朝、窓の外に目を向けると隣人が名付けた『いしはら山』から山霧が立ち昇っています。
小川の向こうには真っ赤な花をたくさん付けた椿の木や、八重桜の古木に絡まった白い藤の花がこぼれるように咲いている景色は朝の目覚めの楽しみのひとつ。
私が土佐町石原に引越してきた時の住処の希望は、窓から木々が見えることでした。
「日本に帰ったら、コンクリートの景色じゃなくて木や花や草に囲まれたところに住もう!」と心に決めていたからです。
その思いは2度目にエジプト・シナイ半島に住んでいた時に強く抱くようになったのかもしれません。
そこは一番近い空港から石ころだらけの砂漠を二時間半も車で行ったところにあるビーチリゾート。対岸のヨルダンが紅海を挟んでうっすらと見えるところでした。
赤っぽい崖、数本の椰子の木や低木が生えた場所は一年を通して滅多に雨が降らないので、海が見える所にも関わらずいつも埃っぽかった印象があります。
緑濃い森や朝露が光っている新緑に益々惹かれるようになったのはその頃から…

山での重機を使った作業の様子
石原には『地域おこし協力隊・林業』の作業場があります。そこには「山と木に関わる仕事をしてみたい。」と、県外から色んな人たちが集まっています。
その中のひとり、井内あきこさんは三年前に地域おこし協力隊として土佐町にやって来ました。元気なあきこさんはそれまで、大阪で事務職の仕事をしながら子育てをしていたとのこと。
大阪に住む間は、両親の実家がある香川にお休みの度に充電を兼ねて里帰りをしていたあきこさん。
消費するために仕事をする、という都市部での生活に疑問を抱いていたそう。
子育てが一段落した時に、自分も自然の中で何かを『産み出す』生き方をしたいと思い、地域おこし協力隊として林業の仕事を学びにここにやって来ました。
3年間、木の伐倒や重機の操作だけでなく、段取りや山師としての心構えなど様々な作業を学んできたあきこさん。
去年からは檜などの精油抽出を始め、独自のブランド『樹キリコ』を立ち上げて商品展開を進めています。今年の協力隊卒業前に自分がやりたい事をここで見つけたようです。

あきこさんの手描きのイラストがブランドの温かなイメージを伝える
そんなあきこさんを支援しているのが、『トサイチヨン』の創始者の一人、窪内ひでゆきさんです。
自営の製材業を営みながら、土佐町議会の議員さんとしても長年活躍してこられたひでゆきさんは『合同会社いしはらの里』の役員でもあります。いつも石原地区のために日々奔走している姿は地元愛に溢れています。
三年前に『トサイチヨン』を長友さんや山門さんと立ち上げたのは、地域おこし協力隊を卒業した人たちが馴染んだ森林や人間関係を離れる事なく生計が立てられるようにサポートする目的があったそうです。
今ではいろんな学校の修学旅行や遠足のプログラムの一つとして人気の『木工体験』も『トサイチヨン』の事業です。

大人も子供も夢中になる木工体験
国土の約7割が森林に覆われている日本で生きる私たち。多くの恩恵をそこから受け取っているけれど、どういう風に森は育てられ護られているのか…
木の小さなかけらを使っておもちゃやネームプレートを作るだけでなく、実際にチェーンソーを持ってその重さを実感してもらいながら、この豊かな森林を守り育てることについても『木工体験』では学ぶことができるそうです。
§
今、『いしはらの里』では新たな体験プログラムを組み立て中です。あきこさんの檜オイルもその一つ。
緑に囲まれた石原で元気なあきこさんと楽しくおしゃべりをしながら、その香りを自分で作る体験ができる。お店でアロマオイルという商品を買うだけでは知り得なかった発見がありそうです。

精油の材料となる檜のチップ
木や草花は生き物にとって必要な酸素や木材などを与えてくれるだけでなく、癒す力も与えてくれます。
私たち人間がそのお礼に森や林を手入れし、新しく苗を植えて育てていくという循環を健全に保つ取り組み。今の私たちだけでなく次の世代が豊かに暮らせるような環境を整えていくため、林業に関わる人材を育てていくことの大切さ。
ひでゆきさんやあきこさんの言葉からその思いが伝わってきます。
§
新緑が目に眩しい季節が今年も訪れています。窓の外に目をやると、陽の光に輝いた美しい緑の景色が広がる石原。
窓を開け深く深呼吸し、草木の芳しい香りを胸いっぱいに取り込んで今日も一日を始めよう。




