とさちょうものがたり編集部の鳥山が、2023年春より、高知新聞の「閑人調」というコラムに寄稿させていただいています。
このコラムには数人の執筆者がおり、月曜日から土曜日まで毎日掲載。月初めにその月の執筆者の氏名が掲載され、コラム自体には執筆者のペンネームが文章の最後に記されます。
鳥山のペンネームは「風」。月に2回ほど掲載されます。
同郷
11月、京都国立博物館前で信号待ちをしていた時のこと。後部座席の息子が隣に停車した車に手を振っていた。「どうしたの?」と言いながら見ると、60代くらいのご夫婦が親しげにこちらを見ていた。その表情につられるように私も窓を開けてあいさつすると、お二人はますます笑顔に。
運転席の男性が一言、「妻は仁淀川町の出身です!」。
え!こんな所で高知出身の方と出会うとは!
「私たち、土佐町から来てるんです」と答えると、助手席の女性が身を乗り出すように「近いですね!来年5月に帰ります!」。
次の瞬間、信号は青に。「また!」と互いに手を振り、走り去る京都ナンバー。
多分お二人は停車する際に、隣が高知ナンバーだと気付いたのだろう。同郷と知り、もうそれだけで親しみを込めた視線を送ってくれたのだった。
「高知」。この言葉には強力な引力があると思われる。同郷というだけで声をかけずにはいられない。声をかけられたら応えずにはいられない。時には握手を交わすような勢いさえある。気持ちが伝わってくるようなその人間らしさが、とてもいいなと思う。
わずか30秒ほどの出来事。お二人の優しいまなざしを今も忘れられないでいる。
(風)
2023年12月12日、高知新聞に掲載されたコラム「閑人調」です。
前月に訪れた京都での出来事を書きました。高知ナンバーを見ただけで、親しみを持ってくれる。話しかけてくれる。そして、それに応える私。こういった出来事が生まれてしまうのがなんとも高知の人らしい。京都にいるのに、強烈に高知を感じた出来事でした。
なんというか、こういった何気ないやりとりに救われるような気持ちにもなりました。