少子化を逆手に取った、過疎地ならではの取り組みができないだろうか。『とさちょう七夕プロジェクト』は、僕達のそんな想いから始まった。集まったのは、僕の他に土佐町の社会福祉協議会、役場の総務企画課、教育委員会の代表者たち。最初の作業は、土佐町小中学校の児童225人が七夕の短冊に書いた「夢」の仕分けだった。
「プロ野球選手になりたい」、「パティシエになりたい」などの一般的なもの、「林業をやりたい」、「お父さんお母さんと牛を飼いたい」などの土佐町らしいもの、「魔法使いになりたい」、「瞬間移動できますように」などの子どもらしいもの…。集められた色とりどりの夢に、僕たちは目を細めた。
二つの夢が僕達の目にとまった。一つは、「いなかのうまいバスの運転手になりたい」。4年生のあいる君の夢だ。聞きとりをすると、おもしろい情報が出てきた。彼の夢は保育園のころからずっと同じだということ、きっかけは地域旅行で乗った大型バスで運転席の真後ろの席に座ったこと、家ではカゴに目的地を貼った自転車で弟とバスごっこをするくらい好きだということ…。「なんでバスの運転手になりたいの?」と、あいる君に訊くと、「かっこえいきよ」と目を輝かせて答えてくれた。「都会じゃいかんの?」と訊くと、今度は目を丸くして首と手を振りながら「いかん、いかん。人が多いき危ないき!」とあいる君。将来は、土佐町みたいな田舎で、制服を着て、帽子をかぶってバスを運転したいのだと教えてくれた。
もう一つは、「6年生のみんなと遠足に行きたい」、というここみちゃんの夢。実は、彼女は重い心臓病を患っていて、5年生の合宿も6年生の修学旅行も行けなかった。なんとかしたいね、と実行委員の気持ちが動いた。ただ、話し合う中で、様々な困難が浮上した。ここみちゃんの心臓を考えると、あまり遠くにも行けない。ピクニックに行ったところで、ここみちゃんができることは限られている。町が所有するバスは無料で借りられても、運転手を雇うにもお金がかかる。想いだけで動き出したプロジェクトなので、予算はなかった。
とりあえずあいる君の夢から始めよう、と地元のバス会社、嶺北観光に相談に行った。最初に取り次いでくれたのはなんと、あいる君の憧れの運転手、伊藤さんだった。話すと、「ええやん。俺も小さい頃からずっとバスの運転手になりたかったきよ」という感慨深い返事。伊藤さんが、社内で協力してくれそうな石川さんに繋いでくれ、太っ腹な社長さんがバス旅行を無料でプレゼントしてくれることになった。
そうなると話は早い。二つの夢をドッキングして、あいる君を乗せたバスで6年生の遠足をすることになった。行き先は土佐町から車で1時間離れた映画館。映画なら体を動かさずに済むし、何よりもここみちゃんは一度も映画館で映画を見た経験がなかった。学校の許可を取り、6年生たちに話をし、保護者の了解をとった。6年生の有志がバスレクを企画してくれることになった。嶺北観光のご厚意で、大型バス、高速代、旅行保険、燃料代のすべてを無料で提供してくださることになり、保護者の負担は映画代とスナック代の1200円のみですんだ。
クリスマスの日。終業式を終えて校舎から出てきた6年生を、一台の大型バスが出迎えた。降りてきたのはスーツ姿で帽子をかぶり、胸に嶺北観光の名札まで付けたあいる君。実はこの日のために車両点検やアルコール検査、車内アナウンスのしかたなどの研修を受けていたのだ。まだ何も知らないここみちゃんは、何が何だかわからない様子。事情を話すと目を輝かせ、彼女へのサプライズに成功した6年生の子たちは、してやったりと笑顔を見せた。バスレクも盛り上がり、何人かの子は初めての映画館を堪能し、あいる君はその間自分のヒーローとの夢のような時間を楽しんだ。
2つ、印象的だったシーンがある。一つは、制服姿のあいる君が最初に行った車内アナウンス。「本日は、嶺北観光をご利用くださりまことにありがとうございます。このバスの運行は、伊藤と筒井が担当します。安全運転でまいります。よろしくお願いします」。堂々として、どこか誇らしげだった。


二つ目のシーンは、遠足終了後、降ろしてくれたバスを見送るここみちゃんのあいさつ。他の子よりひとまわり体の小さい彼女が、ぺこりと頭を下げ、誰よりも大きな声で言った。「ありがとうございました!!」
数日後、学校を訪ねた私に、ぽっちゃり系でリーダー格の男の子が寄ってきて、僕の腕をつかんだ。
「どうした?」
「この前はあいるの夢かなえたろ?今度はおれの夢かなえてや」
「何になりたいの?」
「保育士」
予想してなかったその答えに、なんだか心がほっこりした。
(雑誌『教育』2019年4月号より転載)





