鳥山百合子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「三つ子のこぶた」 中川李枝子 のら書店

まきお、はなこ、ぶんたという名前の三つ子のこぶたの毎日はとてもにぎやか。朝起きてごはんを食べて、遊んで、お昼ごはんを食べる。昼寝して、おやつを食べてまた遊ぶ。夜ごはんを食べて、お風呂に入って、寝る。その合間に喧嘩あり、涙あり、親は休む暇がない。食べたそばから「おかあちゃん、おやつまだ?」。

そう言われたお母ちゃんの気持ちが手に取るようにわかります。

私の息子も同じでした。まだ2〜3歳の頃、さっきおにぎりを食べたばかりなのに「おなかすいた…」。おやつに持ってきた蒸かし芋やらお菓子の存在を知っているからです。「あともう少ししたらね」と言うと「わかった!」と遊びに行く。律儀にも5分後くらいに戻ってきて「“もうちょっと”たったよー」と呼びに来る。お腹をぽっこりさせた幼い子がこちらを見ている姿がどこかいじらしくて「じゃあ一つだけね」と言ってあげる。本当に嬉しそうにガツガツ食べる。また遊んで、そして「おなかすいた…」。日々その繰り返しでした。

繰り返される毎日には忍耐が必要とされ、多くの葛藤がありました。でもその合間には、子どもにも大人にも発見や驚き、楽しみや悲しみ、そして、かけがえのない喜びも確かにあったのです。その時はわからなかったことが今はわかります。どんな時も一緒に成長してきたんだなと思います。私は子どもたちに育ててもらってきたんだな、と。

この本は3人の子どもたちが幼い頃、それぞれに読みました。「おやつまだ?」のところで笑うのも3人一緒でした。身に覚えがあるのでしょう。

子どもたちが小さかった頃のことを懐かしく思い出せる一冊です。

鳥山百合子

 

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私の一冊

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「宇宙兄弟 1巻」 小山宙哉 講談社

私の愛読書『宇宙兄弟』。

子どもの頃からの夢「宇宙飛行士」を先に叶えた弟・南波日々人と、諦めかけた夢を思い出し「宇宙飛行士」になるべく奮闘する兄・南波六太の物語です。上司に頭突きして職場をクビになった六太は、母親が応募したJAXAの書類審査を通り、次の一次審査へ。でも失敗した姿を弟に見られたくない、「俺程度の人間はふるい落とされるってわかってるから」と次へ進むことを自ら諦めようとします。ここで背中を押してくれるのが天文学者のシャロン。日々人と六太は幼い頃からシャロンと星を見つめ、共に楽器を演奏し、多くの良い時間を過ごしてきました。

久しぶりに一緒に演奏しようとシャロンに誘われて躊躇する六太。

「上手くなくてもいいし、間違ってもいいのよムッタ。まずは音を出して。音を出さなきゃ音楽は始まらないのよ」。

幼き日の六太は、シャロンの数ある楽器の中から「一番音が出にくいから」と“金ピカのトランペット”を敢えて選んで吹いていたのです。

「今のあなたにとって、一番金ピカなことは何?」

 シャロンのその言葉で「忘れたふりを続けていたせいか、本当に自分の大事な気持ちを忘れていた」ことに気付いた六太は、一次審査へと臨みます。

シャロンは、六太だけではなく私の背中も押してくれました。いつのまにかうつむいていた自分、そしてそんな自分の肩をポンポンと叩いてもらっているような気がするのです。言葉が誰かを励まし、誰かの日々の瞬間に希望を与える。言葉と物語の持つ力にあらためて気付かされます。

 

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私の一冊

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「よるのびょういん」 谷川俊太郎 作, 長野重一 写真 福音館書店

「あさから おなかが いたいといっていた ゆたか、よるになって たかいねつがでた。おとうさんは やきんで つとめさきの しんぶんしゃにいっている。おかあさんは 119ばんで きゅうきゅうしゃを よんだ。」

お母さんは慌てたように電話をかけ、その傍らで「ゆたか」がおでこにタオルを当てて寝ている。次はどうなるのか、臨場感溢れる言葉と写真が、次へ、次へとページを進めさせます。

ゆたかの手術が無事終わるのを、まだかまだかと待つお母さんの祈りが痛いほど伝わってきます。

「よるの びょういんは しずかだ。けれど そこには ねむらずに はたらくひとたちがいる。びょうしつを みまわる かんごふさん、ちかのぼいらーしつで よどおし おきている ぼいらーまん。おもいびょうきの ひとたちを よるも ひるも やすまずに みまもる しゅうちゅうちりょうしつ。」

私の子どもも入院したことがあります。付き添いながら不安で眠れずにいた時、見回りに来た看護師さんが「どうですか?」と病室に入ってくる。子どもの様子を見て、点滴を確認して、熱を計る。「うん、大丈夫ですね」。その一言にどんなに救われたか。

夜中に手術を終えて、朝を迎えたゆたかの言葉は「ねえ、まんがかってきて」。

お母さんの安堵感はどれほどだったでしょう。

鳥山百合子

 

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読んでほしい

ねむの花が咲いたよ

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今年もねむの花が咲き始めた。
ふわふわとした白い羽毛に紅色を加えたようなこの花は、まるで小さな花火のよう。季節が夏に移り変わりつつあるとき、毎日見ている風景に加わるこの色は、確かに1年間が巡ったのだということを私に教えてくれる。

近所のおばあちゃん、房子さんが言っていた。
「ねむの花が咲いたら、大豆の蒔きどきだよ」

おじいちゃんが亡くなってから、房子さんは口数が少なくなった。この時季、房子さんは大豆だけではなく小豆も植える。前の年に収穫したものを保存しておいて、それを今年の種にする。房子さんの作るおはぎの中にはあんこが入っているのだが、そのあんこも房子さんの小豆でできている。

 

この地の花や木々、空や風、山の色が「この季節がきましたよ」と教えてくれる。その「カレンダー」を、この地の人たちは身体の中に持っている。それを持っているかいないかで、目の前の風景も、世界の見え方も大きく違って見えてくる気がする。

房子さんは、ねむの花が咲いたことをもう知っているだろうか。

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私の一冊

鳥山百合子

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「土佐町資料」 前田和男編者 土佐町教育委員会発行

昭和54年(1979)、土佐町教育委員会が高知市の高校の先生である前田和男さんに町内の神社や寺院、祠堂の調査を依頼、その調査結果が収録されています。

今年の土佐町オリジナルポロシャツのデザインとなった「地蔵堂の大龍」の作者を調べている途中、土佐町教育委員会がこの資料を見せてくれました。

2枚目の写真は、地蔵堂にある棟札の内容です。建立された年、大工さんや関わった人たちのお名前が書かれています。

年代ごとに記録を追っていくと、棟札の裏側に「水災風陸風災風」「水災金意災金蓮」という文字がいくつも書かれています。台風などにより地蔵堂が壊れ、地域の人たちから寄付を募って改修や再建したのではと想像します。

地蔵堂の中に入らせてもらった時に見せていただいた棟札には、木の板に墨で文字が記されていました。昔の人が記した文字が、もう見ることのできないその時代の風景を伝えてくれます。

鳥山百合子

 

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私の一冊

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「おによりつよいおれまーい」 サトワヌ島民話 土方久功再話,画 福音館書店

これは、南太平洋のミクロネシア諸島の中にある小さい島、サトワヌ島に伝わるお話です「おれまーい」は、サトワヌ島に住んでいる男の子。おれまーいは、「生まれるとすぐにはいはいし、4日経つと歩き、8日経つと椰子の葉で編んだ戸を破り散らした」というほどの強い男の子です。

あまりにも強すぎるおれまーいに恐れをなした島の大人たちは、おれまーいを森に連れて行きおれまーいの上に木を切り倒そうとしたり、海に沈めようとしたりしますが、その度ににこやかに帰ってくるおれまーい。ついに、「やにゅう」という鬼が住んでいる「ぴーくしま」に置いてきてしまおうということに。

さてさておれまーいはどうするか?

それはぜひこの絵本を読んでもらえたらと思います。

この本を開くことで、日本とはまた一味もふた味も違うだろう南の島の暮らしの一片を見せてもらっていた気がします。子どもの頃、本に出てくる「ぱんのみ」を一度でいいから食べてみたいと思っていましたが、今でもその気持ちを持ち続けています。

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私の一冊

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「手づくりのすすめ」 自然食通信編集部 自然食通信社

版画の絵と手書きの文字で、豆腐や醤油、お麩、こんにゃくなどの作り方が掲載されています。数年前、柿酢と麹を作った際にはこの本に大変お世話になりました。

最も気になっているのは「水あめ」。さつまいもと乾燥麦芽で作るそうですが、いつか挑戦したいと思っています。(ページを開くだけで作った気になってしまうのが不思議です。)

私がこの本が好きなのは作った人たちの愛情と熱を感じるからです。あとがきに「生産の場と生活の場が切り離され、身近な物の成り立ちさえ見えなくなった都会の中で、都市育ちの私が、単なる知識でない、存在感を持った生活の知恵と出会えたこの取材。それは一面、二人の子の母としての実力を養う得難い場でもありました。」という編集者の方の一文があり、とても共感します。

1987年に出版された本を2006年に新装改訂したものがこの本で、その間19年間。改訂版あとがきには「初版当初からすると私たちの暮らしは、なんと遠いところに来てしまったのか」と書かれています。この時から14年後、2020年の今、私たちの暮らしはどんな風に変化しているのでしょう。

土佐町には、生産と生活の場が共にある環境が今もまだ残っています。その環境があるからこそ培われて来たお母さんたちの知恵も、あちこちに存在しています。町のお母さんたちの家を訪ねて学び、次の世代に残していきたいと思っています。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「ゆうこのあさごはん」 やまわきゆりこ作,絵 福音館書店

きっと多くの人が、この本の作者・やまわきゆりこさんの絵を目にしたことがあると思います。やまわきさんが絵を、やまわきさんのお姉さんである中川李枝子さんが文章を書いた「ぐりとぐら」や「そらいろのたね」はあまりにも有名です。お二人の著書は懐かしい思い出と共に、私の本棚に何冊も並んでいます。

この「ゆうこのあさごはん」は、やまわきさんが文章と絵の両方を担っています。

このお話は簡単に言うと、朝寝坊をしたゆうこが朝ごはんの「ゆでたまご」と冒険に出かけて帰ってくるという内容なのですが、このお話を面白くしているのは、ゆうこが卵と同じ大きさになるためのおまじないの存在です。小指に塩をほんの少しつけてぺろりと舐めると、あら不思議!ゆうこは卵と同じ大きさになりました。そして、卵はにっこり笑って言うのです。「“びゆことおし”のまほうさ!」。

少し前にこの本を読んだ時、このセリフを聞いて「???」となった末っ子。最後まで読んで「“びゆことおし”を反対から読んでごらん!」と伝えると「し・お・と・こ・ゆ・び…。塩と小指!そっか!!」。謎が解け、晴れやかな顔をしていました。

冒険から帰ってきた後、元の大きさに戻る時には「びゆやおとおし」。そう、今度は親指に塩をほんの少しつけて、ぺろりと舐めるのです。

出かけて、ちゃんと帰ってくる。この安心感はなんでしょう。やまわきさんの子どもたちへの優しいまなざしが伝わってきます。

この本は、私が幼い頃にも母が繰り返し読んでくれました。何十年も読み継がれている本の底に流れているのは、作者の愛情そのものではないかと思っています。

鳥山百合子

 

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山の手しごと

ドクダミ仕事

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5月から7月にかけて、庭や道端に咲いている白い花。きっと多くの人が一度は見かけたことがあると思います。

花は可愛らしいけれど、摘んだ時の匂いは強烈。子どもたちが「くさい〜」と顔をしかめるその花は「ドクダミ」です。このドクダミは、日本の三大民間薬草の一つに数えられ、「十薬」と呼ばれているほど幅広い薬効あるそうです。

土佐町のあちこちで白い花を咲かせているドクダミは、とさちょうものがたり作業場の庭にもたくさん生えています。

これ幸いと、色々と作ってみることにしました。この時期だけにできる手仕事です。

 

■ドクダミ茶

まずは、おばあちゃんがよく飲んでいた「ドクダミ茶」。「体にいいのよ〜」と言いながら、食事やおやつの後によく飲んでいました。

【作り方】

1:ドクダミを根っこごと摘み取る

2:汚れが気になる場合はさっと洗って、水気をとる

3:まとめて縛り、逆さまにして風通しの良い日陰に干す

4:カラカラになったら出来上がり。茎ごと細かく切って、お茶にする

 

カラカラに乾いたドクダミ

ドクダミ茶には、解毒作用、利尿作用などがあるそうです。

「お茶の葉を小さな布袋などに入れてお風呂に入れるとあせもに効果があるよ」と近所の方が教えてくれました。

体の調子を見ながら、試してみてくださいね。

 

■ドクダミエキス

他にも「ドクダミエキス」を作ってみました。このドクダミエキスは色々使い道があるのです。

・水で薄めて化粧水に(美白効果があるそうです)
・お風呂に入れて入浴剤に
・虫に刺された時に脱脂綿などに浸して湿布する

作り方はこちらも簡単。

【作り方】

摘んだドクダミのつぼみと葉を瓶に入れ、ホワイトリカーを注ぐだけ。

1ヶ月くらいしたら使えます。

 

ホワイトリカーを注ぎ込みました。瓶は時々振ってください。

調べてみると、うがい薬としても使えるようです。

ドクダミは江戸時代から薬草としての効能が知られていたそうです。昔の人の知恵に頭が下がります。

 

どちらも簡単に作れるので、ぜひ試してみてください。
*効果には個人差があります。肌が弱い方や小さなお子さんは様子を見ながら、少しずつ使ってみてください。

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「THE  PASTRY  COLLECTION」 郷土菓子研究社・林周作 KADOKAWA

世界の郷土菓子を知るために世界各国を旅した林さんが、旅先で味わったお菓子の数々を紹介しています。

ポルトガルのページを開いた瞬間、たまらなく懐かしい気持ちになりました。私が20代の頃、ポルトガルを旅したことがありました。節約旅だったので町の中は歩いて移動が基本、店先に美味しそうなものがあったら(お財布の中身に少し余裕があって、お菓子が高くなかったら)まず食べてみる。観光名所に行くよりも、町で生活している人たちの姿を見たり、市場に行ってパンにチーズとウィンナーを挟んでもらってお昼ごはんにしたり、自由気ままに行きたいところへ行く旅が好きでした。

あれは多分、ポルトという町に滞在していた時だったと思います。町の大通りから細い裏通りに入ると、路地に向かい合うように建っている家々の窓からロープが張られていて、洗濯物の白いシーツが風ではためいていました。その道の途中にあった小さな食堂。その前には小さなガラスのショーケースがあって、白いお皿の上に丸い黄金色の焼きプリンが置かれていました。「このプリンを食べなかったら絶対に後悔する!」そう思って、食堂に入りました。

そこからです。私の一番好きな食べ物がプリンになったのは。

ポルトの町の雑踏、あの道を吹き抜けていた風、とにかくプリンが美味しかった!ということをはっきりと思い出しました。

 

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