「誰かが足りない」 宮下奈都 双葉社
木でできた重厚な扉をあけると「いらっしぃませ」とあたたかな声がした。磨きこまれた床、初めてきたのに懐かしい店の名前は「ハライ」。予約をとるのもむつかしい店である。この店の予約をとろうとする六編の物語。
人は誰かを失い何かを失い続ける。誰かが足りない何かが足りない。
そう感じる時の寂しさも恐れも悲しみも絶望もズーッと続くわけではない。
希望はいろいろな所にあると教えてくれる。
川村房子
著者名
記事タイトル
掲載開始日
山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。
人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。
土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?
みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!
(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)
「つなみ」 ジョイデブ & モエナ・チットロコル 三輪舎
日本人にはなかなかない、この絵のセンスと色使い。発行は三輪舎という日本の出版社ですが、大元のオリジナルはタラブックスというインドの出版社が作ったもの。
タラブックスは、インドの少数部族の画家さんたちと共にこうした絵本を数多く生み出している出版社です。
この一冊に限らず、タラブックスの本の多くはシルクスクリーンで印刷されたもの。
とさちょうものがたり編集部にとっても、シルクスクリーンに携わる者として、タラブックスは憧れと尊敬の会社です。
ただ素晴らしい本を作っているというだけではなく、作る過程、ビジネスとして成立させる過程が素晴らしい。
絵を描く少数部族のアーティストに対する深い尊敬と愛情を感じますし、印刷を担当する職人さんたちをとても大切に考えていることも伝わります。
一言で言えば、「良い絵本を作ってビジネスにする」というのはタラブックスにとっては表面的な目的で、もっと深いところには「みんなをハッピーにする」という大きな目的があることなのでしょう。
そのブレなさ、かっこいいです。気になった方はぜひ調べてみてください。
「雪男は向こうからやって来た」 角幡唯介 集英社文庫
「私の一冊」で既に紹介させていただいた「空白の5マイル」「極夜行」の作者の作品で、第31回新田次郎文学賞を受賞しています。
雪男の捜索隊に誘われ参加した時の記録です。
女性として初めてエベレストに登頂した「田部井淳子さん」も雪男を目撃した登山家の一人だそうです。
雪男の足跡を撮影した登山家等丁寧に取材を重ね、その上で調査隊として、更にもう一度個人として納得のいくまで雪男の痕跡を探し求めた記録です。
最後まで期待を裏切らない展開でまとめられており、偉大な探検家たちの苦悩についての掘り下げにも手を抜いていません。
果たして雪男の痕跡は見つかるのか…?
西野内小代
「ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり1」 Ⅽ.S.ルイス作 瀬田貞二訳 岩波書店
少しずつ長い物語にも手を伸ばし始めた2年生の夏休み前、一冊の本が目に留まりました。
二人の女の子を背に乗せ疾走するライオンと、それを見守る怪しげな生き物が描かれた鮮やかなオレンジ色の表紙。魅惑的なタイトルは『ライオンと魔女』。これは、間違いなく面白い本だ!
帰宅してすぐに本を開きました。子どもだけの疎開、衣装だんすの向こうに広がる異世界、強い力を持つ白い魔女、ハラハラドキドキの攻防…。何とか読み通すことはできましたが、「この物語の本当の面白さをくみ取ることはできなかった」と感じ、「本に負けた!悔しい」と母親に告げたあの時の敗北感は、今でもリアルに思い出せます。
本を楽しむには文字が読めるだけではだめだということ。読解力や物語の背負う世界観を理解する力がないと、隅から隅まで堪能することはできないことに気が付かされたのがこの『ライオンと魔女』でした。本棚でこの本を見るたび嫌われているような心地がして、足早に前を通り過ぎるのでした。
再び『ライオンと魔女』を手にしたのは5年生の夏。なんとなく本に呼ばれた気がしたのです。恐る恐る本を開き、再び訪ったナルニア国の楽しいことと言ったらありません。ルーシーに共感し、アスランに憧れ、タムナスさんの悲劇に心を痛め、エドマンドが許されたことをうれしく思い…。ナルニア国に住人の一人として物語を生き、冒険を心ゆくまで楽しみ、余韻に浸りながらなんとも幸せな気持ちで本を閉じたときの満足感。
あきらめなくてよかった、読み直してよかったとしみじみ思ったことでした。
古川佳代子
「 tupera」 毎日新聞大阪本社発行
先日、高知県立美術館で開催中の「ぼくとわたしとみんなのtupera tupera 絵本の世界展」に行ってきました。tupera tuperaさんの色とりどりの仕事の細やかさ、繊細さ、ユーモアに圧倒されました。
絵本「魚がすいすい」の一場面、雷雲から逃れるためにボートを必死に漕いでいる人たちの腕、水着姿のかわいい女の子に群がる色とりどりの魚たちのうろこ…。細かいひとつひとつが紙でできている。シルクスクリーンで印刷した紙も使っているそう。目の前の作品に向き合うtupera tuperaさんおふたりの背中が見えるようで、このひとつひとつの仕事をよくぞ積み重ねたなあ…と敬服する思いで眺めたのでした。
作品の前に立つと新しい発見がありとても面白くてずっと見ていたいほど。早く行こうよ、と子どもに腕を引っ張られ「もうちょっと!」と粘る。何度も響く「早くー」の声…。後ろ髪引かれる思いでその場所を離れるのでした。
会場にある「パンダ銭湯」の入り口に一歩足を踏み入れ、手ぬぐいを頭に乗せてお風呂に入ればもうパンダ銭湯の一員に。「おならしりとり」の歌は、会場を出たあと何度も「おならしりとりおならしりとり…」と頭の中で繰り返され、口ずさんでしまうのでした。
この本はこの展覧会の作品を掲載したカタログです。何度眺めても楽しい。ですが、本物は最高です!展覧会は3月8日まで開催です。ぜひ!
鳥山百合子
「本屋さんのダイアナ」 柚木麻子 新潮社
この本は少女から大人になっていく2人の女性のダブル主演で綴られている。
小学校3年生のクラス替えのあった新学期。自分の名前が大嫌いな「大穴」と書いてダイアナと呼ぶ屋島ダイアナ。おばあさんみたいな名前だという神崎彩子。家庭環境も何もかも正反対の2人が本好きを通して親友になった。
2人の大好きな「秘密の森のダイアナ」という児童書が、ダイアナのシングルマザーとしてキャバクラで働く母親、子どもが生まれたのも知らず出て行った父親と、編集者に勤めていた彩子の父親が複雑にからみあっている。
そんな2人がささいな事をきっかけに絶交してしまう。お互いを意識しながらも仲直りのきっかけがつかめない2人。
いろいろな事にほんろうされながら10年。本屋さんに勤めるダイアナ。大学生活を終え、社会人への道を踏み出そうとしている彩子。「秘密の森のダイアナ」をきっかけにまたつながりを手繰り寄せていく。
ラストシーンにむけては、目をしばたきながらいっきに読んでようやく眠りについた。
川村房子
「知識ゼロでも分かる日本酒はじめ」 SSI認定利酒師酒GO委員会著, 片桐 了漫画, SSI日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会監修
”新年あけましておめでとうございます”というのを今頃言うのも、素晴らしく野暮天ですね。どうぞ悪しからず。
新年そうそう出遅れてしまった私の一冊ですが、今回は『知識ゼロでも分かる日本酒はじめ』という本でお送りします。(年末年始暴飲暴食で体調を崩していた訳では無いですよ!!決して!!!毎回世間が賑わう時期はアテられて精神的にグロッキーなのです…。)
さて、どうして新年一発目がこのチョイスなのかというと、やはり年末年始のおきゃく、お屠蘇、神前仏前へのお神酒など、日本酒が欠かせないですよね。
更に、特に今の時期はどの酒造会社も、杉玉が熟した焦げ茶から、つやのある深緑に変わる時期です。私の住む酒造会社のある地区でもこの時期は、やはり、特別な時期なのです。
いつだったでしょう、高校生のころ早朝の寒稽古に行くため、裏口を出た瞬間でした。自分が吐いた真っ白な息と、辺り一面に漂う濃厚な、あまくふくよかな酒精の香り。霜が降りて全部蒼く凍えている中、道向かいのレンガの煙突からもうもうと綿飴のような湯気があがっていました。(今年もお酒ができたんだなぁ…)となんだか少し嬉しくなった思い出があります。
正式な社名は「株式会社土佐酒造 桂月」ですが、以降地元の呼び名”桂月”で通します。
さて、私の家族は桂月と共にあったと言っても過言ではありません。
「おまんくには桂月からパイプが通っちゅう」だの、「蛇口を捻れば桂月がでる」とまで言われる始末。お付き合いは初代社長からあったようで、祖父はその時からのヘビーユーザーです。そして桂月銀杯ひとすじ。
今回の著書の解説によると桂月銀杯は本醸造酒にあたり、大衆向けでどんな料理にも合い、燗にしても常温でも冷でもいけるタイプのようです(あってるかな???間違ってたらごめんなさい)。
ちなみに祖父は仕事から帰ると、桂月のワンカップ(耐熱)に一升瓶からまけまけいっぱい注ぎ、それをちゅちゅっと啜り適量にし、レンジで1分から1分半の燗にして飲みます。アテは基本的に竹輪の確率が85%ほど、たまに刺身や揚げ物。物心着いた時には行われていたルーティン。今もほぼ変わりません。
あいた一升瓶をためて、物置から74本も出てきた時は、(すぐ側で庭が広いきお客さんに駐車場と間違われるし、社員の家と間違われて「今日あいてますか?」なんてざらやし、それで案内しちゃったり、うちの物置も桂月の空き瓶置き場でええんちゃう?)と思ったことでした。
ちなみに、この祖父の夕方のルーティンは17時半頃なのですが、小学生低学年のある残暑厳しい日、あまりにも喉が渇いたので祖父母の家に寄りました。出来ればジュースがいいなと思いつつ冷蔵庫やら、戸棚やらを物色したのに、麦茶ひとつない!もう水でいいかと思ったところに、都合よく桂月のワンカップに入った水が。コレ幸いとゴクゴクと…そこに祖父登場。「あらァ!!そりゃワシのぜよおぉ!」という誤飲事故もありました。小学生の私は(怒るとこそこ!?)と思いながら、蛇口から水を飲んだ記憶があります。
あの時は不味かった日本酒も、好きな傾向もある程度定まって楽しめるようになりました。しかも今年度からは家族全員で、あーだこーだと言いながら飲めるのです。
今は桂月でアルバイトもしているので、著作の解説と現物を見ながらより深くお酒のことを知ることが出来ます。著作では、日本酒が大きく吟醸酒、純米酒、本醸造酒の3つにわかれることと、そこから更に香味を分ける、熟酒・醇酒・薫酒・ 爽酒の4つの分類法。甘口と辛口の違いや判別の仕方。また、料理とのペアリングの仕方である、ハーモニー、マリアージュ、ウォッシュについても触れられています。詳しくは読んでください(笑)。
参考までに私は、爽酒の生酒に目がないです。桂月で言えば冬季限定蔵出し生原酒です。少し冷凍に入れて雪冷えの生原酒を飲みだしたら止まらないやめられない。アルコール度数はちょっと高めですが、くせも少なく喉越しもライトで苦手な人で手が出しやすい気がします。あと甘酒は無いと困るほど飲んでいます。
高知県民は特に、老いも若きも飲むこと食べることが好きですよね。
飲みあわせに関しても、各々かなりこだわりがあるように見受けられます。大酒飲みも多いですし、酔うことが好きです。
新成人の皆さんも、両親や友人や職場の人達と飲んだり食べたりして、こだわりを見つけていくのだと思います(弟よ、あんたもだぞ!!)。
でも何となくお酒との付き合い方が分からなくなったら、今回のような本に手を出してみるのもいいかと思います。結局は自分の好みが大事ってかいてますから。
では、お後がよろしいようで。
「ちいさいおうち」 バージニア・リー・バートン文,絵 石井桃子訳 岩波書店
物心ついてから今に至るまで、いつも傍らには本があったように思います。 本は善きもので、信頼に足る存在だと私に教えてくれたのは『ちいさいおうち』でした。
小学校に入学してひと月ほど経った頃でしょうか。父に作ってもらった「代書板(1センチほどの厚さの木の板で背には名前が書いてあり、借りた本の代わりにその場所に差し込む)」を持って、学校図書館に入ったときの感激。どの壁も本棚でうまり、まだ読んだことのない本が想像もしたことのない冊数で目の前にあるのです。こんな素敵な部屋が学校にはあるんだ!すご~い!! けれども1年生が借りられるのは1冊だけです。吟味に吟味を重ねているときに目に入ってきたのが、美しい空色に縁取られた小ぶりな絵本。赤く可愛らしいおうちとシンプルな花の絵も気に入り、表紙を開きました。一冊読み終えるのに、15~20分ほどかかったでしょうか。読み終えたとき、15分前の私とは全く別人のような気持ちがしていました。
なにしろちいさいおうちと一緒に100年を超す長い時間を生き延び、やっと元の場所に帰ってきたのですから。 すっかり老成した気分でため息をつき「本はすごい!この部屋の本を全部読もう!」と決心しました(笑)。
それからずっと今に至るまで、本は魔法の世界に誘い、時には励まし支えながら、親友の1人として寄り添ってくれています。 本の世界に遊ぶ楽しさを教えてくれた『ちいさいおうち』に感謝しながら、今日もこどもたちに本を手渡しています。
古川佳代子