鳥山百合子

 

 

山の人、町の人。先祖代々住む人、都会から越してきた人。猟師さん、農家さん、森の人、職人さん、商店さん、公務員…。

人口4,000人弱の土佐町にはいろいろな人がいて、いろいろな人生があります。

土佐町のいろいろな人々はどんな本を読んでいるのでしょうか?もしくは読んできたのでしょうか?

みなさんの好きな本、大切な本、誰かにおすすめしたい本を、かわりばんこに紹介してもらいます!

(敬称略・だいたい平日毎日お昼ごろ更新)

私の一冊

鳥山百合子

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「灯をともす言葉」 花森安治 河出書房新社

「暮しの手帖」初代編集長の花森安治さんの言葉を集めた「灯をともす言葉」。

本の冒頭にはこんな言葉が書かれています。

「この中のどれか一つ二つは すぐ今日 あなたの暮しに役立ち

せめてどれかもう一つ二つは すぐには役に立たないように見えても

やがて こころの底ふかく沈んで いつか あなたの暮し方を変えてしまう」

本を読むときは、まだ見ぬ新しい世界と、今の自分自身の居場所を探しながら、言葉を追いかけているような気がします。

はっとさせられる言葉、じんわりとしみこんでくるような言葉、書き留めておきたい言葉。

今まで出会った言葉たちが「こころの底ふかく沈んで」、今の自分のこころあり方をつくっているんだろうなと思います。

鳥山百合子

 

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読んでほしい

高峯神社への道 その1

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これは高峯神社の守り人、筒井賀恒さんと一緒に、高峯神社への道しるべを辿った記録。

今日は「地図上1」の場所にある石碑についてのお話です。

 

(「高峯神社への道 はじめに」はこちら

 

もう数え切れないほどこの場所の前の道を通ったことがあった。何度もこの場所を見てきたはずだった。

でも私は何も見ていなかった。

この場所に、高峯神社への道しるべが建っていたなんて今の今まで全く気づかなかった。

 

「三宝山道」

ここは土佐町地蔵寺地区、相生橋のたもと。

これは高峯神社への最初の道しるべ。
これから先の道々にあるいくつかの石碑を順番に辿っていくと、あの高峯神社へ着くという。

石碑が作られたのは今から200年以上前のこと。

 

石碑の右側にはこう書いてある。「従是 右 平石通 一里三十丁    左 石原通 二里八丁」

この石碑がある場所は、右の道を行ったら平石地区方面、左の道を行ったら石原地区方面へ向かう道の分岐点。

石碑の上には石の階段が何段かあり、山の中の道へとつながっているようだ。しかし、草や木に覆われていて道が続いているのかいないのか、全く先が見えない。

昔は今のような舗装された道路はないので、昔の人は山の中の道を歩いて高峯神社へ向かったそうだ。歩く人がいなくなって今は草だらけになっているけれど、その道はまだ存在しているのだと賀恒さんは教えてくれた。

「昔の人が歩いた道を見たら、まあ感心するろうと思う」
賀恒さんはそう言った。

 

この場所からは、まだまだ遠い高峯神社。

ここから高峯神社への道が始まる。

 

(「高峯神社への道 その2」へ続く)

 

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あなたは高峯神社に行ったことがあるだろうか。
まだ行ったことがないのなら、ぜひ行ってみてほしい。

 

風渡る高峯神社。
向こうの谷の間から、遠くの山々の嶺から吹いてくる、凛とした風。

本殿へと続く苔け蒸した参道の前に立つと、枝々の間を通り抜けた木漏れ日がちらちらと揺れ、朝露を含んだ苔が静かに自ら光を放つ。

 

鳥居をくぐり、一段、一段を登る。
木々のどこかに隠れているのか、遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。遠く向こうから聞こえるような、それでいて耳元でささやくような音は、木の葉たちが揺れる音。

境内へ向かう階段の両脇に立つ石灯篭には、かつてこの神社へ寄付をした人の名前が刻まれている。

はるか遠い昔にこの石段を登ってきた人たちも、きっとこの風を感じながらここに立っていたのではないだろうか。

その人たちの気配をそばに感じる。

歴史は繰り返されている。

 

本殿を見上げながら、靴を脱ぎ、ぎし、ぎし、ぎし、ときしむ音を聞きながら木の階段を登る。
青銅色の冷たい床の上に正座し、呼吸を整える。

ここには神様がいると思う。

 

ガランガラン、ガランガラン。

静寂の中に鈴の音が鳴り響く。

この音は私にとって特別だった。
ここは初心に帰る場所。

 


 

 

これは、土佐町の地図。

この地図の左下に「芥川」という地域があります。土佐町の中心地である田井から、車で約50分。

「高峯神社」はこの芥川にあります。

とさちょうものがたりでは、今まで高峯神社についての記事をいくつか掲載してきました。

 

 

この高峯神社をずっと守り続けてきた人がいます。

筒井賀恒さん。昭和8年生まれ、85歳。

 

高峯神社のことについて知りたかったら賀恒さんに聞いたらいい、と黒丸地区の仁井田亮一郎さんが教えてくれました。賀恒さんは、70年間ずっと高峯神社のお世話をしてきた人だから、と。

初めて賀恒さんを訪ねた日、賀恒さんは家の前で待っていてくれました。約束の時間のずい分前から、今か今かと家の前の道を行ったり来たりしながら待っていてくれたようでした。笑うと目尻が下がる、話したいことをたくさん持っている人だということがわかりました。

 

会ってすぐ挨拶もそこそこに「道案内からしようか?」と賀恒さんは言いました。
賀恒さんは、最初から高峯神社を案内するつもりでいてくれたのです。

「高峯神社までの道しるべがあるよ」

賀恒さんはそう言いました。

 

道しるべ!!

まさかそんなものがあるとは夢にも思っていなかった編集部。その場で「ぜひ教えてください!」と賀恒さんにお願いしたのでした。

 

そして、賀恒さんとの高峯神社への旅がスタートしたのです。
それは、とさちょうものがたり編集部が、高峯神社へのまなざしを深く持ち直すための旅でもありました。

 

 

高峯神社への地図

 

この地図は高峯神社までの道を描いています。土佐町の地蔵寺からスタートし、芥川の高峯神社まで。地図上の数字は、今から200年ほど前に作られた高峯神社までの道しるべ(石碑)のある場所です。

賀恒さんは、地図上の1〜7の石碑と高峯神社を案内してくれました。

石碑のひとつずつ、そして高峯神社を順番に紹介していきたいと思います。

 

(「高峯神社への道 その1」へ続く)

*道しるべの存在を教えてくれた筒井賀恒さんの記事はこちらです。

筒井賀恒 (東石原)

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私の一冊

鳥山百合子

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「くろて団は名探偵」 ハンス・ユルゲン・プレス著, 大社 玲子訳 岩波少年文庫

確か4年ほど前だったでしょうか。この本と出会った時の驚きを何と言い表したらいいのでしょう。
本屋さんの児童文学コーナーをうろうろしていた時、目に入ったこの表紙。

「あ!」

思わず出た自分の声に驚きながら、この本を開きました。

「やっぱり!」

確かに見覚えがありました。何度も何度も読んだ、私が大好きだった本でした。

「くろて団は名探偵」との初めての出会いは小学生の頃。学校の図書室にあったこの本が、図書室の本棚のどこにあったかまでも覚えています。図書室にあったものはハードカバーで、これよりもふた回りほど大きな本でした。

今でいう「ゲームブック」のようなものと言ったらいいでしょうか。

お話を読み進めて行くと、いつも最後に質問があって、その質問の答えを隣のページの絵から探すのです。
2枚目の写真の絵、「さいころ形のもの」を持っているのは「かもしか薬局」の「薬剤師のハーン氏」。

ああ、懐かしい絵。
確か、秘密はハーン氏の持っている本にあったはず!!!

私はそんなことまで覚えていました。

小さい頃に夢中になったものごとは思っているよりもずっと長く、ずっと深く、その人の心の中に残っていくのだと思います。

こどもたちは幼ければ幼いほど、自らの環境をつくることはできません。そう思うと、子どもの周りにいる大人たちがどんなことを大切に思っているのかが問われるように思います。
見た目や流行、そういうことではなく、人として「本当に」大切なことは何か。

懐かしいこの本が、色々な思いを運んできてくれました。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「ぐぎがさん、ふへほさん、おつきみですよ」 岸田衿子作, にしむらあつこ絵 福音館書店

この本の絵を描いているにしむらあつこさんは、昨年11月に土佐町に来てくれた絵本作家、西村繁男さんといまきみちさんのお子さんです。

ある日、大きくてずっしりと重い封筒がポストに入っていました。「誰からな?」と見てみると、いまきさんから!ご自身の絵本とあつこさんの絵本を一緒に送ってくださったのです。これはそのなかの一冊。

子どもたちも大好きで、寝る前に「読んで」とよく持ってきます。でも「ぐぎがさん」って、なんだかとっても言いにくくって、いつも「噛んで」しまいます。そのたびに「あ!また!」って、子どもたちはとても喜びます。

「ぐぎがさん」。といつかさらっと言えるようになりたいものです。

鳥山百合子

 

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「のはらうた」 工藤直子 童話屋

かまきりりゅうじ、こぶたはなこ、あらいぐまげん、ふくろうげんぞう、つくしてるお…。みんな、この本「のはらうた」に載っている詩の作者たち。

「のはらみんなのだいりにん」である工藤直子さんが、作者に代わって代筆しています。版画は、ほてはまたかしさん。

かつて幼稚園で働いていた私は、子どもたちとよくこの本を開きました。
庭でかまきりを見つけて「かまきりりゅうじがいたよ!」と教えてくれたひろくん、今どうしているかな…。

中でも私はこの2枚目の写真に写っている「かたつむりでんきち」のこの詩が好きでした。

「のはらうた」の詩と版画は毎年カレンダーになるのですが、土佐町小学校の図書室のそばにこのカレンダーがかかっているのを見つけた時は、懐かしい友だちに会えたようでうれしかったです。

鳥山百合子

 

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私の一冊

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「広島の原爆」 那須正幹 文 , 西村繁男 絵 福音館書店

広島に原爆が投下される前と後の町の様子が、この本には描かれています。

本の後ろには一枚ずつの絵の中に番号がふられ、描かれている場所や人々の様子の細かい説明が文章でも記されています。西村さんは、被曝当時10代〜30代だった方たちの証言や資料を元に客観的な事実を描こうとしたそうです。

ある絵に描かれている「交番の仮眠室をのぞいているなっぱ服(作業服)の少年」の説明です。

『少年は赤十字病院入り口で被曝した。その時の様子を「すぐ捜したのが弁当箱とメガネでした。私は小学校三年生くらいからメガネなしでは、何もできんかったぐらいですから。それで、地べたを這いまわしてやっとレンズ一枚拾いました。縁は焼けとりました。そのレンズを持って、目にかざして方向をあてながら走るんです」と手記に書いている。』

確かにメガネをかけた少年が交番と隣の食料品店の狭い隙間にたちながら、交番の中を覗き込んでいます。
絵に証言が重ねられると、その絵が急に自分のそばに近づいてくるような感覚になります。
この場所で暮らしていた人たちの「事実」がとても細かく記されているのです。広島という町で暮らしていた人たちの生活や思いや人生がたしかにここにあったのだという西村さんの叫びが、一枚ずつの絵の中から聞こえてくる気持ちがします。

西村さんはこの本をつくるために一年近く広島に住んで証言者を訪ね、資料を探し、そのあとも何度も足を運び、より克明な絵を描くために長い時間をかけたそうです。

昨年、土佐町に来てくださった西村さん。あの笑顔の向こうには表現者としての並々ならぬ思いがあったのだ、とあらためて感じています。

鳥山百合子

 

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「10才のとき」  高橋幸子聞き手, 西村繁男絵  福音館書店

昨年土佐町に来てくれた西村繁男さんにプレゼントしていただいた一冊「10才のとき」。

日本各地に住む人を訪ね、その人が10才だったときのお話を聞いていきます。

その人の年齢は様々で87才、26才、45才、66才…。当時は学童疎開中だったり、ベーブルースが日本に来たり、スズメやモグラをとったりイタドリで水車を作ったり…。

あたりまえのようなことですが、それぞれの人がそれぞれの場所で「10才」というその時を生きていた、ということにはっとさせられます。

私の知っている、あの人も、あの人も、この人も、かつては子どもだった、10才だったときがあったのです。

その時はまだお互いに知らなかったけれど、「ご縁」という糸やいろんな出来事がからみあいながら、自分の知らないうちに知らないところでそっとその人とつながっていた。だから出会えたんだなあと思うと、その人と出会えたことはものすごい奇跡だ!と思うのです。

みんなみんなが、奇跡の存在。まちがいないです。

鳥山百合子

 

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私の一冊

鳥山百合子

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「だいじなくつ」 にしむらあつこ 福音館書店

この本の作者、にしむらあつこさんは、昨年土佐町に来てくれた西村繁男さんといまきみちさんのお子さんです。

あつこさんの「ゆうびんやさんのホネホネさんシリーズ」を子どもたちとよく読んでいたので、そのことを知った時はとても驚きました。

このお話は「ももちゃん」がお母さんに買ったもらったお気に入りの靴がなくなってしまって、あちこち探したけどなかなか見つからない。ももちゃんの靴を間違えて履いてしまっていた子も自分の靴を探していて…、最後はちゃんとお互いの元へと戻ります。

誰でも経験するような身近な出来事が一冊の絵本になっていて、ひとつひとつを大事に受けとめているあつこさんのまなざしを感じます。

最後「みつかってよかった、わたしのだいじなくつ!」の言葉に、「うん、うん、ほんとうによかったね!」って思わず言いそうになります。

それにしても、こどもの靴は色も形もサイズもさまざま。この前家に遊びに来てくれた子たちの靴が玄関に散乱、そして何人もが一斉に外に出ようと大混雑。そんな中でも「これ私の靴!」ってすぐに見つけられるのは、こどもの素晴らしい才能!と思うのです。

鳥山百合子

 

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「とちのき」 いまきみち 福音館書店

昨年、土佐町に来てくれたいまきみちさんが送ってくれた一冊です。

この本をスライドにしたものをみつば保育園でも上映してくれました。

とちのみはとてもアクが強い実です。とちもちを作るために、とちのみを何日も川の水でさらし、灰とお湯を混ぜて煮詰めた中に味を入れてアクを抜くのだそうです。

そしてもち米と一緒に蒸して、ぺったんぺったん!

なんて美味しそう!

いまきさんの穏やかな優しい声が聞こえて来るようです。

「またらいねんも とちもちをたべたいな」。

季節はめぐっていきます。

いまきさん、またお会いしたいです。

鳥山百合子

 

 

 

*いまきみちさん・西村繁男さんご夫妻が、土佐町に来てくれた時の記事はこちらです。

西村繁男さんが土佐町にやってきた!

 

*土佐町に来た後、西村繁男さんがエッセイを寄せてくださいました。

土佐町と若い人たち

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