私の一冊

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

古川佳代子

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「本が語ること、語らせること」 青木海青子 夕書房

奈良県東吉野村にある「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」のことを知ったのは、『彼岸の図書館  ~ぼくたちの「移住」のかたち』(青木真兵・海青子著  夕書房)に出会えたからでした。

人口1700人ほどの小さな村の古民家に移住したお二人は、蔵書を居間に開架して私設図書館ルチャ・リブロを開館します。図書館に訪れる様々な人との対話を重ねるうちに、図書館は少しずつ枠を広げ、知の拠点へと発展していきます。とても刺激を受け、共感することも多い本でした。

その私設図書館ルチャ・リブロの司書である青木海青子さんが、図書館での6年間を通じて感じたことを綴ったエッセイが収められたのが『本が語ること、語らせること』です。本書にはエッセイと共に、人びとから図書館に寄せられた悩みに海青子さんと夫でキュレーターの真兵さんの答えた記録が収録されています。

海青子さんたちと同じく本という「窓」を持つことと、本のある場所に身を置き“書物の声を発さずとも人に語りかけ、また語らせる力”のおかげで今の自分があるように思います。毎日のくらしに頑張りすぎている人に「ぼちぼちでかまんきね」の言葉と共にそっと差し出したい本です。

 

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私の一冊

西野内小代

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「水上バス浅草行き」 岡本真帆 ナナロク社

俵万智さんの「サラダ記念日」以来の短歌ブームだと知り、四万十出身の岡本さんの短歌集を買ってみた。短歌集としては大変な売れ行きらしい。

『深すぎるお辞儀でひらけランドセル スーパーボールスーパーボール』

小学校1年生の時の出来事、病身な母はいつも寝ていて、私のお人形さんの服などを手作りしながら帰りを待っていてくれた。

ある日珍しく父親も側にいた。子供の扱い方が苦手な父親は、からかうかお説教が会話だった。

「ただいま」と言っていつものように母親の側にランドセルをおろすと、父親は「中に何も入ってない」と言った。その言葉を鵜吞みにし家を飛び出し学校へと引き返した。学校に到着する直前母が追いついて来た。心臓が悪く安静にしていなくてはいけなかった筈なのに、寝巻を着かえて追いかけ迎えに来てくれた。

私はだまされたのだった。切ない思い出が蘇った。

 

『水上の乗り物からは手を振っていい気がしちゃうのはなぜだろう』

隅田川の水上バスに小学生の孫と乗船した時、橋の下を航行する度に橋から見下ろしている人達に手を振っていたのをホンワカと思いだした。

自分の経験した事柄に近い短歌には、とても共感できる。

 

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私の一冊

石川拓也

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絶望に効くクスリ  Vol.6  著:山田玲司  小学館

 

永田農法創始者・永田照喜治のお話

「絶望に効くクスリ」は漫画家・山田玲司が2003〜2008年にヤングサンデーに連載していたマンガです。

この絶望に満ちたようにも感じる時代・世の中で、何かしらの「答え」を見つけたんじゃないかと山田玲司が感じる人々にインタビュー、ドキュメンタリー形式のマンガにまとめています。

本当に多種多様な人々が出演している作品ですが、今回紹介するのはその第6巻最終話に登場する永田照喜治さんの一章。説明するまでもなく、永田さんは「永田農法」の創始者。亡くなった現在でもその影響を受ける人々は非常に多い。

その章の扉は、上の写真のように始まります。

自然が全てを語ってくれているのに、耳を貸さず…

多くの人が「自然」のことを「本」で知ろうとする

この言葉に僕はドキッとして暫しの間手が止まったのですが、ここには現在の社会の歪みや違和感が凝縮されているように思います。「自然」を「現実」に、「本」を「ネット」に置き換えてみてもいいかもしれません。

その歪みとは何か。一言で言えば、「言葉と行動のバランスが崩れている」ということかなと思います。

昔から「言行一致」「有言実行(または不言実行)」などと表現されていたように、言葉と行動は対になるものとして存在していたはずで、つまり「言ってるだけではあかんよ」ってことですね。

この「言葉だけでは信用されないよ」という価値観が、ネット・SNSの隆盛によってちょっとバランスがおかしくなってるように僕には見えるのです。

この章では永田さんのものとして「農学栄えて 農業滅びる」という言葉が紹介されていますが、農業分野のみでなくさまざまな分野で共通して起こっていることでもあると思います。

経営学栄えて 経営滅びる

教育学栄えて 教育滅びる

環境学栄えて 環境滅びる

そこに何を置き換えても現代の説明になってしまうように感じれるくらい、本質的なものやことからはかけ離れた表面上の物事に多くのお金やエネルギーが費やされているように感じてなりません。

 

 

 

 

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私の一冊

山門由佳

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「12のめるへん」 畦地梅太郎  あとりえ う

畦地梅太郎さんの絵に出会ったのは、土佐町の隣町にあるmont-bellで。 mont-bellのTシャツコーナーで見つけた、髭面の山男の版画が魅力的だった。 力強い線、好きな色づかい、動物や人物の表情もとっても愛らしい。

もっと畦地さんの作品が観たくて、畦地さんの故郷、愛媛県宇和島市にある「畦地梅太郎記念美術館」を訪ねた。 そこで手に入れたこちらの一冊。 畦地さんの思い出話と共に添えられた版画が、これまたほっこり優しい気持ちにさせてくれる。

ちなみに農機具メーカーのISEKIの創立者である井関邦三郎さんも同じ故郷のようで、畦地さんの美術館の横に記念館が併設されていた。

 

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私の一冊

山門由佳

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「さびしがりやのほたる」 エリック・カール 偕成社

蛍の季節になった。 真っ暗闇の中で、ふ〜わりふわりと浮遊する蛍の風情はなんともいえない。

もうひとつ、わたしの密かなお楽しみは…暗闇の中で見知らぬどなたかと交わすひと言ふた言。真っ暗で顔が見えないからこそ、一体感?親近感が湧き、聴こえる言葉がよりいっそう心に温かく響く。

そういえば蛍の絵本ってあるのかしらんと思い立ち図書館へ。 しかし棚に並ぶはかえる、カエル、蛙のオンパレードだった。 静かにお尻が光るだけではキャラが弱いのか、、。

しかしながら、なんとかかんとか図書館の方に見つけ出していただいたこちらの絵本。 まさかのエリック・カール氏。 かの有名な「はらぺこあおむし」の著者のものだった。 しかも〈光る絵本〉とある。 今回は残念ながら電池切れのため、〈光らない絵本〉だったけれど、きっとこれは光ったらすごく楽しい絵本だろうなぁと思った。

 

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私の一冊

山門由佳

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「はじめてのおつかい」 筒井頼子作, 林明子絵 福音館書店

絵本界のレジェンドのおひとり林明子さん。全国の少年少女たちで、この林明子さんの作品を一度も読んだことがないというひとは少ないんではなかろうか。幼子の目線、表情、行動に、こまやかな心の揺れ動きを正確に捉えてらっしゃる。まるで、林明子さんが執筆中は幼子に憑依して描きあげたのではなかろうかとおもうばかり。 だから子ども達に読むと、林明子さんの絵本の世界に完全に没入しているのを感じる。

はじめてのおつかい。誰もが一度は通るミッション。幼い子にとって大いなる冒険。
おんちゃんが運転する自転車が自分の横を通り過ぎるだけで【ビクッ】
サングラスをかけてるおんちゃんに後ろに立たれて【ビクッッ】
太ったおばちゃんのおしゃべりの勢いにもまた【ビクビク】

主人公のみいちゃんのドキドキに子どもたちも自分の姿を重ねながらページをめくる。やっと買えたおつかいの牛乳。

裏表紙の、冒険してひとつ成長したみいちゃんがお母さんのそばで安堵の表情で牛乳を飲み、表紙はその牛乳片手にとびきりの笑顔が眩しい。

 

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私の一冊

西野内小代

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「中先代の乱  北条時行、鎌倉幕府再興の夢」 鈴木由美 中央公論新社

鎌倉時代から室町時代への過渡期、歴史の推論と事実との整合性について古文書などを根拠に追求した書籍です。

北条氏を先代、足利市を当御代と呼び、その中間にあって一時的に鎌倉を支配したことから「中先代の乱」と言われる。

鎌倉時代が終わり、南北朝時代を経て室町幕府の成立へと移行、詳しくは把握していなっかたけれど、北条氏の抵抗はなかなかしぶとかったとこの本を読んで理解した。潔く自害するのが武士の世界と思いきや、何度も逃げて再起を誓う。まさしく北条時行はそういう人物。

たった20日間だけではあったが鎌倉を奪還した事実には、彼のリーダーとしての資質に感服する。

ただ享年25歳、人生のほとんどを一族再興のために戦ったと思うととても切ない。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「産婦人科専門医が教えるはじめての性教育」 仲栄美子 自由国民社

以前、こどもたちに自分を大切にすることや性についてもっとオープンに語れる場を提供したいと「愛 性 命」をテーマとした本の展示企画をしたことがあります。もしも今、企画展をするとしたら必ずリストに入れなくっちゃ、と思ったのがこの本です。

10年間で約200校2万人の小中高校生に性教育講演活動を行ってきた著者に寄せられた、今を生きる生徒たちからのリアルな悩みや質問と、それに対する答えがわかりやすくまとめられています。

少しだけ目次をご紹介いたしましょう。「なぜ毛が生えるの?」「ボクサーパンツってインポテンツになるの?」「デリケートゾーンのにおい、色、毛について」「子宮頸がんも性感染症なの?」などなど。

性教育は「性共育(性と共に育ち生きていくこと)」という著者による本書。家庭で気軽に性の話をしたいと思っていらっしゃる方にオススメの一冊です。

 

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私の一冊

西野内小代

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宝島(上・下)」 真藤順丈 講談社

返還前後20年の沖縄が舞台。

オンちゃんと呼ばれる英雄・豪傑をリーダーとした4人の戦果アギヤー(単なるコソ泥ではなく、戦果をあげて必要とする人々に届ける義賊)が、アメリカの基地から物資を盗み出し世界一の軍隊をキリキリ舞いさせていくという物語で始まる。

そしてある日の嘉手納基地でのアギヤーで状況は一変する。

オンちゃんが行方不明となりそれぞれが傷つき、恋人は狂人のごとき執念でオンちゃんを探し続ける。親友と弟は劣悪極まりない留置場で数年過ごすこととなる。

数年後、3人の幼馴染は教師・警察官・テロリストとなりそれぞれの角度から理不尽極まりない統治下の沖縄を変えていこうと挑んでいく。

様々な伏線が張り巡らされ、史実も組み込まれ、それらが最後でピタッと一点に交わる。

皮膚の質感、大気の湿度ある濃密感、細部に至るまで克明に書き込まれていて50数年前の沖縄が現実として認識できる。

改めて戦争の悲惨さ、敗戦国への理不尽な仕打ちを痛感。

5月13日の高知新聞に次のような作者のコメントがあります。「物語にはジャーナリズムとは違う形で読者の琴線に触れられる機能がある」

戦争状態の地域の悲惨さを報道よりも更に実感できた。

 

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私の一冊

古川佳代子

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「みんなの地球を守るには?」  エリーズ・ルソー文, ロベール絵, 服部雄一郎訳 アノニマ・スタジオ

土佐町で迎える3回目の春が過ぎました。田んぼに水がはいり、大事に育てられた稲苗が風に揺れています。美しい景色を毎日眺められる日々に感謝する毎日です。

一日ごとに山の緑や空の青が色濃くなっていくのを見ていると、かの昔、土地を奪われた酋長シアトルが残したメッセージが心に浮かびます。 「獣たちの身に降りかかったことはすべて、時期に人間の身にもふりかかるものだ」「大地に唾することは自分自身に唾することだ」「大地が人間に属しているのではなく、人間が大地に属しているのだ」「私たちが愛したように、この土地を愛し、受取ったままの姿で子孫に手渡してほしい」。

もしも今、シアトルに「長年受け継いできた豊かな自然をちゃんと守り、受け取った以上に素晴らしいものにして、次の世代の子どもたちに手渡しているか」と問われたら、なんと答えましょう…。

環境汚染は今や地球規模で考えなくてはいけないほど大きくなってしまっているけれど、でも、一人ひとりが考えること、行動すること変えられるよ。何かしようとした時、何になるんだろうって思うことがあるかもしれない。でも大丈夫、小さなことでもまずは始めることが大切なんだよ!と伝えてくれるこの本に出会えたことに、感謝です。

 

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