2020年9月

笹のいえ

台風と結

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道に倒れた木や竹を片付け、車が通れるようになった。そして、優先順位の二番目、止まっている山水を復旧させるため、山に入ることにした。台風の間は節水を心がけていたから、水瓶にはまだ数日分の水があった。最悪すぐに復活しなくとも問題ないが、どうせいつものように水の取り口に枯葉などが詰まっただけだからそれを掃除すればいいと思っていた。

取水口まで歩いていく途中、大きな杉の木が三四本倒れていることに気がつく。ある木は中程から折れて沢に落ち、ある木は根っこを剥き出しにして転がり、別の木に引っかかっていた。ここに7年住んでいるが、こんなことははじめてだった。余程強い風がこの沢を走り抜けたに違いない。「爪痕」と言う言葉がぴったりなほどワイルドに倒れている木々は素直に怖かった。普段通っている道が、倒れた木で迂回しなければいけなかったり、崩落している箇所もあった。足を置く場所を間違えれば、土砂とともに落っこちて、木や泥の下敷きになってしまうかもしれない。ひとりで山にいる僕がもしそんなことになっても、しばらくは誰も気がつかないだろう。

一歩一歩慎重に進みながら、取水口に繋がる黒パイプを辿っていくと、一箇所、倒木の下敷きになっていることが分かった。引っ張ってみてもビクともしない。手鎌以外何の道具を持って来なかった僕に、これ以上できることはなかった。急に不安の雲が心を覆いはじめ、「このまま水が復活しなかったら、どうしよう」。少しずつ焦りはじめた頭をリセットしようと、一旦家に戻ることにした。

翌日、飛んで行った支柱や屋根を片付けるため、友人たちが手伝いに来てくれた。彼らに山水のことを相談すると、皆で見に行こうということになった。午前中に片付けを終わらせてから、再び山に入った。

だいたいの位置関係を説明して、それぞれアイデアを出し合う。ああしてみよう、こうしたらどうだ、と動き出した。下敷きになっている部分を切り取り、別のパイプを継ぐことにする。径違うパイプが必要な場所には、その辺の竹を切って応急処置。あれよあれよと作業が進み、自分ひとりでは修復不可能ではないかと思えた山水が、約一時間後にはまた蛇口から出るようになっていた。パイプから勢いよく出てくる水でびしょびしょに濡れながらも嬉々として作業をする彼らの笑顔を見て、持つべきものは友なのだと心の底から思った。

この地域には昔から「結(ゆい)」と呼ばれる風習がある。人と人が繋がる、助け合いというイメージが一番近いだろうか。これまで幾度となく、地域の方たちの結に支えられてきた。今回、友人は皆地域外から来た者たちであるが、相手が誰であれ、僕はまたしてもこの「結」に助けられたのだった。ひとりで悶々と時間を掛けるより、いっそ周りを頼ってしまった方があっさり解決することもある。ひとりでする作業があってもいい、そして皆で助け合いながら進める作業があってもいいのだ。

山から戻り、すっかり気を良くした僕たちは、その勢いのまま、落ち葉と枝が散乱する道の清掃までこなしたのだった。

心の友よ、本当にありがとう!

 

 

この台風の記事はこちら。

台風10号

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私の住んでいる南泉の集会所の下から山に続いている小道があり、それを進んで行くと、子供達が「だいこん山」と呼んでいる山に辿り着く。

その頃は、南泉地区で所有している山で、木を植えているのではなくて、ソバを植えたり大根を植えたりしていたので「大根山」と呼んでいたのだろう。低い山で、その山の頂上には、大きい大きい(子供の私たちには舞台のように広く大きく思えた)平らな岩があった。

休みの日に子供達だけで、簡単なお弁当を作り、それと空きビンと梶ガラで作った三十センチ位の棒と少しの砂糖を提げて、大根山へと登って行くのだった。

途中の道端のそこここには、赤い丸い野イチゴがたくさん実っていて、それを採ってビンに入れながら三十分位かけて頂上まで辿り着く。イチゴは、小さいツブツブがいくつも集まって丸くそのツブには毛のような細い線がついていてすっぱい味だったので、親に内緒で貴重な砂糖をちょっと持って行き、ビンの中のイチゴを梶ガラでツンツンつきながら、ジャム状になったら砂糖で甘くして、ちょっとずつなめながら甘く楽しいひとときを過ごすのだった。

舞台のような石から北をみおろすと、馬場や森の家や田んぼが絵の様に美しく見えた。

今では大根山は杉や桧の植林となり、山道には野イチゴを見つける事は少なくなったけど、頂上の平らな大きい石はそのまま残っている。その石も、子供達が座って弁当を食べる事はなくなっただろう。

秋になり道端に赤い野イチゴを見つけると、小学生の頃、里山で遊んだ記憶が、鮮やかによみがえる。

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私の一冊

川村房子

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「嘘をつく器  死の曜変天目」 一色さゆり 宝島社

ミステリーはあまり読まないけれど、NHKの朝ドラの影響で「曜変天目」の器ってどんなものだろうと思って読んでみた。

「曜変天目」とは、鉄分を多く含んだ釉薬を鉄釉というが、なかでも黒、黒褐、茶色といった釉調を持つ焼き物は、一般的に天目と呼ばれる。天目という名前は、中国浙江省天目山の禅院で使われていた什器を日本の禅僧が持ち帰ったというところから由来するらしい。うーん、なるほど、と思いながら読んでいくけれど、ひと月もすると、中国からきた焼き物位にしか覚えてないのが悲しい…。

京都鞍馬の山中にて、人間国宝間近と目された陶芸家西村世外の他殺体が見つかった。世外は「曜変天目」を完璧に作っていた。この幻の焼き物を巡る殺人事件を、世外の弟子である町子と保存科学の専門家大学助教授の馬酔木で、一転二転する殺人犯を追ってゆく。

ミステリーは、結果が知りたくて最後が一気読みとなり、夜のふけるのも忘れてしまう。

ちなみに「馬酔木と書いてアシビと読む」。はじめて見る名字で、何度もページを前に戻して確認した。パソコンですぐに漢字がでるのでスマホで調べると、あせびの木の事でした。

 

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2020年の土佐町オリジナルポロシャツのデザインである「地蔵堂の木龍」が、掛け軸になりました!

 

土佐町・早明浦ダム湖畔にあるさめうら荘レイクサイドホテル。さめうら湖を臨む和室の床の間に飾るものがほしいとご依頼をいただき、龍の掛け軸を作りました。ホテルの和室2室に、阿行と吽行の龍がそれぞれ飾られています。

 

 

どんぐりの石川寿光さんと川井希保さんがシルクスクリーンで龍を印刷。シルクスクリーンの作業を手伝ってくれている重光さんが「この古布を使ったら雰囲気に合うかも」と古布でバイアステープを作ってくれました。帆布と古布の相性がバッチリ!

 

 

掛け軸の上下を支えるのは、2018年に開催したとさちょうものがたり編集長の石川の写真展のときに使った竹をリユース。「自分たちの身の周りにあるものを使って、自分たちで作る」ことが、とさちょうものがたりの基本姿勢です。

 

ちょっとおもしろい和室になったと思いませんか?

土佐町地蔵堂の龍や土佐町にある文化の存在が、宿泊するお客さまへ伝わるひとつのきっかけになれたら嬉しいです。

 

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私の一冊

川村房子

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「流浪の月」 凪良ゆう 東京創元社

2020年本屋大賞受賞作品。

普通ではなかったけれど、楽しく幸せに暮らしていた更紗。父親が亡くなり、誰かに頼らなければ生きていけない母親は出て行った。伯母の家に引き取られ、言葉にだして訴えることもできない窮屈な暮らし。

更紗9才、公園で時間をつぶす毎日。その公園には、いつも本をよんでいる大学生の文(フミ)がいた。帰りたくなくて、アパートについて行った。自分というものをわかっていて、理性で必死に抑えているフミ。自分が自分らしくいられる毎日に癒されていく更紗。

何をされたわけでもないのに、誘拐事件となりつかまってしまい「フミー、フミー」と叫ぶ姿がネットで流され、大人になってもつきまとう。

世間の片隅でひっそりと暮らす、フミとの運命のような再会。

慎ましやかな女性がいいと云われていた昭和世代に育った私。「私らあにはわからんけんど、今の時代こういう生き方もあるんじゃねえ」と友人は言う。

心に残る作品です。

 

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笹のいえ

台風10号

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9月6日から7日にかけて九州の西を通過した大型の台風10号は、数日前からネットニュースなどで「これまでに経験したことのないような災害が起こる恐れがある」として、繰り返し注意喚起していた。

僕らの住む高知県中央部は予報では暴風域から外れていたものの、発達しながら四国の西側を通ると予測されていて、しっかりとした養生が必要そうだった。

天気が崩れる前日から、家の周りにある飛ばされそうな物を片付け、雨樋や排水口を掃除した。大雨による山水の断水に備えて、お風呂やヤカンなどに水を貯め、普段は外にストックしてある薪と炭を数日分台所に移動させた。

台風が近づくにつれて、雲は吸い込まれるように北方向へ流れていく。雨がパラパラと降りはじめたところで、雨戸を閉めた。高知への影響はこの日の夜から朝に掛けて高まるという予報で、各市町村では避難所が開設され、警報などを発令していた。

寝るころには雨脚が強くなり、外でゴーゴーと鳴る風の音に、息子は少し興奮気味に「すごいね」と話していた。翌日は月曜日だったが、荒天のため、すでに休校が決まっている。

夜のあいだ吹き荒れる嵐に僕は何度も目を覚まし、何かの音を聞いては「あーあれが飛んだか、明日見つけられるかな」とぼんやり考えたりしていた。

翌朝、明るくなってからも相変わらず雨風は激しかった。

窓から外を見ると、いつもの風景とは何かが違う気がした。草木が雨が叩きつけられ風に翻弄されているから、だけではない。景色がなんかスッキリしてるな。それがどうしてかすぐには分からず、数秒考えてやっと気がついた。薪棚やアースキッチンの屋根がないからだ。その隣でチャーテが巻きついているはずの支柱もない。夜のあいだ、暴風で吹き飛んだようだった。

午後になり雨風が弱まってきたので、周りを見て歩いた。

幸い家に被害はなかった。が、飛んでいった屋根やら棚やらは下にある畑にひっくり返り、その一部はもう一段下の田んぼまで転がっていた。稲の倒れている方向を見ると、山から吹き降ろしが強かったみたいだ。今度は軽トラに乗って、散乱する枝を避けながら、集落に続く道をのろのろと進む。途中倒木があり、車ではそれ以上進めなくなっていた。

状況を把握しながら、頭の中で片付けの段取りを考える。必要な道具は、優先順位は、掛かる時間は、、、その一方で、自然の圧倒的な力に、驚きを通り越して「台風すげー」と感動すらしていた。

それにしても、昔の家は大したものだ。築90年の笹のいえは、あれだけの風にも関わらず、瓦の一枚も飛ばなかった。数メートル先にある自作の棚や屋根は見事に飛ばされたというのに。

家の裏は、人ひとりが通れるくらいの空間を残してすぐ山の斜面だ。土砂崩れでもあったらとても危険なのに、どうしてこんなキワに建てたのだろうと引っ越し当初は不思議に思っていた。

しかし住んでみると、斜面の近くにあることで、山からの北風が屋根の上を通り抜け、上手くかわしているようだった。さらには、東西に流れる川ぞいに吹く風の道からも少し奥まったところに位置していて、向かいの山の杉の木が折れそうなくらい揺さぶられていても、こちら側はとても静か、ということがある。ここに住みはじめた人々は、風の通り道も考えて家の場所を決めたに違いない。

先人の知恵と技術に感心するばかりだが、友人が地域の方から聞いた話では、昨今の温暖化の影響か、降雨量や台風進路の変化など気候の変動によって、これまでの経験が通じなくなってきたと言うことだった。

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私の一冊

川村房子

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「少年と犬」 馳星周 文藝春秋

2020年直木賞受賞。新聞をみて買おうと思っていたら、大大大の犬好き友人から「欲しい」とラインがあり、それならと私は本屋大賞を買って、交換して読むことにした。

傷つき、悩む人々と、彼らに寄り添う犬を描く感涙作!

東日本大震災のあと、岩手県から西へ西へと向かう一匹の犬。

男と犬  犯罪に手を染めた男性
泥棒と犬 窃盗団の外国人男性
夫婦と犬 壊れかけた夫婦
娼婦と犬 体を売って男に貢ぐ女性
老人と犬 元猟師で死期まじかの老人
少年と犬 震災のショックで言葉も出なくなった少年

その時々に出会う人々に寄り添い心癒すが、目はいつも西の方角をむいている。

読む章ごとに胸がつまり泪を誘います。

 

 

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4001プロジェクト

高橋宏郎・由香里 (田井・オンベリーコ)

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土佐町田井に居を構えるイタリア料理店オンベリーコの高橋宏郎さんと由香里さんのご夫妻です。

オンベリーコは、高知の新鮮な食材を使用した本格イタリア料理が食べれるお店として、遠方からもわざわざここを目指してお客さんがやってくるような料理店。

いつ訪れても、その料理には「圧巻」という他ないほどの突き詰め方を感じます。

そのオンベリーコ、奥さんの由香里さんがビン詰ジンジャーシロップの販売を手がけています。

とさちょうものがたりのネットショップでも協力して販売をお手伝いしております。

「野生の」ジンジャーエールが作れるジンジャーシロップ、お客様からは喜びの声が少しずつ届き始めています。

ヨーグルトにかけて食べてます最高ですって声もありました。

ぜひ下のリンクをチェックしてください!

 

 

 

オンベリーコのジンジャーシロップ

 

 

 

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私の一冊

西野内小代

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「神社に秘められた日本史の謎」 古川順弘  宝島社

「金刀比羅宮が神社本庁を離脱」

しかも理由が神社本庁に不信感を抱いたのが原因だというニュースを新聞で読み、信仰って何?神社って何?と思っていた時にこの本が目に留まり、買ってみました。

一回サーッと読んだだけなので、深く理解した確信はありませんが、仏教とも関わりを持ちつつ、秩序を作り上げる為に利用されてきた歴史が綴られています。

そして昭和戦後、国立的だった神社組織の解体、自らが利益追求をしなくてはならない民間企業のような立場に突然追い込まれた歴史。そのような経緯で組織されたのが神社本庁。全国の神社(一部の有力神社は属さず)を包括する宗教法人・神社の頂点です。

聖書を基準とする信仰との歴史の違い・遺伝子レベルに組み込まれた信仰との差を実感しました。

 

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メディアとお手紙

Yahoo!ニュースで紹介されました

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2020年8月27日、とさちょうものがたりが Yahoo!ニュースで紹介されました!

「これ以上、情報はいらない。町の広報誌が雇用、売上、つながりを生む起点に」。

ライターの甲斐かおりさんが、丁寧に話を聞いて記事を書いてくれました。

甲斐さんは先日公開された(すごい人数に読まれたらしい)梼原町の移住の取り組みに関しての記事や、これからの仕事のあり方を探る「ほどよい量をつくる」という書籍の著者でもあります。
あちこちを飛び回って見たもの聞いたことを書く甲斐さんの目から見た、とさちょうものがたりとは?という記事になっています。

 

私たち編集部にとっても、客観的に「とさちょうものがたり」を見つめるきっかけとなりました。とさちょうものがたりは、多くの方たちの支えやご協力に支えられてやってこれたのだとあらためて感じています。

ぜひご一読ください!

 

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