃也くんの兄弟です。

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterEmail this to someone
3 / 3123