鳥山百合子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「たんたのたんけん」 中川李枝子作, 山脇百合子絵 学習研究社

今にもページが破れ落ちそうなこの本は、「たんたのたんけん」。

「くりのきまちで  いちばんいさましいおとこのこ たんの・たんた」君が、誕生日に「足もとへとびこんできた」地図を手に、探検に出かけるお話です。

たんたは探検の準備をするために、買い物をします。まずは帽子屋さんで帽子を、次にお菓子屋さんでキャンディを、最後におもちゃ屋さんで銀色の望遠鏡を。ヒョウの子「バリバリ・バリヒ」と共に、ライオン岩に飛び乗り、ジャングルを抜け、いよいよ着いたところは…?この先はぜひ本で!こどもが喜ぶこと請け合いです。

私が子どもの頃、惹かれてやまなかったのは、たんたがお菓子屋さんで買ったキャンディの存在です。それは「ザラメのついた、三かくのあかいストロベリィ・キャンディ」で、「口にはいるのがやっとの、大きないちごのあめ」であり、「今すぐなめても、おひるまである」という何とも魅力的なあめなのです。

本を読むたび、そのいちごの味が口の中に広がっていきました。そんな訳ないじゃないかと思うかもしれませんが、子どもの頃は本当にその味がしたんです。きっと、子どもってそういう力があるのです。

挿絵にあるのですが、たんたが行ったお菓子屋さんにはガラスのショーケースがあって、その中にいちごのあめが売られています。このお菓子屋さんに行きたい!と心の底から思っていました。それからもう何十年も経ちましたが、未だこういったお菓子屋さんには出会えておらず。でもまだ諦めた訳じゃありません。いつかどこかで、たんたと同じ本物のストロベリィ・キャンディを味わってみたいです。

 

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読んでほしい

ぶどう

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新聞紙に包まれた四角い包みを受け取った。それは、早明浦ダムを見下ろす眺めのいい土地で新たな生活をスタートさせた友人家族が届けてくれた包みで、カズラのつるで丁寧に蝶々結びがしてあった。

友人は、ぶどうができたので持ってきた、と言った。

友人の住まいには前に住んでいた人が残したぶどう棚があって、もう何年も人の手が入っていなかった。家や畑を少しずつ整えながら草を刈り、ぶどうを狙うスズメバチとも戦いながら、やっと収穫を迎えたぶどうだった。

包みを開けると紫や黄緑、色とりどりのぶどうはみずみずしく、一粒一粒が宝もののように納められている。ぶどうの放つ存在感をしばし味わいながら、友人がこの実りを得るまでにあっただろう苦労や葛藤を思った。でも多分、友人は、持ち合わせていたしなやかさでそれさえも楽しみに変え、道を拓いてきたのだと思う。

笑顔で手を振りながら、友人家族は山に帰っていった。

ぶどうはもったいなくてすぐには食べられなかった。冷蔵庫を開け閉めしては眺め、次の日ようやくいただいたぶどうは、しみじみと甘く、とても美味しかった。

 

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山の手しごと

桂花陳酒を作る

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朝晩に虫の声が聞こえ始める頃、どこからともなく香ってくるのは金木犀の香り。

花を見つけるよりも先に、香りに気づく花です。香りが風にのり、土佐町のあちこちで秋の訪れを教えてくれます。

この金木犀を使ってお酒を作ることができると知りました。その名は「桂花陳酒」。金木犀を白ワインに漬け込んだ香り高いお酒で、中国、唐代の皇妃である楊貴妃が好んだお酒と言われています。

金木犀なら、庭にある!

早速作ってみることにしました。

 

【材料】

・金木犀の花    1カップ (気になるようだったら水でさっと洗って、ペーパータオルで水気を取ってください。ちなみに私は洗いませんでした)
・白ワイン   720ml  (ホワイトリカーでもOK)
・氷砂糖    1カップ  (お好みで調整してください)

 

木のそばに近づくと強い香りがして、顔を木に埋めたくなるほど。私はこの香りが大好きです。家の垣根にしているお家も多いですね。

 

枝を切って、花だけをひとつずつ摘み取っていきます。そっと触れるだけで、花はぽろりと落ちます。この枝からカップ4分の1の花が取れました。まだまだたくさん集めなければ…。1カップ分集めるのは、なかなか大変!

 

 

花についている細い茎は取り除きます

金木犀の量が足りないので、近所の方にお願いして、垣根の金木犀を取らせてもらいました。白い花は、その垣根にあった「銀木犀」。こちらは金木犀よりも少し甘い香りがしました。

 

 

熱湯消毒した瓶に氷砂糖を入れ、白ワインを注ぎます。金木犀はお茶パックなどに入れると、後で取り出しやすいです。

 

 

忘れないように漬け込んだ日付を書いておきます

この写真は漬け込んでから1週間後。金木犀は、足りなかった分を後日足し、大体1カップ分入れています。少し琥珀色になってきたような気が…。

瓶の蓋を開けてみると、金木犀とワインの香りが合わさって、何とも幸せな香りが。蓋を開け、胸の奥に香りを吸い込むのをやめようにもやめれないほど!

金木犀は一ヶ月後くらいに取り除きます。その後、半年ほど熟成させると、さらに美味しくなるそうです。

あ〜!今から半年後が待ち遠しい!どなたか一緒に味わいましょう!

 

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「干す」 西村豊 光村推古書院

日本各地に残る「干す」風景の写真集です。

大根、柿、小豆、くるみなど、食べ物を干す風景はもちろん、びっくりしたのは富士山山頂の山小屋の布団を「干す」風景。「干す」をテーマにしているから当然なのですが、そうきたか!と意表をつかれました。日本一高い場所で干されている布団たちの気持ちよさそうなこと。一回でいいから、ここに寝っ転がって空を眺めてみたいです。

他にも長野県大鹿村で作っている「山塩」を干す風景も。長野県は海がない県なのに塩が取れるのでしょうか?山の地下水が塩水で、それを煮詰めて作るのだそうです。真っ白な塩から立ち昇る湯気の向こうには、山塩を作るお父さんの姿が。ここにその人がいて、この風景があると思うだけで大鹿村へ行ってみたくなります。

私も何か干してみたくなりました。とりあえず布団と、塩漬けしたままになっている梅干しを干してみようかと思います。次の休みが、良い天気でありますように!

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読んでほしい

もちきび

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土佐町に来てから初めて知った「もちきび」。

先日、近所の方からいただきました。
茶色や紫、白の粒々が隙間なく詰まっていて、手のひらに収まるサイズ。茹でて塩をぱらりとふってガブリとかじると、もちもちっとした弾力が。黄色のスイートコーンのようには甘くありませんが、噛めば噛むほど味が出る。かなりくせになります。

その人は「とうもろこしのひげと、粒の数は一緒なんやって」と教えてくれました。調べてみると『ひげは、とうもろこしの「めしべ」。めしべは一つひとつの粒から長く伸びているため、粒の数と同じ本数存在する』のだそう。

もちきびは、明治から昭和の初期まで、高知の山間部で盛んに栽培されていたそうです。毎年種を取り、また次の年に作って種をとる。その営みを繰り返してきた人たちがいるから、この地にも残っています。

土佐町で生まれ育った友人は、子供の頃よくおやつに食べたそうで「もちきび、美味しいでね!大好き」と話していました。

 

ゆがくと、一粒一粒がつやつやと光り、とてもきれい。

もちもち、ぷりぷり。

この歯応えを楽しみつつ、一つは取っておいて乾かし、来年の種にしてみようかと思います。

 

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読んでほしい

8月の花火

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8月最後の日曜日、夕食を食べ終わった頃、外で大きな音がした。森地区で花火の打ち上げが始まったのだ。

土佐町では毎年7月末から8月にかけて、町内の各地域でお祭りが開かれる。昨年と今年は、新型コロナウィルスのため全てのお祭りが中止になった。夏の風物詩であるお祭りがなくなってみると寂しいものだ。せめて花火だけでもと、相川や石原地区など、各地域で打ち上げられている。

小走りで見晴らしの良い場所へ向かうと、暗闇からくぐもった声が聞こえてきた。もうすでに何人かの人が空を見上げているようだった。

すぐそばにある「新井堰」と呼ばれる水路には、山からの水が静かにとめどなく流れている。その水面には淡い光がちらちらと揺らめいていた。

 

花火は打ち上がる。

家の前の椅子に座って空を見上げている人、うちわを仰ぎながら隣の人と言葉を交わしている人。いく人かの子どもの声が遠くなったり近くなったり、行ったり来たりしながら飛び跳ねているようだった。

花火が打ち上がるたび、集まっている人の輪郭と、すぐそばの山の稜線が見える。

最後の花火、いくつもの滝のような白い筋がきらめきながら流れ落ちると、拍手があちこちで起こった。

 

暗闇の中に響く拍手の音は、外出しにくく、人と会うこともままならないコロナ禍のなか、誰もが懸命に自分の暮らしを守り、保とうとしていることを実感させた。

来年はちょうちんの灯りのもと、皆で花火を見上げられたらうれしい。

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読んでほしい

でっかいスイカ

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「スイカ、取りに来や〜」

いつもお世話になっている近所の森岡彰さんが電話をかけてきてくれた。

​​大好きなスイカ!夕方、子どもと一緒に取りに行った。

 

彰さんはいつものように懐深い笑顔で迎えてくれ、こっちへおいでと言いながら倉庫へ案内してくれた。

彰さんはお米を作っている。土佐町の米農家さんの多くが、自宅倉庫に米用保冷庫を持ち、一年分のお米を保管している。30㎏の米袋が何十も入るほどの大きさで、スイカはその中に入っていた。

がっしりとした体格の彰さんが少しよろめきながら、目の前に持ってきてくれた。

 

わあ!

でかい!
あまりにもでかい!

彰さんのスイカは、家庭用冷蔵庫には入らなかったのだった。重さは11.5㎏ほどあったという。(後日、同じくらいの大きさのスイカの重さを計って教えてくれた)

 

これを持つには気合いがいる。体勢は中腰、掛け声も必要だ。

「よいしょ!」

みぞおちにスイカの丸みをしっかりとはめ込んだ。

 

「また取れたら、あげるきね。また来や」

帰り道、よたよたと歩きながら、彰さんの声が身体にじんわりと響いた。

 

さて。

いただいたスイカを我が家の家庭用冷蔵庫に収めなければならない。

このままでは入らないから、ザクリと切った。スイカはぽたぽたと汁をたらしながら、今が食べごろですよ!と訴えてくる。

ガブリ!

う〜ん、これぞ、夏!

その場で8分の1ほど平げ、友人たちにもお裾分けした。

 

自分で育てたスイカを手渡してくれる人がいる。

そのありがたさを反芻しながら、冷蔵庫の扉をゆっくりと閉めた。

 

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「おふろやさん」 西村繁男 福音館書店

お風呂で泳いでおじいちゃんに怒られている子供。帰り際、しゅんとしている子供に笑顔で声をかけるおじいちゃん。石鹸の貸し借りをしている人も。そんな交流がありつつも、お風呂に入っているのは個人個人。ああ、お風呂屋さんってこういう感じだよなあと思い出させてくれる一冊です。

関西に住んでいた時、近くにいくつかお風呂屋さんがありました。小銭をポケットに入れ、気分で場所を変え、歩きや自転車で行きました。暖簾を潜り、番台で当時370円位だった入浴料金を払う。ムンとした空気、天井は高く、お風呂場からは洗面器のカランカランと響く音が聞こえてきました。

大きな湯船は、「ぷは〜」とため息が漏れるほど気持ちがいい。おばあちゃん、おばちゃん、お姉さん、小さな子…。みんなが裸でお風呂に入っている。みんな1日の仕事や遊びや何かしらを終えて、ここに来ている。そんな背中の数々を感じながらお湯に浸かっていると、自分ってちっぽけやなあ〜と思いました。顔をお湯にぶくぶく沈ませていくと、ちょっとしたもやもやも一緒に沈んでいくようでした。

思う存分温まり、ぼんやりした身体に流し込む、瓶のコーヒー牛乳も外せません。

商店街に並ぶ銭湯も、山の奥に静かに佇む温泉も、ジャクジーやサウナがあるスーパー銭湯も、最高。

お風呂は最高の気分転換です。

 

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読んでほしい

土佐あかうしの出産

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ロープで括られた前肢と鼻先が既に見えていた。

「ヨイショ!ヨーイショー!」

掛け声とともに、子は母牛の体内から引っ張り出された。

「はい、できたー!!」

どさっという音とともに藁が散らばった地面に落ちた子牛は、うっすらと目を開けていた。褐色の身体はびしょびしょに濡れ、下半身には白い羊膜が張り付いている。子牛は横たえたままぐったりとしていて、息をしているのかしていないのか、わからない。

畜産農家・上田義和さんは、子牛の鼻にかかった羊膜を取り除き、鼻孔にぐりぐりと手を入れた。呼吸を確保するためだ。子牛は虚ろな目をしている。上田さんが頭と体をゴシゴシふいてやると、子牛は頭を持ち上げ始めた。

「できた、できた!」(土佐町では生きものが産まれたことを「できた」という)

「もう大丈夫じゃ」

安堵した空気が広がった。

産まれた子牛の前肢の先は、きれいな黄色だった。

 

 

 

土佐あかうしの日本一の生産地、土佐町

土佐町は、土佐あかうしの日本一の生産地。土佐あかうしは土佐褐毛牛ともいわれ、高知県の山間部を中心に飼育されている褐色の毛色をした牛のことである。年間300~400頭しか出荷されていない貴重な品種で、赤身が美味しくあっさりした肉質で年々人気が高まっている。

土佐町にはかつて100軒ほどの畜産農家があったが、現在約30軒ほどに減少。各農家は日々、丹精込めて土佐あかうしを生産し続けている。

上田さんは、土佐あかうしの繁殖農家だ。繁殖農家は母牛を飼育し、交配させて子牛を産ませ、それを販売する農家のこと。現在、上田さんは14頭ほどの母牛を飼育している。

また、その子牛を購入して1~2年かけて飼育し、肉牛として出荷する農家は肥育農家と呼ばれる。

 

9ヶ月と10日

牛の妊娠期間は9ヶ月と10日といわれている。上田さんの牛舎には、人工授精した日から数えて9ヶ月と10日後の日付が黒板に書かれ、出産予定日がいつなのかすぐに分かるようになっている。

今回出産した母牛の名は、「153さち」。牛は、その牛の系統で名付けられることが多い。今回、子を産んだ母牛は、さちという系統の153頭目の牛だ。

産後、母牛と子牛は常に共に過ごし、子牛は母乳を飲んで育つ。子牛が生後2ヶ月半になると、母乳は朝晩だけになり、部屋が分けられて乳離れの準備が始まる。生後3ヶ月半頃、完全に母乳から離された子牛は、親と同じ餌を食べ始めるという。上田さんは、藁とカヤ(ススキ)、畔の草など、野生の草を与える。後からソルゴと呼ばれる高きびを加えるそうだ。餌は農家によって異なる。

母牛は、産後40~60日で再び発情を迎え、「種付け」と呼ばれる人工授精が行われる。母牛は、子を産むためにここにいる。

 

生きものとの日常

話は出産に戻る。

「153さち」は子牛を産み落とすと、すぐに立ち上がった。お尻からは鮮血の混じった羊膜がだらりとぶら下がっている。

母牛は子牛の全身をベロベロと舐め始めた。そうやって「ねぶって」、体を乾かすのだそうだ。母牛が子牛のお尻をねぶると、子牛が腰を浮かして立とうとするが、ぶるっと震えてひっくり返る。そしてまた、母牛はねぶり続ける。

子牛は、くの字に曲がった足を懸命に伸ばそうと繰り返していたが上手くいかない。しばらくすると疲れたのか、地面から上半身だけを起こしたまま、立とうとするのを止めてしまった。

 

上田さんは「仕事行くけ」と仕事に出かけていった。

上田さんにとって、土佐あかうしの出産は特別なことではなく日常なのだ。

 

無事に産まれる牛ばかりではない。今まで死産した牛もいるという。母牛が真夜中に産気付き、上田さんは子牛を引っ張り出そうとしたがうまくいかなかった。応援を頼もうにも真夜中では頼みにくい。早朝、知人が到着した時には、もう手遅れだったという。

「生きものじゃけ、うまくいかんこともある。大変よ」

上田さんはそう言っていた。

 

この日産まれた子牛は、夕方、立ち上がった。

 

 

 

肉になる

産まれた子牛は、およそ8ヶ月後、土佐町で開かれる牛の市(嶺北畜産市場)に出される。土佐あかうしを売買できる市はここだけなので、牛の市には県内外から多くの畜産農家が訪れる。

子牛は肥育農家の元で1~2年飼育され、肉になる。

子牛がメスの場合、繁殖農家に買われて子を産む牛として育てられる場合もあるそうだが、今回産まれた子牛はオス。オスは肉になる。

値段はその時々で変わるが、約40万〜60万円で売買されることが多い。

牛舎のそばに上田さんが半日がかりで刈った草が干されていた。柵30メートルほどに渡って隙間なく立てかけられていたが、この量で3日分。暑い夏に大量の草を刈り、この作業を日々継続するだけでも大変な労力がかかる。牛を育てるための餌代は、1頭当たり約40万円、他にも手入れや世話が必要になってくる。

「餌代が高いけ、なかなか大変よ。日に換算したら、仕事があればお弁当を下げて仕事に行く方がマシよ」

上田さんは畜産の他に、農業や土木の仕事をして生計を立てている。

「牛を市に出すのは、どうってことない。売らないと餌代もいるし、かわいそうだと思ってたらやれん」

かわいいだけじゃ済まない話だ。

 

 

 

10日ほど経ってから、もう一度子牛を見せてもらった。子牛はスクっと立ち上がり、元気よく母牛の乳房に吸い付いていた。この子牛が8ヶ月後、市に出される。

この子牛が育つ間にも、出産を控えた他の母牛が新たな子を産む。上田さんは産まれた牛を育て、市に出す。命の営み、育てる人の営みが繰り返されていく。

上田さんは70代。「同じ繁殖農家の友人が母牛を手放した。もうやめると。これでまた一軒、農家が減る。土佐町には若い世代の農家もいるが自分も70代、どこまで続けられるか…」

汗をかき、葛藤しながら、町の産業を支える人たちがここにいる。

 

 

 

上田義和 (中尾)

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「スティーヴ・マッカリーの『読む時間』」 スティーヴ・マッカリー 創元社

ベンチに座って、車の中で、窓辺で、人は読む。

美術館の入り口で、歴史的な寺院の前で、芝生に寝転がって、商売の合間に、人は読む。

地下鉄で、カフェで、土の上に座って、ベットの上で。太平洋上空でも、雪の中ででも、料理をするお母さんの隣でも。

列車を待つプラットホームで、布と木の枝でできた家の中で、人は読む。

人はなぜ読むのだろうか。写真を一枚ずつ見ていて、しみじみと思う。それはひとつの楽しみであり、知らなかったことを学ぶためであり、時には現実逃避することでもあり、どこか祈りにも似た行為なのかもしれない。世界中の人々が同じように読むという行為をするのが興味深い。

この写真集の冒頭に、こんな言葉がある。

『何かを読むと、私たちは自分がひとりではないことを知る。C・S・ルイス』

私は本を読むこと、活字を読むことが好きだ。今まで知らなかった世界、新しいことを知るのは楽しい。前向きな時だけじゃなく、悩んだ時、迷った時、時には暇で何もすることがなくて本を開いてきた。そんな時はいつも、ちょっとした希望のようなものを探しているのだと思う。本の中に自分の「片割れ」や「相棒」を見つけて安心もした。まだ言葉にならない自分の気持ちを、言葉にしてくれていると感じることもある。

自分はひとりではない。人間はひとりではない。

そのことを忘れないでいたいと思う。

 

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